第一課で, ת, פ, כ, ד, ג, ב の音を閉鎖音 [b], [g], [d], [k], [p], [t] と説明したが,これらの音は母音の直後では, ほとんどすべての場合,母音の影響を受けて,それぞれ摩擦音 [β], [γ], [ð], [x], [ɸ], [θ] となる. ティベリア式では,この 6 文字が閉鎖音として読まれるべき場合に, תּ, פּ, כּ, דּ, גּ, בּ のように,その中に点を打つ.この点をダゲシュ( דׇּגֵשׁ )と呼ぶ. ローマ字転字では逆に摩擦音化したほうに横線を加えて, ḇ, ḡ, ḏ, ḵ, p̄, ṯ とする.しかし,上述のことから分かるように,閉鎖音の摩擦音化は予測可能であるから,我々の転写では,原則としてそれを表記しない. これらの摩擦音を発音するためには,各閉鎖音の閉鎖を少し緩めればよい (例えば,日本語プの子音[p]とフの子音[ɸ]を比較せよ). 現代ヘブライ語では, ף, כ, ב のときだけ摩擦音([v], [x], [f]) として発音し, ת, ד, ג はダゲシュの有無にかかわらず閉鎖音として発音する.
ダゲシュは,例えば bb, mm のような,二重子音の表記にも用いられ,閉鎖音を表すダゲシュを弱ダゲシュ( דָּגֵשׁ קַל ),重子音を表すダゲシュを強ダゲシュ( דָּגֵשׁ חָזָק )と呼ぶ.従って, תּ, פּ, כּ, דּ, גּ, בּ は弱ダゲシュか強ダゲシュか判別を要するわけだが,上述ように前者(弱ダゲシュ)はその直前に母音が無い場合に限られ,後者(強ダゲシュ)は逆に母音の直後に限られる(ヘブライ語は 3 子音の連続は起こらない.3.1参照)から,母音符号の付いたテキストでは,この判別は容易である. ר および喉音 ע, ח, ה, א にはいかなるダゲシュも付かない.