5.3 構文の説明
文1 は4.1の例文3の主部 הַמֶּ֫לֶךְ を女性名詞 המַּלְכׇּה に変えた文である。主部の性が男性から女性に変わったので、性・数一致の規則に従って、述部の性も女性形 חֲכׇמׇה に変わっている。 女性形であることは ה ׇ (-ā) という接尾辞が示している。数は単数のままで変わらない。 といっても、性の標識とは別に数の標識があって、これが変わらない、ということではない。 性・数の標識は常に融合しており、分離することができない。例えば
טוֹב ṭōḇ (男性・単数)
טוֹבִים ṭōḇīm (男性・複数)
טוֹבׇה ṭōḇā (女性・単数)
טוֹבוֹת ṭōḇōt (女性・複数)
のようである。
文2 は二つの名詞文を接続詞 וְ で連結した文である。 וְ に導かれる従属文(ここでは、厳密には従属節)では、主・述の順序が逆になっている(4.3.3)。 主部の הָאִישׁ は男性、הׇאִשׇּׁה は女性であるから、述部のそれぞれ一致して男性の עֶבֶד、 女性の אׇמׇה となっている。
文3 の主部は הַבַּיִת 述部は קׇטוֹן וְיׇפֶה である。この述部はこれまでの名詞句と異なり、 二つの名詞を接続詞 וְ で連結した句である。このように名詞句は、その名詞句の構造が許す限り、名詞を連結することによって、いくらでも拡張することができる。この方法で述部を拡張するとき、主部との文法的一致は各語ごとに守られる。すなわち文4 のように、主部が女性名詞の הָעִיר に変わると述部の名詞は二つとも女性形に変わる。
文5 では、 יׇפֶה が述部, הַבַּיִת הַקׇּטוֹן が主部である。この第二の名詞句の中心は הַבַּיִת で、これを後続の הַקׇּטוֹן が修飾している。それは הַקׇּטוֹן が הַבַּיִת と性・数だけでなく、冠詞付きという点でも、一致していることから、分かるのである。冠詞付きの名詞を固有名詞等とともに定、定でない名詞を不定という。この הַבַּיִת と הַקׇּטוֹן のように、<被修飾部-修飾部>として統合された名詞句は、原則として、性・数だけでなく、定/不定に関しても一致する。中心となる名詞句が不定ならば、原則として、修飾部も冠詞をとらない、例えば בַּיִת קׇטוֹן 《ある一軒の小さな家》。定/不定は、このようにヘブライ語の文法規範のひとつであるが、意味の面からは、既にに述べたように(4.3.2)、その指示対象が読者(=聞き手)にとって既知の事項(=旧情報)であるか否かを示す。
文6の主部 הָעִיר הַקְּטַנָּה וְהַיָּפָה では、הׇעִיר が中心で、これを後続の名詞句 הַקְּטַנָּה וְהַיָּפָה が修飾している。この名詞句を文4と比べると文4の主部・述部が、この名詞句ではそれぞれ被修飾部・修飾部になっていることが分かる。ただし、修飾部は被修飾部と定/不定に関しても一致しなければならないから、接続詞 וְ で連結された二つの名詞が、それぞれ冠詞を取っている。この点を除けば、同じ名詞句が文4では述部として、ここでは修飾部として、機能しているわけである。