地政学/理論/シーパワー理論

アルフレッド・セイヤー・マハン(Alfred Thayer Mahan)とは19世紀末期のアメリカの海軍軍人であり、海洋に関する戦略の原則などを導き出し、海洋国家の地政学的な政策についての研究に貢献した。1840年に陸士教官の息子として生まれ、コロンビア大学で二年間勉学した後にアナポリス海兵の二年に編入し、次席で卒業した。軍事学者のジョミニの著作を研究してその軍事理論を継承した。南北戦争、艦隊勤務や艦長を経て、85年には大佐に昇進して海軍大学校の海軍史と戦略学の教官となる。そして巡洋艦シカゴの艦長としての勤務を経て、この間に彼の自著である『海上権力史論』が高い評価を受けたためにオックスフォード大学、ケンブリッジ大学、ハーバード大学、エール大学、コロンビア大学から博士号を貰い、海軍長官ハーバートやルーズベルト大統領たちからも高く評価されてアメリカの安全保障政策に影響した。そして96年に退役した。

マハンの理論は海洋が国家に与える影響というものを歴史研究から極めて重要視しており、特に大航海時代以降に定着した一つの植民地経済のあり方、すなわち海外植民地から資源を海運で輸送して本国の生産を増大して再び植民地から資源を入手する、という一連の循環する経済システムが海洋国家の国家政策の着眼点であると考えた。従ってマハンは世界の大国となるために必要なものは第一に「海の支配」を行って海洋大国になることであるという思考から出発している。何故なら海の支配はカルタゴ、ローマ、イタリア、スペイン、イギリスの歴史に見られたように世界的な覇権に常に強く関わってきており、また世界的な交通路は海上交通路に依存しているからである。従って海の支配を確立するための海軍力、海を活用するための商船隊をシーパワー(Seapower)と総称してこれを国家政策のために準備することが必要だと論じた。ただしシーパワーには国土の地理的位置や国土面積、国民の人口や性質、政府の性質の五要素が必要であると定めている。またマハンは海を支配する海洋国家でありながらも大陸を支配する大陸国家となることはありえないと論じている点も興味深い。これは大陸国家は大陸内で常態的に発生する隣国との国境紛争などの対立のために海洋支配のための努力へ向かないことが理由として挙げられている。

マハンの理論の要点をまとめると以下のようにまとめられる。

  • 世界大国になるためには海を支配する海洋国家になることが良い。
  • 海洋国家には強大なシーパワーが必要である。
  • シーパワーは海軍力、商船隊、港湾施設などの能力を総合した国力である。
  • シーパワーが成立する条件とは、国土の地理的位置(海上交通路と国土の関係や港湾施設など)、国土面積、人口、国民資質(国民の海洋文化や航海技術、シーマンシップなど)、政府性質(政府の海洋戦略など)の五要素である。
  • あらゆる国家は海洋国家でありかつ大陸国家であることは出来ない。

マハンの海洋国家観は時代背景も影響したために近代の帝国政策を実施していた西欧列強のそれと似ており、外国の資源を収奪する植民地政策を前提としている。また海洋国家が大陸国家を凌駕する国力を獲得することが出来るとは限らず、また大陸国家が大陸内で常に対立しているという状況も当時の国際情勢に影響された考えであって普遍的な法則ではありえない。これに加えてマハンは大国となるためには海外植民地の拡大、資源地域の支配、これを保持するための軍事力の準備のみを条件としており、現代的な大国の能力としては環境への適応性などより多様な能力を含めて総合的に分析すべきである。しかしながらパックス・ブリタニカは紛れもなく世界的なシーパワーによって裏付けられたものであり、冷戦以後のアメリカの大国としての地位は太平洋、大西洋、インド洋に展開している海軍力により基礎付けられている。