電子と光 編集

ミリカンの実験 編集

ミリカンの実験とは、霧吹きなどで作成した油滴の微小な飛沫に、X線やラジウムなどで帯電させる。そして、外部から電場を引火する。すると、油滴の重力(下向き)のほかに、電場による静電気力(上向きになるように電極板を設置する)が働くので、釣り合って静止する状態になった時の電場から、電荷の値を確かめる実験である。

この実験で算出・測定される電荷の値が 1.6×10-6 [C]の整数倍になったので、電子1個の電荷が 1.6×10-19 [C]だと分かった。

なお、この 1.6×10-19 [C]のことを電気素量(でんきそりょう)という。


(※ 範囲外:)ミリカン以前からも電子の電荷は測定されている

化学の電気分解の実験で、金属の電気分解の実験の時に発生する気体が帯電していることは、ラボアジエなどによって古くから知られていた。実験物理学者タウンゼントは、発生した気体のモル数と、静電誘導などによって発生した電荷の合計を測定することにより、電子1個あたりの電荷を概算した。

精度は、現代の電子の電荷とケタが同じくらいの精度で、タウンゼントは電子の電荷の測定値を得た。




(※ 範囲外:) ミリカンに不正の疑いあり

世界各国の物理学の教育では、20世紀前半のミリカンの実験が、電子の質量を求める実験として、長らく紹介されてきた。

しかし20世紀後半ごろから、ミリカンの実験に対する疑念が科学界から提出されている。その疑惑の内容は、ミリカンは、自身の提唱する仮説に適合しない測定値を、測定誤差だとして断定してしまい、仮説にあわない測定値を排除してしまっているのかもしれない、という疑惑である。


この疑惑に反する反論もまた、科学界から提出されている。

どちらが正しいかについては、高校教科書では語るようなことではないので、それについては説明を省略する。


どちらにせよ、現代では、論文の投稿では、もし仮説にあわない測定値を読者にだまって排除してしまい、なのに、もとの実験データそのままのように論文発表してしまったら、データ改竄(かいざん)による不正行為とみなされるのが原則である。

もし例外的に、どうしても論文などで複数ある測定値のいくつかを抜粋せざるを得ないような事情のある場合には

(たとえば実験データが大量にありすぎて、すべてを紹介しきれない場合。
あるいは、仮説の内容を説明するために、複数回の実験をして、そのうち最も仮説に適合した回の実験データを公表する場合、など)、

そのような場合には、まず論文に、抜粋した部分的なデータであることを明記しなければならないだろうし、どういう基準で抜粋を行ったかも明記しなければならないだろう。

現代の科学論文では、実験結果のデータを書く際には、原則的に、実際の実験で得られたデータをそのまま記述するように努めて、論文を書かなかければならない。

※ 現代でも、しばしば学生実験などで、悪気がなくても、仮説にあわない実験データを、「実験ミス」と断定してしまい、測定値を書き換えてしまったり、あるいは、仮説にあわない測定値を隠してしまう不正行為が起きることもある。このような不正行為をしないよう、気をつけなければならない。


このように、ミリカンの実験については、いろいろと問題点があるので、大学入試には、ミリカンの実験について、あまり瑣末(さまつ)なことは出題されないだろう。もし、ミリカンの実験の結果を暗記するような入試問題が出題されたとしたら、出題者の見識が疑われる。

また、そもそもミリカンの実験の方法は、あまり精度が良くない。精度が悪い実験方法だからこそ、上記のような疑惑が残ってしまうのであろう。


光の粒子性 編集

光電効果 編集

(※ 実験結果グラフを追加すること。)
 
電子の運動エネルギーの最大値と、光の振動数との関係

負の電荷に帯電させてある金属板に、紫外線を当てると、電子が飛び出してくることがある。また、放電実験用の負極に電子を当てると、電子が飛び出してくることがある。この現象を、光電効果(こうでん こうか、photoelectric effect)という。1887年、ヘルツによって、光電効果が発見された。レーナルトによって、光電効果の特徴が明らかになった。

当てる光の振動数が、一定の高さ以上だと、光電効果が起きる。この振動数を限界振動数(げんかい しんどうすう)といい、限界振動数より低い光では、光電効果が起こらない。また、限界振動数のときの波長を、限界波長(げんかい はちょう)という。

