9.3 指示詞
聖書ヘブライ語の指示詞には、日本語のコレ《話し手に近い物》、ソレ《話し相手に近い物》、アレ《両者に遠い物》のような対立も、また英語の this - that のようないわゆる近称―遠称の対立もない。指す物の性・数によって
זֶה 男性・単数 ― זאׁת 女性・単数 ― אֵ֫לֶּה 複数
が区別されるだけである(この他にも若干の異形はある)。
文1, 文3, 文8 では指示詞が名詞句を成している。主語か述語かということは、これらの文がいずれも同定文であるため、決定できない。指示詞は当然、定名詞に相当するからである。(例えば、文1 は「私の契約のしるしはこれだ」とも訳せる。)一方文2 の指示詞 זֶה は、 נַעַר 《若者》が他の若者ではなく、話し手の指さしている若者であることを、示している。このような場合、指示詞は名詞の前に置かれることもある(サムエル記上1755 では בֶּן־מִי־זֶה הנַּ֫עַר となっている。ついでながら、この文脈では「あの若者は…」と訳すべきであろう)が、後に置かれる例が多い。その際、
הָאִישׁ הַזֶּה 《こ(そ・あ)の男》
הָאִשָּׁה הַזּאׁת 《こ(そ・あ)の女》
הַיְלָדִים הָאֵ֫לֶּה 《こ(そ・あ)の子供たち》
のように、指示詞と名詞は性・数・定/不定において一致する。すなわち<被修飾部―修飾部>の構造を取る。そして
הָאַנָשִׁים הַיְשָׁרִים וְהַצַּדִּיקִים הָאֵ֫לֶּה 《こ(そ・あ)の直く正しい男達》
のように修飾部の最後に置かれる。
- 9.3.1 指示詞と人称代名詞の違い