商法第529条
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(交互計算)
第529条
解説
編集ドイツ商法典第355条⑴に対応する。
- ドイツ商法典第355条(継続計算,交互計算)
- ⑴ 取引関係から生ずる双方的な請求権及び給付を利息とともに計算に置き,定期的に差し引き計算していずれかの当事者に生ずる超過額を確定することによってこれを清算するような取引関係が商人との間にあるときは(継続計算,交互計算),計算の閉鎖に際し超過額が帰属する者は,計算に利息が含まれる限りにおいても,閉鎖の日から超過額の利息を請求することができる。
ドイツ商法典と異なり「清算」ではなく「相殺」が用いられている。
- 担保権付き債権は「取引から生ずる債権」から除外すべきか。
- 日本法では、除外せず組み入れられる場合、債権が消滅し、附従性によって担保権も消滅する。これは当事者の通常の意思ではないので、特約が無い限り、担保権付き債権は「取引から生ずる債権」から除外すべきである。(縮小解釈)
- これに対しドイツ法には次の条文があり、日本法と異なる。
- ドイツ商法典第356条(担保)
- ⑴質,保証,その他の方法により担保されている債権が継続計算に計上されたときは,継続計算による超過額と当該債権が重なる限りにおいて担保から弁済を求めることについて,債権者は,計算閉鎖の承認によってこれを妨げられない。
- ⑵継続計算に計上された債権につき第三者が連帯債務者として責任を負うときは,当該第三者に対する債権の行使について第1項の規定を準用する。
- 約することによって生じる「効力」とは何か。ここでは期間満了後の積極的効力ではなく消極的効力について述べる。交互計算期間中に当事者間に生じた複数の債権債務が一つの不可分債権債務となり、両当事者が個々の債権を処分することができなくなることをいう(交互計算不可分の原則)。
- 次の場合を考える。AはBと交互計算契約を結んでいた。その後、期間中にAの債権者GがAのBに対する債権を差し押さえ、Bにその債務の履行を請求した。BがAとの交互計算契約の存在を主張して任意に弁済しないので、Gは交互計算期間の満了まで待てずにBに取立訴訟を提起した。Bは口頭弁論において、交互計算契約の存在についてGが差押え時に知っていたか知らなかったことにつき重過失が無かったことを証明しなかった。Gの取立訴訟は認容されるか。
- 個人の意思表示だけで差押え禁止財産をつくるのは一切認められないとする立場によると、この事案のGが、当該債権が交互計算契約に組み入れられていることについて知らなかった場合、当該債権の差押えは有効である。ただしBはGに対する当該債務とAに対する(差押え前に取得した)債権とを相殺することができ(民法第511条)、履行を拒むことができる。
- 交互計算の担保的機能を重視する立場によると、交互計算契約とは商法典が認めた差押え禁止制度であるから、第三者に対抗することができる。この事案ではGの差押えが無効である。
- 結論としては認容されないことになる。
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