物質によって、限界振動数は異なる。亜鉛版では紫外線でないと光電効果が起きないが、セシウムでは可視光でも光電効果が起きる。

光電効果とは、物質中(主に金属)の電子が光のエネルギーを受け取って外部に飛び出す現象のことである。 この飛び出した電子を「光電子」(こうでんし、photoelectron)という。

光電効果には,次のような特徴的な性質がある。

  • 光電効果は、光の振動数がある振動数(限界振動数)以上でないと起こらない。
  • 光電子の運動エネルギーの最大値は、当てた光の振動数のみに依存し、光の強さには依存しない。
  • 単位時間あたりに飛び出す光電子数は、光の強さに比例する。

これらの性質のうち、1番めと2番めの性質は、古典物理学では説明できない。 つまり、光を、電磁波という波動の性質だけを捉えていては、つじつまが合わないのである。

なぜなら、仮に、電磁波の電界(電場)によって金属から電子が放出すると考えた場合、もし光の強さが大きくなれば、振幅が大きくなるので、電界(電場)も大きくなるはずである。

しかし、実験結果では、光電子の運動エネルギーは、光の強さには依存しない。

よって、古典力学では説明できない。

アインシュタインの 光量子仮説 編集

上述の矛盾(古典的な電磁波理論では、光電効果を説明できないこと)を解決するために、次のような光量子仮説がアインシュタインによって提唱された。

  • 光は、光子(こうし、photon)の流れである。光子を、光量子(こうりょうし)ともいう。
  • 光子1個のエネルギーEは、光の振動数  [Hz]に比例する。

この2つめの条件を定式化すると、

 

となる。

この式における比例定数hはプランク定数とよばれる定数で、

 

[J・s] という値をとる。

仕事関数(しごと かんすう、work function)とは、光電効果を起こすのに必要な最小のエネルギーのことである。金属の種類ごとに、決まった値である。

仕事関数の値を W[J] とすると、光子の得る運動エネルギーの最大値 K0 [J] について、次式が得られる。

  (1.1)

この式より、光電効果が起こる条件は hν≧W となる。これは K0≧0 に相当する。

これより、光電効果が起こる限界振動数 ν0 について、hν0=W が成り立つ。

この光量子仮説により、光電効果の1番めと2番めの性質は、容易に、矛盾なく説明できるようになった。波動は粒子のように振舞うのである。 なお、光電効果の3番めの性質から、ある場所の光の強さは、 その場所の単位面積に単位時間、飛来する光子の数に比例することが分かる。


(※ 範囲外)じつは、説明の順序が逆

高校で先に光電効果を習い、大学であとから、プランクの理論を習う。

しかし、実は、物理学者プランクが先に(アインシュタインよりも早く)、エネルギーのやりとりの単位が hν であることを発見した[1]。そもそも、だからこそ定数 h をプランク定数というのである。つまり、ある種の物理現象においてエネルギーのやりとりの単位がhνであることは、けっしてアインシュタインが提唱したのではない(プランクの提唱である)。

プランクは、高温物体における光の放射(「熱放射」や「熱輻射」などという)の研究から、そのような発見をした。

では、アインシュタインが何を発見したのかというと、

  • 熱輻射だけでなく光電効果にもプランク定数が適用できるという学説、
  • 光の粒子説の提唱、

である。

なお、光電効果の比例係数を測定する実験は、アインシュタインの提唱後に物理学者ミリカンが調べており、たしかにプランク定数とほぼ同じ数値である事を確認している[2]


さて、プランクの実験を振り返ると、プランクはアインシュタインの研究とは別に、いろいろなことを調べていた。 じつは、20世紀前半の物理学者のウィーン(人名)やプランク(人名)などが高温の物体から出てくる光の波長と周波数を分析したところ、

次のような周波数fと周波数νの関係式が分かっている。

 

右辺の指数関数の分母にあるkがボルツマン定数である。


そして、右辺の指数関数の分母にあるh がプランク定数と言われる定数である。これは、高校『物理II』の原子物理の単元でのちに習う「光電効果」(こうでんこうか)に出てくるプランク定数 h と同じ定数である。

