法学刑事法刑法刑法総論違法性被害者の承諾・同意

ローマ法の格言には"Volenti non fit injuria.(同意あれば危害なし)"というものがあり、法益の放棄は可罰性を失うというのが古くから受け入れられてきた法慣習である。しかし、罪刑法定主義により犯罪の類型化が進んだ現在においては、「被害者の同意」により、一見成立した犯罪を、法益性の喪失の観点から不成立とする局面は限定的となっている。

「被害者の承諾・同意」概論 編集

刑法の謙抑性の観点から、法益を放棄したものについては実質的処罰根拠を欠くというものは正当な考え方である。しかしながら構成要件論の発達により、その内容の多くは、「本人の意に反して」等の形で構成要件自体に含有されているものと解される(これを「合意(Einverständnis)」と定義し、違法性阻却事由としての「同意(Einwilligung)」と区別する場合もある)。したがって、「被害者の承諾・同意」を違法性阻却事由として論ずる局面は後述するとおり、かなり限定的となっている。しかしながら、有効な「被害者の承諾・同意」を考察することは、違法性阻却事由のみならず構成要件を論ずるにおいても有効である。
有効な「被害者の承諾・同意」の、主体側の要件としては、
(1)法益が個人に属するものであること(後述)
(2)承諾能力があること
(3)承諾適格があること(原則は本人による承諾であり、代理を認めない)
(4)真意によるもの(錯誤がない)であること(但し、争いあり)
があげられ、その行使態様としては
(1)目的が合法である、又は違法でないこと、及び
(2)行為そのものが社会的に認容できるものであることが要求される。
行使態様における成立要件の具備状況については、ともに十分であれば異論なく同意ありとされるが、片方が欠ける場合又はその水準が低い場合には、いずれに比重を置くかで、行為無価値派と結果無価値派で争いがある。

承諾・同意の有効な範囲 編集

国家的法益・社会的法益 編集

これらの法益については、公の利益を刑法により保護しようとするものであるから、個人の意思は意味を持ち得ない。

国家的・社会的法益と個人的法益が重複する場合 編集

この場合も、原則として個人の意思は意味を持ち得ない。例えば、虚偽告訴罪において、被告訴人の承諾があっても犯罪の成立を妨げるものではない(というよりも、この場合侵害されたのは警察機能、裁判機能であり、例としては不適当か?)。但し、承諾が存在することにより処罰規定が変更される場合はある。現住者の承諾により、現住建造物放火罪非現住建造物放火罪となりうるし、所有者による所有物に対する放火は別罪を構成している。また、一般論として公的秩序の保護よりも個人的法益保護の側面の強い場合には、違法性阻却事由としうる。

個人的法益 編集

以上の考察から、被害者の承諾・同意が法益の放棄として意味をなし得るのは、個人的法益に関してのみであるという結論となるが、個人的法益といっても全く社会性を有していないというものではないため、個別の保護法益により適用の有無が分かれる。

生命 編集

被害者の同意があったとしても、自殺関与罪・同意殺人罪又は同意堕胎罪等が成立する。

自由・財産・名誉 編集

構成要件自体に、「被害者の意に反して」と言う要件が含まれているものと解され、そもそも犯罪が成立していない。

身体 編集

以上により、被害者の承諾・同意が法益の要保護性の放棄の問題として論じられるのは、身体的法益の場合のみであると言うことがわかる。

身体的法益等に関する被害者の承諾・同意 編集

暴行罪 編集

  • 承諾があれば構成要件該当性を欠く。
    典型的な例は、ボクシング等格闘技系のスポーツである。さらに、試合上の怪我の類は、その結果を認容していないことにより、故意を欠いており、また、スポーツ選手としての通常の注意義務を払っていれば、事故等により相手に怪我等が発生した場合であっても、過失もないと言うべきであろう。一方、喧嘩等の私闘、練習におけるしごきなどは、スポーツとは言い得ず、その結果傷害が発生すれば傷害罪の成立はもちろん、傷害に至らない場合でも暴行罪を成立させるのに支障はない。
    なお、私闘の一種で日時・場所を指定した決闘については、「決闘罪ニ関スル件」より、申入/応諾共に犯罪とされており、実行においては暴行罪よりも法定刑が重い。

傷害罪 編集

  • 違法性排除の限界
    • (行為)公序良俗に反さない、社会的相当性に反さない
    • (結果)傷害が重大でない、生命に危険がない

強制わいせつ罪強姦罪 編集

  • 強制わいせつ罪及び強姦罪については、承諾・同意があれば、そもそも本罪は成立していないが、相手方が13歳未満であれば、態様に関わらず本罪が成立する。これは、承諾・同意の行為能力の欠如について法が擬制したものである。

遺棄罪 編集

  • 遺棄罪における保護法益は非遺棄者の生命であり、いわゆる「姥捨て」のように被害者が真摯にそれを望んだとしても、違法性を阻却することはできない。

医療行為 編集

安楽死 編集

承諾・同意の錯誤 編集

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