和声学とは、音楽を構成する縦の響き(同時関係=和音)と横の響き(経時関係=パート進行)の関係を学ぶ学問です。多くの場合、演習を通して学びます。

和声学では、音楽から、和声的な要素を抽出した形で学びます。音楽から和声的な要素を抽出すると、混声四部合唱が浮かび上がってきます。というのは、西洋音楽では、人の声が音楽のもっとも中心的な存在でしたし、また、基本の和音は3つの音から成り立ちますから、それより1つ多い4つの音があれば十分なのです。従って、和声学では、原則として混声四部合唱(ソプラノアルトテノールバス)の形で学びます。これを四声体と呼びます。

和声学では、音の動きについて、いろいろな規則を学びます。ところがしばしば、実際の音楽が、その規則を守っていないのに遭遇します。これはどういう事でしょうか。

まず第一に、和声学の規則は、実際の音楽から導き出されたものとはいえ、多くの作曲家の多くの作品の中から共通部分を見いだして、学習しやすいように整理してある、ということがあります。きわめて例外的な音の動きやある作曲家に特有の音の動きは、初学者が学ぶべきではありませんから、規則からははずしてあるのです。

第二に、ある程度時代とその様式を絞って、その様式の音楽を書くために必要な規則をまとめてあるということがあります。和声の始まった時代から、現代和声までを網羅してしまっては、初学者には学習しきれないし、そもそもひとつのまとまりのある音楽を作ることもできません。

和声学の目標は、ある時代様式の音楽の音の仕組みを深く知ることによって、広くさまざまな音楽の仕組みを研究する道しるべとすることと、音に対する鋭敏な感覚を養うことによって、独自の様式を新たに生み出す基礎とすることにあるといえます。どのような規則にも、その理由とその規則がもたらす効果が存在します。それを知ることによって、音のさまざまな特質を学び、音楽実践に生かしてゆくのが、和声学の目的であるといえるでしょう。