法学民事法コンメンタール民事訴訟法

条文

編集

(裁判所及び当事者の責務)

第2条
裁判所は、民事訴訟が公正かつ迅速に行われるように努め、当事者は、信義に従い誠実に民事訴訟を追行しなければならない。

解説

編集

訴訟における、裁判所の公正義務および迅速進行の義務と、当事者の信義誠実義務を定める。

裁判所の公正義務および迅速進行の義務

編集

訴訟手続全般において、裁判所や当事者の公正・誠実な行動を前提とした規定の例

当事者の信義誠実義務

編集

当事者に関しては、具体的には以下のような原則を含む。

  1. 当事者は、不誠実な行為(例:訴訟遅延行為や不合理な主張の撤回)をしてはならない。
  2. 訴訟手続の円滑な進行を妨げる行為は許されない。
  3. 当事者は、一貫性のある主張を行い、相手方を不当に害する行動をしてはならない。

信義則の反映とされる条項

  1. 第159条(自白の撤回の制限)
    当事者がした事実の自白は、撤回することができない。ただし、撤回について相手方が同意したとき、または撤回が許される特別の事情があるときは、この限りでない。
    • 信義則に反するような訴訟上の行動(例えば、意図的な自白の濫用や不誠実な撤回)を制限する趣旨とされる。
  2. 第166条(攻撃防御方法の適時提出義務)
    当事者は、攻撃又は防御の方法を適時に提出しなければならない。
    • 訴訟の遅延を防ぎ、公正な手続を維持するため、信義則に基づき誠実に訴訟を遂行する義務があると解釈される。

参照条文

編集

判例

編集
  1. 第三者異議(最高裁判決昭和41年2月1日)
    第三者異議の訴の異議事由として所有権を主張することが信義則に照らして許されないとされた事例
    執行債務者の住所における動産仮差押の執行に際し、第三者が執行債権者に対して、自己の占有し、かつ、執行債権者もその所在を知つていなかつた動産を執行債務者の所有に属するものと主張し、執行債権者をその所在場所に案内のうえ任意に提供して仮差押手続をなすことを積極的に容認し、これによつて、執行債権者をして右物件が執行債務者の所有に属するものと誤信してこれに対する執行をするにいたらせるとともに、執行債務者の他の物件に対する執行が取り止めになつた等原判示の事情(原判決理由参照)があるときは、右第三者が執行債権者に対し執行排除の異議事由として仮差押物件の所有権を主張することは、信義則に照らし、許されないものと解するのが相当である。
  2. 約束手形金請求(最高裁判決昭和48年7月20日)
    ある事実を主張して訴を提起追行した者が別訴において右事実を否認しても信義則に反しないとされた事例
    仮差押に対し、その目的物件が営業譲受により自己の所有に帰したと主張して第三者異議訴訟を提起、追行していた者が、その後右営業譲受を理由として仮差押債権者より提起された訴訟においてその事実を否認しても、右否認が真実に合致し、かつ第三者異議訴訟が民訴法238条(訴えの取下げの擬制 現・第263条)によつて終了しているときには、これを信義則に違反するとはいえない。
    • 先にある事実に基づき訴を提起し、その事実の存在を極力主張立証した者が、その後相手方から右事実の存在を前提とする別訴を提起されるや、一転して右事実の存在を否認するがごときことは、訴訟上の信義則に著しく反することはいうまでもない。しかし、原審の適法に確定したところによると、被上告人が先に第三者異議訴訟において主張していた営業譲受けの事実はなく、その主張が虚偽であつたのであり、かえつて本訴における右の否認が真実に合致した主張であり、しかも右第三者異議訴訟はすでに休止満了によつて訴の取下とみなされているというのであつて、かかる事実関係のもとにおいては、被上告人の前記否認は、信義則に反せず有効であると解するを相当とする。
  3. 工作物撤去等請求事件(最高裁判決平成18年3月23日)
    被告の所有する土地が建築基準法42条2項所定の道路(いわゆるみなし道路)に当たるとして人格権的権利に基づき同土地上の工作物の撤去を求める訴訟において被告が同土地がみなし道路であることを否定することは信義則上許されないとされた事例
    被告の所有する土地が建築基準法42条2項所定の道路(いわゆるみなし道路)に当たるとして同土地周辺の建物所有者である原告らが提起した人格権的権利に基づき同土地上の工作物の撤去を求める訴訟において,被告が同土地がみなし道路であることを否定することは,被告が,建物を建築するに際し,同土地がみなし道路であることを前提に建築確認を得,同土地に幅員4mの道路を開設し,その後5年以上同土地がみなし道路であることを前提に建物を所有してきた上,同土地は公衆用道路として非課税とされているという事実関係の下では,信義則上許されない。
  4. 登記引取等請求事件(最高裁判決令和元年7月5日)
    貸金の支払を求める訴訟において,前訴でその貸金に係る消費貸借契約の成立を主張していた被告が同契約の成立を否認することは信義則に反するとの原告の主張を採用しなかった原審の判断に違法があるとされた事例
    XがAからYに対する貸金返還請求権を譲り受けたとしてYに対し貸金の支払を求める訴訟において,YがAから金員を受領したことを認めたが同金員に係る金銭消費貸借契約の成立を否認した場合において,次の1.,2.など判示の事情の下では,これらの各前訴の訴訟経過等に係る事情を十分考慮せず,Yが各前訴では自らAの面前で金銭消費貸借契約書に署名押印したこと等を積極的かつ具体的に主張していたなどのXの主張について審理判断することもなく,Yが上記の否認をすることは信義則に反するとのXの主張を採用しなかった原審の判断には違法がある。
    1. AがYに対して建物の明渡し等を求めて提起した前訴において,Aは,Yを売主,Aを買主とする上記建物の売買契約を締結しその代金として上記金員を交付したと主張し,Yは,上記売買契約の締結を否認し,上記金員はAと締結した金銭消費貸借契約に基づく貸金として受領したものであると主張したところ,裁判所は,上記売買契約の成立を認めることはできないとして,Aの建物明渡請求を棄却する判決をし,同判決は確定した。
    2. 上記1.の判決後にXがYに対して上記建物の明渡し等を求めて提起した前訴において,Xは,AがYと上記建物につき譲渡担保設定予約をし,予約完結権を行使した上,譲渡担保権を実行して上記建物をXに売却したと主張し,Yは,Aと締結したのは金銭消費貸借契約であると主張しつつ,譲渡担保設定予約の成立を否認したところ,裁判所は,Xの主張する譲渡担保設定予約の成立を認めることはできないとして,Xの建物明渡請求を棄却する判決をし,同判決は確定した。

前条:
第1条
(趣旨)
民事訴訟法
第1編 総則
第1章 通則
次条:
第3条
(最高裁判所規則)
このページ「民事訴訟法第2条」は、まだ書きかけです。加筆・訂正など、協力いただける皆様の編集を心からお待ちしております。また、ご意見などがありましたら、お気軽にトークページへどうぞ。