この式(および、この式のアイデアの元になったウィーンの公式)は、実験的に測定して確認できる式である。(ボロメーターと言われる測定器や、熱電対(ねつでんつい)とよばれる合金材料や、ホイットストーンブリッジと言われる電気回路を使う。)


そして、右辺の分母にある

 

に注目する。

さらに高校数学で習う等比数列の和の公式

  (ただし |r|<1)

を思い出して、これを参考に無限級数

 

の和を求めてみると(指数部にマイナスがついているので、必ず収束する)、

 

となるので、(右辺どうし、左辺どうしを)辺々、引き算して

 

左辺の係数を移項して

 


という、似た式が出てくる。

ここで終わらせてしまうと、プランクの式の分母の指数の式とは、似て非なる式で終わってしまう。(ネットををググっても、ここで終わらせてしまっている、不勉強な人が多い。物理学ファンを名乗るなら、もっと勉強してほしい。) (なお、この数列Sは、量子統計力学における「分配関数」という。)


ところで、何かのエネルギーの値をEとしたとき、  のことを、ボルツマン因子という。いきなり天下り的に名前を出したが、ボルツマン因子はたとえるなら確率みたいなものである。

また、上記の数列 S の物理的な意味は、確率計算をするための、全確率を1とするための規格化のための係数である。

また、計算しやすいようにボルツマン因子を次のように  を使って変形しよう。 すると、ボルツマン因子は、

  となる。

また、分配係数 S の和を求める前の形の式を、βを使ったボルツマン因子の式で置き換えよう。

 

となる。


さて、次の数列 P を求めよう。

 


この数列Pの物理的な意味は、飛び飛びなエネルギー n hν (ただし n=1,2,3,4・・・・)があるとした場合の確率的な平均エネルギー値 <E> に比例する数である。

なお、エネルギーの平均値<E>の式は、PをSで割った値である。

 


計算しやすいように β で書き換えよう。

 


さて、数列PをよくよくSと比べてみよう。比べ安いように再掲しておく。読者は何か気づくことはないかな? (ヒント: 微分)

 

比べてみると、なんと数列Pの各項は数列Sの各項をβで微分したものにマイナスを掛けた値になっている!!


つまり

 
  とは、多変数関数の微分(偏微分)の記号。大学で習う。「ラウンド ディー」などと読む。


ところで、数列Sは高校レベルの等比級数の和の公式により

 

とも書けるのであった。

計算しやすいようにβで置換して、

 

となる。

さらに微分しやすいように

 

と書き換えよう。 この数列Sの和の公式と、先ほどのマイナス微分の式   とを連立させてみよう。


すると、

 

とPが求められる。


しかし、私たちが最終的に求めたいのは、Pでなくて、エネルギーの平均値<E>であった。

<E>の式を再掲すると、

 

であった。

そして、PもSも級数和の式が求められているので、それを代入すると、

 


となる。分子の指数関数を消すために、分母と分子にともに   を掛け算して約分しよう。

すると、

 

となるので、だいぶプランクの式に似てくる。


プランクの式を再掲すると、

 

であった。


ところで、高校物理で習う光の波長λと速度Cと周波数νの関係式 C=νλ を使えば、プランクの式は、

 

である。

プランクは、この式を、式変形で、

 

というふうに、級数の和の形に書き換えられることに気づいた。


このことは、つまり、高温物体からの放射エネルギーを出す光のエネルギーが、放射現象のどこかで   の整数倍だけに限られる機構のあることを意味する。

このような感じのプランクのひらめきにより、現代に「量子力学」と言われる分野が19世紀に花開いた。


アインシュタインの光電効果の光粒子説は、単に、プランクのこのような研究をもとに、光電効果にも当てはめて連想しただけである。

その後、アメリカ人の物理学者の測定などにより、光電効果の係数が、プランクが放射の研究で用いた定数 h と同じことが確認された。


プランク自身は、あくまで量子化されているのは、実験的に確認されているのは高温物体の放射における現象だと慎重だったようであり、

光が波か粒子かの発言にはプランクはあまり関わらなかった。

だが、その後、アインシュタインの光粒子説がノーベル賞をとってしまったことなどもあり、それが世界的に光の粒子性の学説が広まっていった。

なお、アインシュタインの光電効果のノーベル賞は、本当は相対性理論にノーベル賞をあげようとノーベル賞の審査員は考えたが、しかし当時の学会には相対性理論への反対意見も多かったので、当たり障りのなさそうな光電効果の研究でノーベル賞をアインシュタインに授与しただけである。


