制御と振動の数学/第一類/演算子法の誕生/演算子法の合理化

Heaviside の着想は大変優れたものであり, 多くの正しい結果を導いた. しかしながら数学的に首肯しかねるところが多い.

 

とか

 

と置くことには問題はない.しかし,

(1)   の関数(例えば  )で割る
(2)    のべきで展開する
(3) 部分分数に分解する

などは   が数であるならば差し支えないが,そうでない場合は極めて問題である. このような疑問もあって,彼の仕事は生前は必ずしも正しく評価されなかったという. しかしその成果の豊かさには目をみはるものがある. そのことが,幾人かの数学者の注意を引き、1920 年前後には,T. BromwitchK. W. WagnerJ. R. Carson などにより,正当化が試みられ, 多くの応用を生み,これらは,G. Doetsch による Laplace 変換による厖大な著作[1] としてまとめられている.


さてその合理化の方法であるが,

 

すなわち,微分すれば   倍となり,積分すれば   となる関数は手近なところに見出される.それは指数関数

 

である.ここに   は実数または複素数である.この事実に留意して   に対する微分や積分を   に肩代わりさせることを試みよう. それは部分積分[2]を通じて可能となる.すなわち

関数: 
導関数: 
原始関数: 

とすると,部分積分は

  
  

に変える技法であるから,まず


(a)

 

とおくと,

 [3]

となる.ここで,

 

となるならば[4]

(1.18)
 

となる.そこで今,

(1.19)
 

のような対応(積分変換)を考えると,式 (1.18)

(1.20)
 [5][6]

となる.


(b)

次に,

  [7]

とおいて部分積分を考えると,

 
 [8]

となる.ここでも,

 

となるならば,

  

となる.対応 式 (1.19) を考えれば,

(1.21)
 

を得る[9]. 式 (1.20)(1.21) は我々が求めていた関係である[10]. つまり,変換式 (1.19) によって   の関数を   の関数に変換すれば,   の領域での微分や積分が,  の領域では   を乗除することに対応することが証明されたのである. ここでは   は数であるから,  に関する演算に係わるわだかまりは氷解するのである. このようにして,少なくとも,1930 年頃までには,

 
 

なる関係式が見出だされ,演算子法の合理化が完成したのである.しかし現在では,

(1.22)
 
(1.23)
 

が用いられている.この方が部分分数分解などを行う際の計算が楽になるのである. この式は,これより以前に Laplace (1749-1827) によって用いられていたので, 式 (1.22)Laplace 変換(Laplace 積分), 式 (1.23) を Laplace の逆変換(Bromwich 積分, または Laplace 積分の反転公式)と呼んでいる. この対応を,

 

あるいは,

 

などと記す.この対応(変換)により,微分・積分が,  の乗・除という代数演算に変換され,それに伴い微分方程式が代数方程式となる.そして, この原理によって,微分方程式を解くことができるのである.このような方法で,ある種の積分方程式や差分方程式を解くこともできる. このような考え方は,特に新奇なものではない.これと類似の演算技法はすでに経験済みである. 対数をとることによって,掛け算を足し算に変えたあの技法を思い出せばよいのである.



  1. ^ Handbuch der Laplace-Transformation 3巻 (1950, 1955, 1956, Springer)
  2. ^ 部分積分を復習しておく.関数   の積    による微分は
     
    ゆえに  
    両辺を   で積分すると  
  3. ^   を積分、  を微分した.
  4. ^   は実数) ならば,  のとき可能.このような   を指数位の関数という.
  5. ^ さらに精緻にみていく. .したがって
     
    ここで式 (1.18) よりただちに
     
    ゆえに  
      を各項に分配して  
    ここで   だから
     
  6. ^ (1.12) と比較せよ.
  7. ^ 部分積分   を適用する.
  8. ^  
  9. ^  .したがって
     
      であるから,
     
    ここで   だから
     
  10. ^ さらに 式(1.13) については,  .(ただし  
    また式 (1.14a) については,   および   より  
    (1.16)(1.17)については,
      と置くとき,
     …①,  …②
    ①②より  
    すなわち  
    また