電気 編集

クーロン力(静電気力) 編集

離れた2個の無限に小さい帯電体(点電荷)の間に働く力をクーロン力(静電気力)といい,原点に点電荷 があるとき,そこから の位置に置かれた点電荷 の受ける力 

  (1.1)

である。 はクーロン力の比例定数とよばれ, である( :真空の誘電率)。

  のときは、  は同符号なので、点電荷に働く力は斥力であり、  のときは、  は異符号なので、点電荷に働く力は引力である。

電場 編集

帯電体がある空間に、電荷を置くとその電荷は静電気力を受ける。これは帯電体が空間に影響を与え、電荷に力が加わったと考えることができる。このように、静電気力がはたらく空間の状態を電場(電界)という。

空間内の位置 に置いた十分小さい電荷 が力 を受けたならば,その位置の電場は単位電荷あたりの力,すなわちベクトル

 〔N/C〕(1.2)

で与えられる。(1.2)を変形すると

 . (1.2) 

(1.2) は,電場 中で点 に置かれた電荷 が受ける力を指す。この小電荷 を試験電荷という。

点電荷の作る電場 編集

 
正電荷の周りの電荷の向き

以上のように定義された電場がどのように生み出されるのかについて考えよう。静止した点電荷 があったとき, はそこから の位置に

  (1.3)

の電場を生み出す。電場の大きさは

  (1.3) 

である。

重ね合わせの原理 編集

 
電場の重ね合わせ

 の位置に複数の点電荷がつくる電場 は,それぞれの点電荷がつくる電場 のベクトル和である。

 . (1.4)

電気力線 編集

電気力線とは電場の方向を接線とする曲線である。

電位 編集

電場中に置かれた電荷が静電気力(クーロン力)を受けて運動するとき,静電気力は電荷に対して仕事する。静電気力は保存力なので,その仕事は重力がする仕事と同様,始点と終点の位置によって決まり,途中の経路によらない。したがって,重力と同様に静電気力による位置エネルギーが定義できる。電場において,重力場における「高さ」に対応する概念が電位である。

 平面を水平面に,鉛直上向きに 軸をとり, 方向を向いた一様な電場 を考える。この電場から電荷 の受ける力は ,これに逆らって電荷をゆっくり運ぶ力は .この電荷が の位置で持つ位置エネルギーは,この力  を基準点(原点O)から まで運ぶ仕事でそれは運ぶ経路によらず .そこで電位を単位電荷あたりの位置エネルギー

 

で定義する。

重力が等高面(位置エネルギー一定の面)に垂直で下(位置エネルギーの低くなる向き)を向いているのと同様,電場は等電位面に垂直で電位の低くなる向きを向いている。

一般の静電場の場合も同様で, 位置で電荷 がもつ位置エネルギーが,電場から受ける に逆らって を加え,基準点 からその点 まで電荷をゆっくり運ぶ仕事

  (1.5)

で定義される。静電気力が保存力であるためこの積分は から への経路によらない。そこで,電位単位電荷あたりの静電気力による位置エネルギー

  (1.6)

で定義する。つまり,ある点の電位とは,基準点からその点まで電荷をゆっくり運ぶために外力が単位電荷あたりにせねばならぬ仕事のことである。この定義より質量 ,電荷 の粒子に対する電場中でのエネルギー保存則は次のように表される。

 一定.(1.7)

また定義より,電荷 を電場の力 に抗して から まで運ぶために外力のする仕事 

  (1.8)

で与えられる。この 電位差又は電圧という。つまり2点間の電位差(電圧)とは電場に抗して電荷をその2点間で運ぶために単位電荷あたり要する仕事である。

点電荷 が原点にあるときの電位を求めよう。このとき電場は(1.3)で与えられるから,(1.6)は

 

となる。基準点を無限遠( )にとると,点電荷 がとる電場の電位は

 . (1.9)

コンデンサー 編集

 
コンデンサーの充電の仕組み

図のように2枚の金属板を平行に向かい合わせて、電源をつなげると、自由電子が導線を通り金属板に電荷が蓄えられる。


平行板コンデンサーの2つの金属板にそれぞれ   の電荷が蓄えられているとき、極板間の電位差   は次の関係がある。

 