さて、光電効果の式 E=hν-W と、プランクの放射式を比べれば分かるが、どちらが簡単な式かというと、明らかに光電効果の式のほうが係数の種類も少なく単純な形である。

なので、「きっと、光電効果のほうが、より基本的な物理法則に近い現象なのだろう」と考えるのも妥当であろう。教育で先に光電効果を教えてから、あとからプランクの研究成果を教えるのも、合理的かもしれない。

ただし、その基本的な物理現象とやらが、はたして光の粒子説かどうかは、実験は何も保証してくれてない。単に、人間たちが、ノーベル賞などの人間社会の権威の都合にもとづいて勝手に「光の粒子説こそが、光電効果の式の形が簡単になっている理由だ」と思い込んでいるだけである。



参考: 光の波長の測定 編集

(※ 範囲外)

そもそも、光の波長は、どうやって測定されたのだろうか。

現在では、たとえば原子の発光スペクトルの波長測定なら、回折格子をプリズムとして使うことによって、波長ごとに分け、波長が測定されている。(※ 参考文献: 培風館(ばいふうかん)『step-up 基礎化学』、梶本興亜 編集、石川春樹 ほか著、2015年初版、25ページ)

おおまかな原理を述べると、可視光ていどの光の波長の測定は、回折格子によって測定するわけだが、ではその回折格子の細かい数百ナノメートル〜数千ナノメートルていどの間隔の格子ミゾをどうやって作るのか、という問題に行き着いてしまう。

歴史的には、下記のように、可視光の波長が測定されていった。


まず、1805年ごろの「ヤングの実験」で有名なヤングらの研究により、可視光の波長は、おおむね 100nm(10-7m) 〜 1000nm の程度であることは、この頃から、すでに予想されていた。

その後、ドイツのレンズの研磨工だったフラウンホーファーが、すぐれた回折格子を開発し、可視光の波長を精密に測定する事に成功した。フラウンホーファーは回折格子を作るために細い針金を用いた加工装置を製作し、その加工機で製作された回折格子を用いて、光の波長の測定をし始めたのが、研究の始まりである。1821年にフラウンホーファーは、1cmあたり格子を130本も並べた回折格子を製作した。[3]

また、1870年にはアメリカのラザフォードがスペキュラムという合金を用いた反射型の回折格子を製作し(このスペキュラム合金は光の反射性が高い)、これによって1mmあたり700本もの格子のある回折格子を製作した。(要出典)

さらにこのころの時代、送りねじの潤滑のために水銀を使う水銀浮遊法が、研究開発で行われた。

より高精度な波長測定が、のちの時代の物理学者マイケルソンによって、干渉計(かんしょうけい)というものを用いて(相対性理論の入門書によく出てくる装置である。高校生は、まだ相対性理論を習ってないので、気にしなくてよい。)、干渉計の反射鏡を精密ネジで細かく動かすことにより、高精度な波長測定器をつくり、この測定器によってカドミウムの赤色スペクトル線を測定し、結果の波長は643.84696nmだった。マイケルソンの測定方法は、赤色スペクトル光の波長を、当時のメートル原器と比較することで測定した。[4]


マイケルソンの制作した干渉計にも、水銀浮遊法の技術が取り入れられている、という[5]


さらに、ネジの技術革新で、マートン・ナット(「メルトン・ナット」とも訳す)という、弾力性のある材質でネジをつくることによって誤差がならされて平均化されるので、超絶的に高精度の送りねじを作る技術が、イギリスの物理学者トーマス・ラルフ・マートン(英:en:w:Thomas Ralph Merton )などによって開発された。

なお、現代でも、研究用として干渉計を用いた波長測定器が用いられている。(要出典) メートル原器は、マイケルソンの実験の当時は長さのおおもとの標準だったが、1983年以降はメートル原器は長さの標準には用いられていない。現在のメートル定義は以下の通り。

