ルドルフ・チェレーン(Rudolf Kyellen)とはスウェーデンの19世紀の地理学者である。彼はラッツェルが考案した地政学理論をより体系化した。1864年に生まれたチェレーンの母国スウェーデンはスウェーデン・デンマーク戦争、スウェーデン・ロシア戦争、スウェーデン・ポーランド戦争、三十年戦争などの幾たびの戦争を経験し、またスウェーデン王であったグスタフ・アドルフは三兵戦術を創始して軍事組織の革新に貢献した国であり、チェレーンは歴史学の研究を通じてこのような戦争の歴史を認識していた。またチェレーンはウプサラ大学で歴史学と政治学で勤務していた。チェレーンは1916年で自著において国家の研究法を五段階に区分して示し、その第一段階に地理と国家の関係(Geopolitik)とした。これが現在まで続く地政学の名称となっている。地理は不変ではないが、人間にとって最も根本的な行動の前提となるものであるため、国家や国際関係の研究を地理との関係の視点から行うことの必要を認めていた。そして1922年に死去している。

チェレーンの理論はラッツェルの理論の影響を受けている。チェレーンも国家は組織体であり、この生命は国民、文化、政府、経済、土地に依拠しており、そのため国力の増進には広域な領土、その領土内の交通、内部の団結が必要である。そして国家には法律よりも力こそが重要であり、法律は力によって裏付けられる。さらに国家にとって自足性は重大な要件であり、自らの生存に必要な資源を自給する経済基盤を獲得することが必須であり、これを獲得する権利を国家は持っている。当時の国際情勢を踏まえて、ドイツこそがアフリカや西アジアにまで及ぶ大国に成長するだろう。また大英帝国の覇権はより強固にまとまった大陸国家に移って結果的に大陸国家は大陸から海洋を支配するようになる、と予想している。

以上のチェレーンの理論の要点をまとめると以下のようになる。

  • 国家は組織的生命体であり、この生命は政府、国民、文化、経済、土地に依拠する。
  • 国家は力こそが重要であり、法は力によって効力が維持される。
  • 国家は自給するための経済基盤が必要であり、これを支配する権利がある。
  • 国家が強力になる要件には広域な領土、領域内部の交通の自由、内部の強固な団結の三つが挙げられる。

このチェレーンの理論は極めて現実主義的な世界観を基礎としている理論であり、これはすなわち「国家は生存に必要な資源を失うと死滅する」、そしてそのために「資源地域を力で支配するのは国家の権利」であり、つまり「国家には自給するための経済を要す」という論理である。この理論の現実への適用は慎重にならなければならない。何故ならこの理論もラッツェルと同様に、国家は生命を持っている組織体であり、これが政府や国民だけでなく土地に依拠しており、ある程度外交や通商を度外視している点だけでなく、ラッツェルの生存圏とチェレーンの自給経済は概念的な類似性が認められる点もある。資源の獲得が資源地域の領有ということが前提となっており、国家の力が世界を支配する原理となっている。現代にそのまま適用することは出来ないとしても、この理論は国家の闘争原則を示しており、複眼的な視点の一視点として考えられる。