ここで、  をコンデンサーの電気容量という。 電気容量の単位はファラド   が使われる。

平行板コンデンサーの電気容量 編集

 
平行板コンデンサーの電場

極板の間隔   で面積   の平行板コンデンサーの電気容量   を求める。

コンデンサーに電荷   が蓄えられているとき、極板間の電位差を   とする。このとき、極板間の電場    である。

極板から出る電気力線の本数    である。

また、ガウスの法則より、   である。

すなわち、電気力線の本数について

 

より、   を得る。

コンデンサーの蓄えるエネルギー 編集

電気容量   のコンデンサーが   の電荷を蓄え、極板間の電位差が   のとき、コンデンサーの蓄えるエネルギー   を求める。

コンデンサーに電荷   の電荷が蓄えられたとき、極板間の電位差は   である。この状態で微小電荷   を運ぶために必要な仕事は   である。これを   が 0 から   になるまで積分すればコンデンサーの蓄えるエネルギー   が求まる。

 

したがって、  である。

コンデンサーの接続 編集

コンデンサーを並列につなげたとき、このコンデンサー全体としてみたときの電気容量を求める。

電気容量   の電気容量を並列につなげ、電圧   の電源をつなげる。

それぞれのコンデンサーに蓄えられる電荷  

  である。

コンデンサーが蓄えた電荷の合計は   である。

コンデンサー全体としてみたときの合成電気容量   について   となるので、これと比較して

 

を得る。


コンデンサーを直列につなげたとき、このコンデンサー全体としてみたときの電気容量を求める。

電気容量   の電気容量を直列につなげ、電圧   の電源をつなげる。2つのコンデンサーが蓄える電荷は等しい[1]ので、これを   とする。それぞれのコンデンサーの電圧  

 

である。この和が電源の電圧   に等しいので

 

コンデンサー全体としてみたときの合成電気容量    となるので、これと比較して

 

である[2]

金属板や誘電体を差し込んだコンデンサー 編集

誘電体の誘電率   と真空の誘電率   の比  比誘電率という。

真空中で極板面積  、極板間隔   の平行板コンデンサーの電気容量    である。

このコンデンサーの極板間に比誘電率   の誘電体をすきまなく挿入したとき、コンデンサーの電気容量  

 

である。

直流回路 編集

電流 編集

導体断面を単位時間あたりに通過する電気量(電荷)を電流(英: electric current)という〔単位:A(アンペア)〕。時刻 において,電気量を とすると,微小時間 間に電荷が 通過するとき,電流 

 

である。また,断面積 〔m 〕,単位体積あたりの自由電子数が 〔個/m 〕の導体を電流が流れるとき,その電流の大きさ 〔A〕は電気素量を 〔C〕,自由電子の速さを 〔m/s〕として

 〔A〕

である。

電池の内部抵抗 編集

電池の内部にもわずかに電気抵抗は存在する。これを電池の内部抵抗という。

起電力   、内部抵抗   の電池に   電流が流れるとき、電池の端子電圧   は、内部抵抗による電圧降下は   であるから

 

である。

ジュール熱と消費電力 編集

電圧を ,電流を とすると,単位時間あたりの発熱量(ジュール熱) 

 .

起電力 、内部抵抗 の電池に の抵抗をつなぐとき、抵抗での電位差 はオームの法則より ,回路に流れる電流  であるから、抵抗での消費電力  

 

である。

ここで、  を変えたときの消費電力 の最大値を求める。

 
  • 解1
 の両辺を で微分すると
 .
 のとき
 .
よって における の増減表は以下のようになる。
  よって, のとき極大値 をとる。
  • 解2
相加平均・相乗平均より
 . (等号成立は   すなわち   のとき)

つまり、    は最小値   を取る。すなわち、  は最大値   を取る。

キルヒホッフの第1法則 編集

任意の結接点において,流入電流の和は流出電流の和に等しい

 .

キルヒホッフの第2法則 編集

任意の閉回路に対して,起電力(英: electromotive force)の和は電圧降下(英: voltage drop)の和に等しい

 .

