地学I/地球の概観
最初に
編集この項では、理科総合B 地学分野を履修しているものとして高等学校地学Iの解説を行う。
地球の形と構造
編集地球はいつから球形であると考えられていたのか。ギリシアのアリストテレスは、月食の際の地球の影の形から地球が球形であると考えていた。紀元前230年ごろ、エラトステネスはアレキサンドリアの南にあるシエネ(現在のアスワン)で、夏至の日の正午に深い井戸の底まで太陽の光が届くことを知った(シエネは北回帰線のほぼ直下に位置しており、夏至の日には太陽が真上に近づくため、井戸の底まで光が届く)。この時、アレキサンドリアでは鉛直に立てた棒に影ができ、太陽が頭上から約7.2°傾いている(つまり太陽高度は82.8°)ことを確認した。アレキサンドリアとシエネの距離は5000スタジア(925km)であり、これをもとに次のように計算した。
- 7.2:5000 = 360 : x
この式を解くと、x=250000スタジアとなり、地球の半径を7361kmと算出した。実際の地球の半径は6371kmであり、当時としては妥当な結果であった。
扁平率
編集地球の形は、赤道付近がやや膨らんだ回転楕円体であり、これを地球楕円体と呼ぶ。
1671年から1672年にかけて、フランスの天文学者リシェは、ギアナにおいてフランスで調整した振り子時計が1日に約2分30秒遅れることに気付いた。振り子は重力によって振動しており、重力が小さいほど振り子の動きが遅くなることが知られていた。ニュートンは、この振り子の遅れの原因として、地球の形が遠心力によって赤道方向に膨らんだ形(オレンジ型)になっていると考えた。
一方で、パリ天文台のカッシーニをはじめとするフランスの学者たちは、地球が南北方向(極方向)に膨らんでいると考えていた(レモン型)。これを受けて、フランス学士院はスカンジナビア半島とペルーに調査団を派遣し、緯度差1度に対する子午線の長さを測定した。その結果、極付近の方が緯度1度に対する弧が長いことが証明され、ニュートンの説が正しいことが確認された。
緯度と緯度1°あたりの弧長は
- ラップランド(北フィンランド): 緯度66°22′N、弧長 111992 m
- フランス:45°N、111162 m
- エクアドル:1°31′N、110657 m
であった。 これより、ニュートンの仮説(オレンジ型)が正しいことになり、 地球の大きさは、
- 赤道半径(a)=6378km
- 極半径(b)=6357km
となり、よって 扁平率(へんぺいりつ) は
となる。
扁平率は非常に小く、実用上は地球を球形とみなして問題ない。
重力
編集すべての物体どうしには、おたがいに引きよせ合う力があり、これを万有引力(ばんゆう いんりょく)という。
- (N)
で表される。Mとmは2つの物体の質量。距離をrとしている。Gは万有引力定数であり、G=6.67×10^-11 m3/(kg・s2) である。
単に引力という場合も多い。 物体が大きいほど、引き寄せあう力が大きくなる。私たちが地上で感じる下方向への引力は、地球によって引き寄せられる引力である。
- (地球の)引力 地球の重心に向かう力。
- 遠心力 地球の自転による遠心力が働いている。遠心力の方向は地軸に垂直な方向である。自転軸である地軸からの距離が大きいほど、遠心力も大きい。よって遠心力は、赤道で最大。両極で0。
- 重力 引力と遠心力の合力。両極で最大となり、赤道で最小となる。重力を W とすると、式は質量mによって、 W=mg で表される。比例定数 g を重力加速度といい、大きさはほぼ 9.8 m/s2 である。よって、質量1kgの物体あたり、9.8Nの重力が掛かっている。
地磁気
編集地球は1つの大きな磁石であると考えられる。自転軸と地表面の交点からN極の指す方角は約11度ずれていて、方位磁石は真北を指さない。このずれる角度を偏角という。日本付近では磁場が下方向を向いていて水平面に対する角度を伏角という。地磁気の大きさを全磁力といい、偏角と伏角と全磁力が定まれば地磁気の様子がわかる。したがってこれら3つを地磁気の3要素という。 (注) 偏角と伏角と全磁力の組合せだけが,地磁気の三要素ではない。 偏角は他の要素で表すことができないために,必ず三要素の一つに含めるが,他は,伏角と全磁力,伏角と水平分力(水平磁力)でも構わない。
地球内部の熱
