高等学校保健体育座学編/癌の原因と予防

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本節では、2回に分けて癌を扱います。癌は中学生の時に軽く扱っていますが、より詳しく内容を解説します。

キーワード

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癌・生活習慣・細菌やウイルスによる感染・発癌性物質・一次予防・二次予防

癌とその種類

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癌とは

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癌になるまでの過程

 人間の体は約37兆個の細胞で出来ています。細胞を新しく作るための遺伝子が各細胞に入っています。普通、細胞が分かれて新しい遺伝子を作れるように、遺伝子は正しく複製されます(細胞分裂)。通常、異常な細胞が生まれても、免疫の働きから異常な細胞を取り除いたり直したりします。ところが、このような遺伝子の複製ミスが繰り返されると、異常な細胞も取り除いたり直したりしなくなります。その後、異常な細胞が急速に増えて、まわりの組織や臓器に広がります(浸潤)。さらに、異常な細胞はリンパ管や血管を通って、異常な細胞の発生場所からリンパ節や他の臓器に運ばれ、そこでも増えます(転移)。その結果、正常な組織の栄養を失って体が上手く働かなくなります。これをといいます。癌は日本の死亡原因の第1位になっています。

癌の種類と原因

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 癌には、肺癌・大腸癌・胃癌・乳癌など様々な種類があります。日本人は外国人と比べると、胃癌・大腸癌・肝臓癌・肺癌・乳癌にかかりやすくなっています。胃癌と肝臓癌はアジアでよくみられますが、欧米ではあまりみられません。大腸癌と乳癌は日本で増加していますが、胃癌と肝臓癌は減少しています。西日本は肝臓癌にかかりやすく、東北地方は胃癌にかかりやすくなっています。過去と現在の喫煙率の違いや地域による喫煙率の違いが、このような違いを引き起こしているかもしれません。

★主な癌(悪性新生物)の種類とリスク要因

種類 症状など リスク要因 リスク

低減

要因

肺癌 ◆理由は不明ですが、肺や気管支の細胞が癌細胞(悪性新生物)に変わります。

◆日本人の癌の中で最も多くの人が亡くなっており、ほとんどが男性です。

◆肺癌は最も治療困難な癌の1つです。

喫煙

受動喫煙

アスベスト

大腸癌 ◆大腸癌は、結腸・直腸・肛門に発生します。

◆日本人は直腸癌やS状結腸癌にかかりやすくなっています。

◆病状が悪化すると、血便、下痢や便秘の頻度も増えます。

◆病状が悪化すると、便が体内にあるような感覚になり、体重も減ります。

◆早期の自覚症状はあまりみられません。

飲酒

肥満

運動
胃癌 ◆ピロリ菌に感染すると、腸の粘膜で癌細胞が増えやすくなります。

◆男性がかかりやすく、50歳頃から増加します。

◆胃癌の種類としてスキルス癌があり、スキルス癌は胃壁が広がるにつれて厚く硬くなります。

喫煙

ピロリ菌

食塩

膵臓癌 ◆膵臓癌は、膵臓の細胞内にほとんど出来ます。

◆初期の症状はそれほどみられません。

◆症状がひどくなると、腹痛・食欲不振・腹部膨張感・黄疸などの症状がみられます。

喫煙

糖尿病

肝臓癌 ◆肝臓の細胞は、主に肝炎ウイルスに感染すると癌細胞に変わります。

◆女性よりも男性の方がかかりやすくなっています。

◆50歳代から増え始め、80歳前後でピークを迎えます。

喫煙

飲酒

肥満

肝炎ウイルス

糖尿病

コーヒー

乳癌 ◆乳癌は女性に最もよく見られます。

◆乳管(母乳を運ぶ管)からよく発生するので、乳管癌とも呼ばれています。

◆自覚症状として、乳房のしこり、リンパ節の腫れなどがあります。

肥満
子宮癌 ◆子宮癌には、子宮体癌と子宮頸癌の2種類があります。

◆子宮体癌は女性ホルモンの影響で子宮の奥に発生します。

◆子宮頸癌はヒトパピローマウイルスが子宮の入り口付近に感染して発生します。

◆もし、生理が来ていない時に出血したら、すぐに医師に相談してください。

喫煙

ヒトパピローマウイルス

白血病 ◆白血病の発症原因は、ほとんどわかっていません。

◆白血病は小児癌全体の約40%を占めています。

◆血球が癌細胞(白血病細胞)に変わり、増殖を繰り返して発生します。

◆貧血・発熱・頭痛・気分の悪さ・骨の痛みなどがみられます。

喫煙

 癌家系とは癌になりやすい人を表す言葉です。ほとんどの場合、喫煙・飲酒・食べ過ぎ・野菜不足・運動不足などの悪い生活習慣が原因です。このような事例に遺伝的要素はほとんどありません。最新の科学的研究がこのような事例を証明しています。しかし、全ての癌の発生原因はわかっていません。例えば、ほとんどの小児癌は、細菌・ウイルス・生活習慣と関係ありません。

細菌・ウイルスの感染と癌
 ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)が胃の中に入ると、胃炎が繰り返され、胃癌になります。胃癌の約80%はピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)から感染しています。また、B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスに感染すると、慢性肝炎から肝臓癌にかかりやすくなります。また、子宮頸癌の約90%はヒトパピローマウイルスから感染しています。

 タールは煙草の煙に含まれており、生活習慣に深く関係しています。人工化学物質に加えて、自然界の中にも発癌性物質が豊富です。私達はこのような物質と共存して生きています。

癌の予防

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リスクの軽減と一次予防

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 バランスよく健康的な生活を送ると、発癌率を下げて、癌の予防に繋がります。若い時から健康的な生活習慣を身につけるのはとても大切です(一次予防)。例えば、禁煙・清潔・適度な身体運動・栄養たっぷりの食事などが挙げられます。しかし、健康的な生活を送っていても、癌に罹る場合もあります。2023年現在、約2人に1人(男性の65%、女性の51%)が人生のどこかで癌にかかります。また、癌の種類によって発癌率も変わります。例えば、細菌やウイルスの感染を取り除いたり、予防したりすると、発癌率が下がります。このように、癌を予防するために、癌の危険因子を取り除きましょう。

早期発見

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 原因不明の癌もあるので、癌の早期発見・早期治療が大切です(二次予防)。癌は早期発見したら、すでに転移していても治ります。癌を早期発見するために、定期的な癌検診はとても大切です。特に40代を迎えたら、人間ドックなどで定期健診を受けましょう。

資料出所

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  • 第一学習社『高等学校 保健体育 Textbook編』北川薫ほか編著 2022年
  • 大修館書店『現代高等保健体育』衞藤隆ほか編著 2022年
  • 大修館書店『新高等保健体育』渡邉正樹ほか編著 2022年