メートルの定義
真空中の光の速さ c を単位 m s−1 で表したときに、その数値を 299792458 と定めることによって定義される。
ここで、秒はセシウム周波数 ∆νCs によって定義される。

光電効果の測定 編集

(※ 未記述)
(※ 回路図を追加すること。)
(※ 実験結果グラフを追加すること。)
 
光電効果の実験
 
電位と光電流の関係



備考 編集

太陽電池も、光電効果のような現象である、と考えられている。(※ 実教出版の教科書などで、扱っている話題。)

なお、太陽電池は一般的に半導体であり、ダイオード化したPN接合の部分に光を当てる必要がある。

(PN接合部分以外の場所に、光があたっても、生じた電力を、電流として取り出せない。電流として取り出せるようにするには、PN接合の部分に、光を当てる必要がある。このため、PN接合の片方の材質を、透明か、それに近い光透過率の材料にする必要があり、「透明電極」という。)


(※ 範囲外?: ) なお、発光ダイオード半導体は、この逆パターンとして考えられており、光電効果でいう「仕事関数」にあたるエネルギーをもった電流を流すことにより、その半導体物質の「仕事関数」にあたるエネルギーの光が、PN接合の接合面から放出される、という仕組みである。

なお、CCDカメラなどに使われるCCDは、太陽電池のような機能をもつ半導体を、電力源としてではなく、光のセンサーとして活用するという仕組みの半導体である。(※ 実教出版の教科書などで、扱っている話題。)

※ 普通科の範囲外: 超伝導の磁束の量子化 編集

(※ 普通科高校の『物理』系科目では習わないが、)

物理現象の量子化として、光電効果や物質波のほかにも原子スケールの物理現象の量子化はあり、ある種類の超伝導物質では、それに通した磁束が量子化する現象が知られている。(※ 工業高校の科目『工業材料』下巻(または科目の後半)で習う。)

※ 『工業材料』の教科書には書かれてない話題だが、磁束の量子化はジョセフソン素子などとして、電圧計測などの国家標準器として、日本をふくむ世界の工業国の各国で採用されている。
※ アインシュタインの「光量子仮説」が呼び名のとおり、あくまで仮説な一方で、超伝導における磁束の量子化は(説ではなく)観測事実・実験事実である。実際に超伝導に通した磁束が誘導現象でつくる電圧を精密に測定すると、電圧カーブが階段状にギザギザになったりする。(厳密に言うと、観測されるのは磁束のつくる誘導電圧の量子化だが・・・)
※ 工業高校では、教育の順序として、もしかしたら「光電効果」よりも「超伝導での磁束の量子化」を先に教えている可能性がある。(普通科の専門『物理』が3年生で教える一方、『工業材料』は1~2年生で教える場合もあるので) ひょっとしたら将来的に普通科高校でも「磁束の量子化」を先に教える可能性がありうる。

X線 編集

X線の発見 編集

 
X線管
陰極から出た陰極線を陽極にぶつけると、ぶつかった時にX線が出る。
 
X線管の原理


科学者レントゲンは、1895年、放電管をもちいて陰極線の実験をしていたとき、放電管のちかくに置いてあった写真乾板が感光している事に気付いた。

彼(レントゲン)は、陰極線がガラスに当たったとき、なにか未知のものが放射されてると考え、X線と名づけた。

やがて、さまざまな実験によって、X線は次の性質をもつことが明らかになった。

性質: 磁場や電場で曲がらない。

この事から、X線は、荷電粒子ではない事が分かる。(結論をいうと、X線の正体は、波長の短い電磁波である。)

また、

性質: X線を照射された物質はイオンに電離される。
性質: 可視光線を通さない物質でも、X線なら透過できる場合がある。

などの性質がある。

なお現代では、医療用のX線を「レントゲン」ともいう。

X線のスペクトル 編集

 
特性X線(K線)
特性X線
連続X線


X線の波動性 編集

1912年、物理学者ラウエは、X線を単結晶に当てると、写真フィルムに図のような斑点の模様にあることを発見した。これをラウエ斑点(はんてん)といい、結晶中の原子が回折格子の役割をしたことで発生した干渉現象である。