編集地温は深さとともに次第に高くなっていく。この割合を地下増温率(地温勾配)という。地下30kmまでの地下増温率は、平均して100mにつき2~3℃程度である。
地殻熱流量
編集地球の内部は高温で、温度の低い地表に向かって熱が伝えられる。この熱量を地殻熱流量という。この平均的な値は、 である。
地球の熱源
編集地球の主な熱源は、岩石に含まれるウラン、トリウムなどの放射線同位体の自然崩壊に伴う熱と、地球生成時に地球内部に閉じこめられた熱である。核の生成に伴う潜熱も熱の要因である。とりわけ、大陸地殻を構成する花こう岩発熱量が多い。
地震と地球内部構造
編集地震のゆれの波
編集地震のゆれは波として地球内部を伝わっていく。これを地震波という。破壊が最初に生じたところを震源、震源の真上の地表の地点を震央という。
地震波の種類
編集- P波 - 疎密の状態が伝わる。固体・液体・気体の全てに伝わる。S波よりも速度が速いため、観測地に先に到着。(図:1の一番上)
- S波 - ねじれが伝わる。固体中しか伝わらない。(図:1の上から2番目)
波の伝わる速さは物質の状態や種類によって変化する。物質の種類や状態が変わると地震波の速さが変わり、屈折や反射が起きる。ゆえに、地震波の伝わり方を解析することによって、地球内部の構造や状態を推定できる。 図1の下二つは表面波の伝わり方を示している。
走時曲線
編集震源から観測地点まで伝わるまでに要する時間を走時(そうじ)と呼び、震源から観測地点までの距離と走時の関係とを表したグラフのことを走時曲線(そうじきょくせん)と呼ぶ。縦軸に走時をとり、横軸に各観測点の震央距離をとった時に描かれる曲線である。地震波は通常、一定の速度で伝わるため、走時曲線はほぼ直線になるはずである。しかし、クロアチアの地震学者であるアンドリア・モホロビチッチは、走時曲線は直線にはならずにどこかで折れ曲がるという法則を発見した。モホロビチッチは、1909年にクパ渓谷で発生した地震の走時曲線から、いくつかの地震波は他の波より速く伝わっていることに気づき、この事実をP波の速度が急に変わる不連続面によって解説し、モホロビチッチ不連続面と呼ばれるようになった。地下30kmから60kmの間にモホロビチッチ不連続面があるため、浅発地震の場合、震央距離150~300km程度の陸地で折れ曲がる。モホロビチッチ不連続面より上を地殻といい、下をマントルという。
地球の内部はどうなっているか
編集走時曲線を分析してみると、震央距離を地球中心からの角度で表した場合、103°から 先の領域にはS波が伝わらない。この領域をS波のシャドーゾーンと言う。また震央距離103°から143°にはP波が直接伝わらない。これをP波のシャドーゾーンという。深さ2900kmよりも深部は液体となっているためで、これよりも深部を核という。核は深さ5100kmまでが液体の外核,それよりも深部を内核という。内核は固体である。 マグマオーシャンから分離した鉄が地球中心部に核を形成したが,時代を経るにつれて冷え,鉄が固体となって中心部に沈み,内核を形成した。
プレートとその動き
編集高温のマントル物質は中央海嶺でわきだし、冷えてプレートとなり、海溝に向かって移動する。
- プレートの境界の種類
- 拡大する境界 - 中央海嶺は、プレートがつくられ拡大する場所である。大西洋中央海嶺は、新しくできたプレートが東西に向かって移動して、大西洋を広げている。アイスランドにはギャオが広がっているが、これは海嶺が地表部分に露出している珍しい例である。
- 収束する境界 - プレートが収束する境界に沿ってしばしば海溝・トラフが出来ている。そこではプレートが沈み込み、島弧である日本列島やアンデス山脈のような大山脈が出来る。このような地殻変動の活発な場所は島弧-海溝系と呼ばれている。
- すれ違う境界 - プレートがすれ違うような所では、横ずれ断層(トランスフォーム断層)が出来る。アメリカのサンアンドレアス断層が有名である。
※ 雑題
編集(火山などで見られる)マグマの粘性(ねんせい)の原因の物質は二酸化ケイ素 SiO2 である。(粘性(ねんせい)とは、その物質の 粘りぐあい(ねばりぐあい) のこと。)
なので、マグマの成分の割合で、ケイ素の割合が高いほど、そのマグマは粘性が高い。
参考文献
編集- 文部省検定済教科書「高等学校地学I」松田時彦、山崎貞治:編 啓林館
- マーク式基礎問題集27 地学I 安藤雅彦:著 河合出版
- 新ひとりで学べる地学I 清水書院
- 実況中継地学Ⅰ 安藤雅彦:著 語学春秋社