民法第511条
条文
編集(差押えを受けた債権を受働債権とする相殺の禁止)
- 第511条
- 差押えを受けた債権の第三債務者は、差押え後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することはできないが、差押え前に取得した債権による相殺をもって対抗することができる。
- 前項の規定にかかわらず、差押え後に取得した債権が差押え前の原因に基づいて生じたものであるときは、その第三債務者は、その債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができる。ただし、第三債務者が差押え後に他人の債権を取得したときは、この限りでない。
改正経緯
編集2017年改正により、以下のとおり改正
- 見出し/第1項 用語の改正
- (改正前)支払の差止めを
- (改正後)差押えを
- 第1項に以下の文言を確認的に付加。
- 「差押え前に取得した債権による相殺をもって対抗することができる。」
- 第2項を新設。
解説
編集相殺することができない場合について定めた規定の一つである。
- 無制限説
- 第三債務者は、差押債務者に対して、差押え時に反対債権を有していれば、対抗できるとする。
- 第三債務者の保護を重視する、判例の立場。
- 制限説
- 第三債務者は、差押債務者に対して、差押え時に反対債権を有すだけでは対抗できず、反対債権の弁済期が差押え債権の弁済期より先に到来する場合に限り、対抗できるとする。
- 差押え債権者による差押えの実効性を重視する。
参照条文
編集- 民法第505条(相殺の要件等)
判例
編集- 預金返還請求(最高裁判決 昭和39年12月23日)民訴法598条1項
- 債権差押の第三債務者が差押前に取得し差押後に相殺適状を生じた反対債権と被差押債権との相殺の効力。
- 甲が乙の丙に対する債権を差し押えた場合において、丙が差押前に取得した乙に対する債権の弁済期が差押時より後であるが、被差押債権の弁済期より前に到来する関係にあるときは、丙は右両債権の差押後の相殺をもつて甲に対抗することができるが、右両債権の弁済期の前後が逆であるときは、丙は右相殺をもつて甲に対抗することはできないものと解すべきである。
- 相殺に関する契約の対外的効力。
- 債権者と債務者の間で、相対立する債権につき将来差押を受ける等の一定の事由が発生した場合には、両債権の弁済期のいかんを問わず、直ちに相殺適状を生ずる旨の契約および予約完結の意思表示により相殺することができる旨の相殺予約は、相殺をもつて差押債権者に対抗できる前項の場合にかぎつて、差押債権者に対し有効であると解すべきである。
- 債権差押の第三債務者が差押前に取得し差押後に相殺適状を生じた反対債権と被差押債権との相殺の効力。
- 定期預金等請求(最高裁判決 昭和45年06月24日)民訴法598条1項
- 債権の差押前から債務者に対して反対債権を有していた第三債務者が右反対債権を自働債権とし被差押債権を受働債権としてする相殺の効力
- 債権が差し押えられた場合において、第三債務者が債務者に対して反対債権を有していたときは、その債権が差押後に取得されたものでないかぎり、右債権および被差押債権の弁済期の前後を問わず、両者が相殺適状に達しさえすれば、第三債務者は、差押後においても、右反対債権を自働債権として、被差押債権と相殺することができる。
- 相殺に関する合意の差押債権者に対する効力
- 銀行の貸付債権について、債務者の信用を悪化させる一定の客観的事情が発生した場合には、債務者のために存する右貸付金の期限の利益を喪失せしめ、同人の銀行に対する預金等の債権につき銀行において期限の利益を放棄し、直ちに相殺適状を生ぜしめる旨の合意は、右預金等の債権を差し押えた債権者に対しても効力を有する。
- 債権の差押前から債務者に対して反対債権を有していた第三債務者が右反対債権を自働債権とし被差押債権を受働債権としてする相殺の効力
- 転付預金債権支払請求(最高裁判決 昭和50年09月25日)民法第468条,民訴法第601条,手形法第39条,手形法第50条,手形法第77条
- 金融機関が手形貸付債権又は手形買戻請求権をもつて転付された預金債権を相殺した場合と手形の返還先
- 金融機関が預金者から第三者に転付された預金債権を右預金者に対する手形貸付債権又は手形買戻請求権をもつて相殺した結果預金債権が転付前に遡つて消滅した場合には、金融機関は、手形貸付けについて振り出された手形又は買戻の対象となつた手形を右預金者に返還すべきであり、預金債権の転付を受けた第三者に返還すべきではない。
- 取立債権請求事件 (最高裁判決平成14年03月28日)
- 賃料債権に対する抵当権者の物上代位による差押えと当該債権への敷金の充当
- 敷金が授受された賃貸借契約に係る賃料債権につき抵当権者が物上代位権を行使してこれを差し押さえた場合において,当該賃貸借契約が終了し,目的物が明け渡されたときは,賃料債権は,敷金の充当によりその限度で消滅する。
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