9.3.1 指示詞と人称代名詞の違い
文6 の名詞句 הַיּוֹם הַהוּא 《その日》では、前の課で学んだ人称代名詞 הוּא が、文2 の指示詞 זֶה のように、その前の名詞を修飾している。このように三人称自立代名詞は、指示詞と同じ働きをするように見え、また同じく「それ」とか「これ」と訳されるため、人称代名詞としてだけでなく、指示詞としても扱われることが多い。ある人々は、 זֶה 、 זאׁת 、 אֵ֫לֶּה は近称 (this, dies-) で、 הוּא 、 הִיא 、 הֵם 、 הֵ֫נָּה は遠称 (that jen-) だ、と言う。しかし前にのべたように(8.3.2)、三人称代名詞は、ある名詞句を受けてその「代」わりに用いられる言語手段であり、従って何を指すかは文脈から明らかであるのに対し、指示詞は、物や人を直接指さしながら用いられるものであるから、それが何を指すかはその言語行為の場に居合わせなければ分からないのである。(我々のテクストでは、前後の説明から、それが分かることが多い。例えば上に引用した サムエル記上1755 では、この文の前に「サウルは、ダビデがかのペリシテ人にたち向かおうとして出て行くのをみて、将軍ブネルに言った」とある。一方、例えば創世記2633 などの「この日( הַיּוֹם הַזֶּה まで)」の「この日」(=「今日」)とは何時なのか、この記事が書かれた時点ということの他はわからない。指示詞と三人称代名詞とのことのような違いを、次の文で確認されたい―「(私が指示して)これ( זֶה )はお前と一緒に行くのだ、と私がお前に言う者、その者( הוּא )がお前と一緒に行くのだ…」(士師記74)。