 
ブラッグの条件

1912年、物理学者ブラッグは、反射が強めあう条件式を発見した。

 

ブラッグの条件という。

上式のdは格子面の間隔の幅である。


(※ 範囲外:) いっぽう、ガラスなど非晶質の材料の場合、ブラッグ反射のような明確な回折は起きない。(※ 参考文献: 東京化学同人『無機化学 その現代的アプローチ 第2版』、平尾一之 など著、2013年第2版、2014年第2刷)


X線の粒子性 編集

  • コンプトン効果

X線を炭素塊などの(金属とは限らない)物質に当て、その散乱されたあとのX線を調べると、もとのX線の波長よりも長いものが、散乱したX線に含まれる。 このように散乱X線の波長が伸びる現象は物理学者コンプトンによって解明されたので、コンプトン効果(またはコンプトン散乱)という。


 
コンプトンによる実験略図。なお、図中の「単結晶」は波長の測定用であり [6] 、「単結晶」の材質は方解石の結晶であり、散乱波長はブラッグ反射などを活用して測定する。(コンプトン本人の論文“The Spectrum of Scattered X-Rays”(May 9, 1923).に、方解石(calcite)を使っていることと、ブラッグ反射(Bragg ?)させている事が書かれている。)

この現象は、X線を波と考えたのでは説明がつかない。(もし仮に波と考えた場合、散乱光の波長は、入射X線と同じ波長になるはず。なぜなら、水面の波に例えるなら、もし水面を棒で4秒間に1回のペースで揺らしたら、水面の波も、4秒間に1回のペースで周期を迎えるのと、同じ理屈。) さて、波動の理論でコンプトン効果を説明できないなら、粒子の理論で説明をすれば良いだろう。

この当時、アインシュタインは光量子仮説にもとづき、光子はエネルギーhνをもつだけでなく、さらに次の式で表される運動量pをもつことを発見している。

 

物理学者コンプトンは、この発見を利用し、波長λのX線を、運動量  とエネルギー を持つ粒子(光子)の流れと考え、 X線の散乱を、この光子が物質中のある電子と完全弾性衝突をした結果と考えた。

コンプトンはこの考えに基づき、光子と電子の衝突前の運動量和とエネルギー和が衝突後も保存されると仮定して計算して、実験結果と良く合うあう結果が得られることを発見した。
 
コンプトン効果
この図を見ると、あたかも真空中をただよう電子に電磁波を照射したように見えるが、そうではない。コンプトン効果の発見された1920年代の当時には、まだ、空中に電子をただよわせて精度よく電磁波を照射する技術など、無い。実際にコンプトンが行った実験は、石墨の炭素などの物質にX線を照射する実験である。図中の電子は、炭素などの分子が提供する電子である。
コンプトン本人の論文に、このような感じの図が書かれており、それでこのような図が普及したものと思われる。

解法は、下記のとおり。

エネルギー保存の式を立てる。
そして、運動量の保存の式を立てる。具体的には、x軸方向の運動量の保存の式と、y軸方向の運動量の保存の式を立てる。

エネルギー保存の式

  (1.2a)

運動量保存の式

x軸:   (1.2b)
y軸:  (1.2c)

上記の3つの式を連立し、この連立方程式を解くためにvとφを連立計算で消去させていき、 のときに   が得られる。

この式が実験式とよく一致するので、コンプトンの説の正しさは実証された。


  • コンプトン効果の連立方程式の具体的な解法

(編集者へ: 記述してください。)(Gimyamma より。解法を書いてみました。)


式(1.2a),(1.2b),(1.2c)から、  を消去して、  の関係式を求めればよい。

ⅰ)まず、式(1.2b),(1.2c)から を消去する。
式(1.2b)から
 
式(1.2c)から
 
この両式を加えると
 
この右辺を整頓すると、所望の
  (1.2d)

を得る。

ⅱ)式(1.2d)を式(1.2e)に代入してvを消去する:

式(1.2a)の右辺の第2項を変形して式(1.2d)を代入する。

 

これを式(1.2a)の右辺に代入すると

 

両辺を で割ると

  (1.2e)

を得る。 この式の右辺の第2項の括弧内を次のように変形する。

 

