特許法第38条の5

仮専用実施権を設定した場合の特許出願の放棄・取り下げの要件を規定する。

条文

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(特許出願の放棄又は取下げ)

第38条の5 特許出願人は、その特許出願について仮専用実施権を有する者があるときは、その承諾を得た場合に限り、その特許出願を放棄し、又は取り下げることができる。

解説

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出願段階のライセンシー保護の観点から、仮専用実施権を設定した場合の特許出願の放棄・取り下げには仮専用実施権者の承諾を要することとしている。

本来、経営戦略上の観点から、特許出願の放棄・取り下げの手続を特許出願人が自由にできることは許されるべきである。しかし、仮専用実施権者としては、特許出願の放棄・取り下げにより将来の専用実施権者の地位が失われることとなり、期待された利益が得られないことにもなりかねない。そこで、特許出願の放棄・取り下げには仮専用実施権者の承諾を求めることとしたのである。

特許出願の放棄・取り下げにあたっては、仮専用実施権者の放棄・取り下げについての承諾があったことを証明する書面の提出が必要である(施規6条)。当該書面の提出がない場合は、特許出願の放棄・取り下げの手続が却下されうる(17条3項2号、18条1項)。重ねての手続は却下される(18条の2第1項)。


特許出願の放棄・取り下げ以外に出願段階で仮専用実施権者がその意思に反しその地位を失う可能性がある場合は、

  1. 国内優先権を主張した出願があったとき
  2. 変更出願(実10条1項、意13条1項)があったとき
  3. 分割出願があったとき
  4. 出願審査請求期間の徒過
  5. 特許料の未納付(減免が認められる場合を除く)
  6. 特許請求の範囲[1]、明細書、図面の補正
  7. 拒絶査定の確定
  8. 拒絶審決の確定

が考えられる。1については41条1項ただし書、2については実10条9項、意13条5項の規定により承諾が必要で、3については分割出願により自動的に仮専用実施権が発生する(34条の2第5項本文)。4については仮専用実施権者が出願審査を請求できるし(48条の3第1項)、5については出願人でなくとも納付できる(110条1項)から障害にはならない。しかし、6-8については一部に権利化の途が残されているにもかかわらず出願人が適切な対応を取らないと将来発生するはずの専用実施権の範囲が不当に縮小あるいは消滅し、仮専用実施権者が意に反してその地位を(一部でも)失う可能性が残されており[2]、これからも審査・審判段階において出願人は慎重な対応を要するであろう。

改正履歴

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  • 平成20年法律第16号 - 追加
  • 平成23年法律第63号 - 登録した仮通常実施権者が存在しなくなり、また仮通常実施権者に対し全般的に承諾を要求しなくなったため、仮通常実施権者に係る部分を削除
  • 平成27年法律第55号 - 条文移動(38条の2から)

脚注

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  1. ^ 請求項数の増加は特許請求の範囲の補正がなければ生じないため、本項目では18条2項本文の規定による出願却下の場合をここで読むこととする。
  2. ^ 特許庁総務部総務課制度改正審議室編『平成20年 特許法等の一部改正 産業財産権法の解説』p. 35、注14、発明協会(現発明推進協会)、2008、と異なる見解である。

関連条文

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  • 特許法施行規則第28条の2 - 特許法施行規則第28条の3
前条:
38条の4
特許法
第2章 特許及び特許出願
次条:
39条