聖書ヘブライ語入門/女性形・形容詞/構文の説明

5.3 構文の説明

文14.1例文3の主部 הַמֶּ֫לֶךְ を女性名詞 המַּלְכׇּה に変えた文である。主部の性が男性から女性に変わったので、性・数一致の規則に従って、述部の性も女性形 חֲכׇמׇה に変わっている。 女性形であることは ה ׇ (-ā) という接尾辞が示している。数は単数のままで変わらない。 といっても、性の標識とは別に数の標識があって、これが変わらない、ということではない。 性・数の標識は常に融合しており、分離することができない。例えば

טוֹב ṭōḇ (男性・単数)

טוֹבִים ṭōḇīm (男性・複数)

טוֹבׇה ṭōḇā (女性・単数)

טוֹבוֹת ṭōḇōt (女性・複数)

のようである。

文2 は二つの名詞文を接続詞 וְ で連結した文である。 וְ に導かれる従属文(ここでは、厳密には従属節)では、主・述の順序が逆になっている(4.3.3)。 主部の הָאִישׁ は男性、הׇאִשׇּׁה は女性であるから、述部のそれぞれ一致して男性の עֶבֶד、 女性の אׇמׇה となっている。

文3 の主部は‏ הַבַּיִת ‎ 述部は‏ קׇטוֹן וְיׇפֶה ‎である。この述部はこれまでの名詞句と異なり、 二つの名詞を接続詞 וְ で連結した句である。このように名詞句は、その名詞句の構造が許す限り、名詞を連結することによって、いくらでも拡張することができる。この方法で述部を拡張するとき、主部との文法的一致は各語ごとに守られる。すなわち文4 のように、主部が女性名詞の הָעִיר に変わると述部の名詞は二つとも女性形に変わる。

文5 では、‏ יׇפֶה ‎ が述部, ‏ הַבַּיִת הַקׇּטוֹן ‎ が主部である。この第二の名詞句の中心は ‏ הַבַּיִת ‎で、これを後続の‏ הַקׇּטוֹן ‎ が修飾している。それは‏ הַקׇּטוֹן ‎が‏ הַבַּיִת ‎と性・数だけでなく、冠詞付きという点でも、一致していることから、分かるのである。冠詞付きの名詞を固有名詞等とともに、定でない名詞を不定という。この‏ הַבַּיִת ‎と‏ הַקׇּטוֹן ‎のように、<被修飾部-修飾部>として統合された名詞句は、原則として、性・数だけでなく、定/不定に関しても一致する。中心となる名詞句が不定ならば、原則として、修飾部も冠詞をとらない、例えば‏ בַּיִת קׇטוֹן ‎《ある一軒の小さな家》。定/不定は、このようにヘブライ語の文法規範のひとつであるが、意味の面からは、既にに述べたように(4.3.2)、その指示対象が読者(=聞き手)にとって既知の事項(=旧情報)であるか否かを示す。

文6の主部 ‏הָעִיר הַקְּטַנָּה וְהַיָּפָה‎ では、הׇעִיר が中心で、これを後続の名詞句‏ הַקְּטַנָּה וְהַיָּפָה ‎が修飾している。この名詞句を文4と比べると文4の主部・述部が、この名詞句ではそれぞれ被修飾部・修飾部になっていることが分かる。ただし、修飾部は被修飾部と定/不定に関しても一致しなければならないから、接続詞 וְ で連結された二つの名詞が、それぞれ冠詞を取っている。この点を除けば、同じ名詞句が文4では述部として、ここでは修飾部として、機能しているわけである。