民法第210条
条文
編集- 第210条
- 他の土地に囲まれて公道に通じない土地の所有者は、公道に至るため、その土地を囲んでいる他の土地を通行することができる。
- 池沼、河川、水路若しくは海を通らなければ公道に至ることができないとき、又は崖があって土地と公道とに著しい高低差があるときも、前項と同様とする。
解説
編集相隣関係も参照。
- 他の土地に囲まれる(第1項)、又は、囲まれない部分が崖地等(第2項)であって公道に通じない土地(「袋地」、第2項のものは「準袋地」という)の所有者は、その土地を囲んでいる他の土地(「
囲繞地 」)を通行することができる、即ち、「囲繞地通行権」を有する。元々条文にあった「囲繞地」という言葉は、現代語化(平成16年法律第147号)に伴い、「(袋地等を)囲んでいる他の土地」置き換えられたものであるが、頻出の事例であり、慣習上確立した簡便な言い回しであるため、現在でも不動産実務や講学上よく用いられている。なお、袋地は不動産の実務では別の意味で使われることもある(袋地参照)。 - 「囲繞地通行権」は当事者の意思や権利関係は影響しない物権であり、袋地又は囲繞地の所有者が未登記であったとしても当然に認められる(最判昭和47年4月14日)。一方で、囲繞地通行権は、袋地の所有権者及びそれが民法第267条により準用される地上権者に認められる権利であって、所有権者から袋地を借りるなどして占有している者に当然に認められる権利ではない。判例では対抗力(但し、登記とは限らない)を備えていることが要件とされた(最判昭和36年3月24日民集15巻3号542頁)。
- 囲繞地は、単独の所有者に限らず、所有者が異なる複数の土地により構成されることが想定されうる。当事者間での調整が不調である場合、次条により決められる箇所において通行権が生じる。なお、囲繞地所有者のいずれかと通路設定の合意がなされた場合に囲繞地通行権を主張することは(要件は充足しているので袋地でないとまでは言えない)、権利濫用と解されるであろう。
- 袋地の所有者は公道に出るために他の土地を取得したときは囲繞地通行権は消滅する。
現代語化前の条文
編集有斐閣『六法全書』平成9年版、2-2091頁による。なお、この表題は、同六法編集者側で付したものである。
【袋地所有者の囲繞地通行権】
- 或土地カ他ノ土地ニ囲繞セラレテ公路ニ通セサルトキハ其ノ土地ノ所有者ハ公路ニ至ル為メ囲繞地ヲ通行スルコトヲ得
- 池沼、河渠若クハ海洋ニ由ルニ非サレハ他ニ通スルコト能ハス又ハ崖岸アリテ土地ト公路ト著シキ高低ヲ為シタルトキ亦同シ
参照条文
編集判例
編集- 通行権確認(最高裁判決 昭和37年03月15日)建築基準法第6条,建築基準法第43条,東京都建築安全条例第3条
- 既存通路が東京都建築安全条例第3条所定の幅員に欠ける場合と民法第210条の囲繞地通行権の成否
- 土地が路地状部分で公路に通じており、既存建物所有により右土地の利用をするのになんらの支障がない場合、その路地状部分が東京都建築安全条例第3条所定の幅員に欠けるとの理由で増築につき建築基準適合の確認がして貰えないというだけでは、民法第210条の囲繞地通行権は成立しない。
- 工作物撤去等請求(最高裁判決 昭和44年11月13日)
- 公道に面する一筆の土地の所有者がその土地のうち公道に面しない部分を他に賃貸し残余地を自ら使用している場合と民法210条1項の適用
- 公道に面する一筆の土地の所有者が、その土地のうち公道に面しない部分を他に賃貸し、その残余地を自ら使用している場合には、所有者と賃借人との間において通行に関する別段の特約をしていなかつたときでも、所有者は賃借人に対し賃貸借契約に基づく賃貸義務の一内容として、右残余地を当該賃貸借契約の目的に応じて通行させる義務があり、したがつて、その賃借地につき民法210条1項は適用されない。
- 通行権確認請求(最高裁判決 昭和47年04月14日)民法第177条
- 袋地の未登記所有者と囲繞地通行権の主張
- 袋地の所有権を取得した者は、所有権取得登記を経由していなくても、囲繞地の所有者ないし利用権者に対して、囲繞地通行権を主張することができる。
- 第三者異議、通行権確認、土地明渡等(最高裁判決 平成2年11月20日)民法第213条
- 民法213条の囲繞地通行権の対象地の特定承継と当該通行権の帰すう
- 民法213条の規定する囲繞地通行権は、通行の対象となる土地に特定承継が生じた場合にも消滅しない。
- 通行権確認等請求及び承継参加事件(最高裁判決 平成18年03月16日)民法第211条1項
- 自動車による通行を前提とする民法210条1項所定の通行権の成否及びその具体的内容を判断するために考慮すべき事情
- 自動車による通行を前提とする民法210条1項所定の通行権の成否及びその具体的内容は,公道に至るため他の土地について自動車による通行を認める必要性,周辺の土地の状況,上記通行権が認められることにより他の土地の所有者が被る不利益等の諸事情を総合考慮して判断すべきである。
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