磁気 編集

以下では磁気を扱う。その際外積(ベクトル積)を用いることがあるので必要に応じて参照されたい。

磁気力と磁場 編集

磁石に鉄粉をかけると磁石の両端によく付着する。この鉄粉を吸引する力の原料力とみられる部分(最も強い部分)を磁石の磁極という。磁極どうし或いは磁石どうし,電流どうし,電流と磁石が互いに引き合い或いは斥け合う力のことを磁気力(磁力)という。磁極の強さを表す量を磁気量〔Wb〕という。

電場が電荷に力を及ぼす空間の性質である一方,磁場(磁界)は運動している電荷に力を及ぼす空間の性質である。磁場は電場と同様に,大きさと向きを持つベクトルである。磁場ベクトル の点に,磁気量 〔Wb〕の磁極を置いたとき,この磁極に働く力を 〔N〕とすると

 〔N/Wb〕(2.1)

が成り立つ。

磁束密度 編集

磁束密度 とおくと,磁場 と真空の透磁率 を用いると

 (2.2)

と表される。なお,この磁束密度 のことを単に磁場と呼ぶこともある。

電流が作る磁場 編集

電流 の流れている導線Cを微小区間に分割する。電流によって作り出される磁場を定めているビオ・サヴァールの法則(英: Biot–Savart law)により,位置 にある微小区間 の電流が位置 に作る磁束密度は

 . (2.3)

電流全体の作る磁束密度は全微小区間からの寄与を足し合わせれば,つまり積分すれば求まる。

 . (2.4)

無限に長い直線電流 編集

 
無限に長い直線電流
 
右ねじの法則

右図のように,電流にそって をとり,磁場を求める点Pを通るように 軸をとると  空間において とおくと 軸上の微小区間 の電流が点Pに作る磁束密度は外積の性質より  に垂直,すなわち

 

 成分のみで, であるから

 .

よって電流全体が作る磁束密度 は(2.4)より

 .

ここで, とすると

 

であるから(置換積分)

 .

以上より直線電流が作る磁束密度は電流まわりに渦巻き状に分布し,電流から垂直距離 離れた位置では

大きさ:  (2.5)
向き: に垂直な面内で に対して右回り(右ねじの法則)

磁場が電流に及ぼす力 編集

 
フレミングの左手の法則

磁束密度(磁場) が長さ の電流 に及ぼす力(電磁力,アンペール力) 

 

と表され,磁束密度 と電流 のなす角を として外積の性質より

大きさ:  (磁場 と真空の透磁率 を用いると(2.2)より )
向き:フレミングの左手の法則に従う,或いは電流の向きと磁場の向きに垂直に立てた右ねじを電流の向きから磁場の向きに回したときに右ねじの進む向き

ローレンツ力 編集

一般に荷電粒子が磁場を横切ると,磁場から力を受けることが知られている。電場 ,磁束密度 の中で,速度 ,電荷 の荷電粒子に働く力

 

特に磁束密度 の中で速度 ,電荷 の荷電粒子に働く力

 

をローレンツ力(英: Lorentz force)という。磁束密度 と速度 のなす角を として外積の性質より

大きさ: 
向き:フレミングの左手の法則に従う,或いは正電荷のときに荷電粒子の速度の向きと磁場の向きに垂直に立てた右ねじを速度の向きから磁場の向きに回したときに右ねじの進む向き(負電荷では逆になる)

磁束 編集

閉曲線Cの正の向きを定め,その向きに右ねじを回してねじが進む向きにCの囲む面の法線ベクトル をとる。Cの囲む面の面積を としてCを貫く磁束 

 

特に が一様であるときは

 .

電磁誘導 編集

閉回路Cを貫く磁束が時間変化すると閉回路Cに誘導起電力が生ずる。その起電力 

 .
  1. ^ 2つのコンデンサーの間の電荷保存則より、2つのコンデンサーが蓄える電荷は等しい。
  2. ^ コンデンサーの合成電気容量の式の形は、抵抗の合成抵抗のものと、直列・並列が逆になっている。