前節で述べた複素振幅の方法に関連して,安定論の立場から若干の補足をしておこう.
(4.15)
は安定な微分方程式としておく.つまり とおいた同次式の解は,十分時間が経過した後では消えるものとする.なお式 (4.15) の係数は実数であるとする.さて,
のとき,式 (4.15) の任意の解は,
となる.ここに, は特性多項式で,
(i) は同次式の解
(ii)
である.系が安定であるから,
となる.よって,十分時間が経過した後では,どんな初期条件から出発した解も,定常解
(4.16)
に近づく.この結果をLaplace 変換による解法から導いてみよう.
式 (4.15) の解は
(4.17)
と書けるのであった.ここに は同次式の解で,
(4.18)
である. のとき,式 (4.17) で は消えるから,第 2 項だけが問題になる.
を式 (4.17) の右辺第 2 項に代入すると,
(4.19)
[1]
となる.ところで,式 (4.18) から,
(4.20)
となるので[2],式 (4.19) は,
に漸近する[3].事実, のとき,
[4]
となるからである.このことは,言い換えれば式 (4.20) の無限積分の存在は, が安定な同次方程式 の解であることから保証される.すなわち,このとき既述のように,
なる評価ができるから, の Laplace 変換は において存在する.
最後に,この問題の工学的応用に触れておこう.ここで議論したことは,
式 (4.15) が安定な微分方程式ならば,
これに正弦波が入力として加えられたとき,それに対する応答は,しばらく待てば同じ周波数の正弦波になるということである.
それでは,任意の波形を持った信号が入力として加えられたとき,しばらく待つと同じ波形の応答が得られるであろうか.この問題を考えてみる.
記録器に対してはこのことが要求される.
さて任意の信号 は,ある範囲 で,いくつかの正弦波で近似できる[5].すなわち,
この信号に対する式 (4.15) の定常応答は,重ね合わせの原理と上の議論から,
となる.これが とほぼ同じ波形となるためには,
(i) がほぼ一定()
(ii) がほぼ に比例する.()
という条件があればよいことが分かる.このとき,
となり,所期の目的を達成する.
を変数と考え, を系 (4.15) の周波数特性と呼ぶことにすれば,上の条件は“考えている周波数範囲では,周波数特性があまり変わらない”ということである( の偏角は に比例して変わってもよい)。この条件は周波数の小さい範囲で現実できる.言い換えれば,入力信号の変動が余り激しくなければ,出力応答はそれに追従するということで,あたりまえの結果である.交流を直流の計器で計る場合を想像してみればよい.
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Laplace 変換の定義から ,これに を代入する.
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式 (4.19) を とし,式 (4.20) をあてはめる.
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Fourier 級数展開