テンポとは、拍をどれくらいの速さで打つか、ということです。拍を速く打てば1拍の長さは短くなり、拍をゆっくり打てば1拍の長さは長くなります。しかし、拍をどんな速さで打っても、つまりどのテンポでも、1拍は1拍であり、そのことに変わりはありません。

また、ゆっくりしたテンポでは1拍に大きな音価を使い(4拍子なら2分の4拍子など)、速いテンポでは小さな音価を使えば(8分の4拍子など)、わかりやすいかもしれません。しかし、実際に様々な楽譜を見てみると、ゆっくりしたテンポの曲に小さな音価を使ったり、速いテンポの曲に大きな音価を使ったりしています。

テンポは、楽譜では、文字などを使って、書き表されます。普通は楽曲の最初に書かれますが、途中からテンポが変わる場合などは、その部分に書かれます。

メトロノーム記号

60BPMで鳴らした正弦波

メトロノームという機械があります。この機械は、数字によってセットすれば、1分間にその数字だけ拍を刻んでくれる機械です。これを用いてテンポを書き表すのが、メトロノーム記号です。

メトロノーム記号は、次のように書かれます。

M.M.=60

M.M.とは「メルツェルのメトロノーム」ということです。メルツェルとは、メトロノームを作った人です。60は、メトロノームを60に合わせる、ということですから、この記号は、1分間に60拍はいるテンポを表します。同様に、

M.M.=120

は、1分間に120拍はいるテンポで、M.M.=60の倍のテンポになります。

また、M.M.はBPM(Beats Per Minute)と書き表すこともあり、意味は同じく1分間にいくつ拍が入るかというものになります。

しかし、普通は、メトロノームの打つテンポが何音符にあたるのかを明確にするため、

 =120

 =60

のように書きます。前者は一分間に四分音符が120個、後者は一分間に二分音符が60個入るようなテンポであるため、上のふたつは同じ速さを意味します。

速度標語

メトロノームが作られる前から、速度に関する表記がされてきました。「ゆっくり」とか、「はやく」などです。それは、メトロノームが作られてからも、併用して使われてきましたし、どちらかといえばメトロノーム記号よりもより多く使われてきました。

一般に、速度標語は、イタリア語で書かれます。19世紀以降の作品、特に声楽曲では、作曲者の言語、(声楽曲の)歌詞の言語で表されることもしばしば行われてきました。学習という観点から見ると、イタリア語の速度標語を覚えることが重要です。

なお、メトロノーム記号と併記する場合には、ふつう、メトロノーム記号をあとに書きます。 しかし、言葉で指定した場合、どんな速さで演奏するかの最終判断は演奏者に任されるため、非常に曖昧です。

-例- ある演奏者が”遅く”といっても、速めに演奏する(その逆もありうる)。

一定の速度を示す速度標語

遅いテンポを表すものと速いテンポを表すものとでは、ことばを強めたり弱めたりしたときの意味が逆向きになるので、注意が必要です。

Graveグラーヴェ重々しく
Largoラルゴ幅広くゆるやかに
LarghettoラルゲットややLargoLargoより速い
Adagioアダージョゆるやかに
Lentoレントゆるやかに
AdagiettoアダージェットややAdagioAdagioより速い
Andanteアンダンテ歩くような速さで
AndantinoアンダンティーノややAndanteAndanteより速い
Moderatoモデラート中くらいの速さで おだやかに
Allegro moderatoアレグロモデラート穏やかに速く
Animatoアニマート元気に
AllegrettoアレグレットややAllegroAllegroより遅い
AllegroAlloアレグロ快速に・陽気に
Vivaceヴィヴァーチェ活発に
Vivoヴィーヴォ活発に
Prestoプレスト急速に
Prestissimoプレスティシモ非常にPrestoPrestoより速い
Tempo giustoテンポジュースト正しいテンポで一般に心拍の速さ(M.M.=80くらい)と言われる。
Tempo di Valseテンポディヴァルスワルツのテンポで

相対的な速さを示す速度標語

それまでのテンポより、少し速く、少し遅く、というテンポを表すのに使われる速度標語です。遅くするもののうち、Meno mossoは数小節以上の部分を安定したテンポで演奏するために、ritenutoは1、2小節の部分を基準のテンポよりも遅く演奏するために用いられます。

Più mossoピウモッソそれまでより速く
Meno mossoメノモッソそれまでより遅く
ritenutoriten.リテヌートそれまでより遅く

速度の変化を示す速度標語

速度が一気に変わらず、少しずつ変わるときに、使われる速度標語です。だんだん遅くするrit.(リタルダンド)がもっともよく使われます。

ritardandorit.リタルダンドだんだん遅く
ritard.
allargandoallarg.アラルガンドだんだん遅くだんだんLargoに、という意味
rallendandorall.ラレンタンドだんだん遅くだんだんLentoに、という意味
accelerandoaccel.アッチェレランドだんだん速く
stringendostring.ストリンジェンドだんだん速く音強も強くするとされる。accelerando+crescendoと考えればよい。

その他の速度記号

曲の途中で変わったテンポを戻す記号などです。

a tempoアテンポ元の速さで速度の変化を示すものによる変化の前の状態に戻す
Tempo primoTempo Ioテンポプリモ曲頭の速さで
L'istesso tempoリステッソテンポ同じ速さで1拍の音価が変わっても拍の速さを同じにする

a tempoは、一時的なテンポの変化を戻すときに使われます。また、L'istesso tempoは、たとえば2/4拍子から6/8拍子に行くときに、1拍(2/4では四分音符、6/8では付点四分音符)の速さが変わらないことを示します。