この式を式(1.2e)の右辺第2項に代入すると

 

この式の右辺の第1項を移行し、式を変形すると

 

両辺に を掛けると

  (1.2f)

X線の散乱では、 なので

 は、波長に比べて非常に小さい値になり無視できる。

故に式(1.2f)から

  (1.2g)

これで、所望の式が導出された。


範囲外: 光子の流体力学的解釈と運動量密度 編集

 
光子の流体力学的解釈

光の運動量 P[kg・m/s]=hν/c について、

まず cP=hν[J] と変形してみると、「速度に運動量をかけたものがエネルギーである」という内容の公式になっている。

これを理解するため、ひとまず、光を粒子であると同時に流体であると考えて、その電磁波が単位体積あたりの運動量pを持っているとして、その流体の運動量の密度(運動量密度)を p [(kg・m/s)/m3]としよう。この場合の電磁波は流体なので、運動量は、その密度で考える必要がある。

電磁波を物体に照射して、光が物体に吸収されたとしよう。反射はないとして、光のエネルギーはすべて物体に吸収されたとする。簡単のため、物体壁に垂直に光を照射したとする。物体への光の照射面積をA[m2]とする。

電磁波は光速 c[m/s] で進むのだから、壁からcの距離の間にあるすべての光子は、すべて単位時間後に吸収される事になる。単位時間に壁に吸収される光子の量は、その単位時間のあいだに壁に流れ込んだ光子の量であるので、


図のように、仮に底面をA[m2]として、高さhを c ( hの大きさはcに等しい。単位時間t=1をかけたとすれば h=c・1 である)[m]とする柱の体積 A×c[m3]中に含まれる光子の量の総和に等しい。

いっぽう、運動量密度は p[(kg・m/s)/m3]だったので、この柱 A×h に含まれる運動量の総和は、 A×h×p[kg・m/s]である。

光を吸収した物体の運動量は、単位時間にAhpの運動量が増加することになるが、h=cであったので、つまり、運動量が単位時間あたりに Acp[kg・m/s] だけ壁に流れこむことになる。

いっぽう、高校物理の力学の理論により、「運動量の時間あたりの変化は、力である」であったので、つまり物体は、Acp[N]の力を受ける。

力を受けるのは照射された面だから、力[N]を面積で割れば圧力の次元[N/m2]=[Pa]になる。

実際に面積で割る計算をすれば、圧力として cp[N/m2]=[Pa]=[J/m3] を受ける事が計算的に分かる。さらに、圧力の次元は[N/m2]=[Pa]=[J/m3]と変形できるので、「圧力は、単位体積あたりのエネルギーの密度(「エネルギー密度」という)である」と考えよう。

とすれば cp の次元は、[圧力]=[エネルギー密度] となる。

このエネルギー密度に、hνが対応していると考えれば、合理的である。

要するに、光のような、事実上は無限に圧縮できる波・流体では、

公式として、速度をv、運動量密度をp、エネルギー密度をεとして考えれば、

vp=ε

という関係がなりたつ。

(なお、水や空気のような普通の流体では、無限には圧縮できないので、上記の公式は成り立たない。)


われわれがコンプトン効果の学習で分かった運動量の公式   は、運動量密度とエネルギー密度の関係式に、光速cと光電効果のエネルギーhνを代入したものになっている。

上記の考察は、光を流体として考えた電磁波の運動量だが、粒子として解釈された光子の運動量にも、 cP=hν という関係が成り立つと考えよう。

もし読者が、圧力をエネルギー密度と考えるのが分かりづらければ、たとえば熱力学の仕事の公式 W=P⊿V の類推をしてはどうか? なお、上記の運動量とエネルギーの関係式の導出は大まかな説明であり、正確な導出法は、(大学で習う)マクスウェルの方程式によらなければならない。


おそらく、 「光は、電子に作用するときに、光が粒子として振舞う(ふるまう)」 というのが正しいだろう。

いっぽう、やみくもに「光は粒子! 光は波動ではない!!」(×)とかいうのは、単なる馬鹿のひとつ覚えである。

マクスウェルの方程式では、光(電磁波)は波動として、あつかうのである。


しかし、光電効果で起きる現象では、放出電子のもつ運動エネルギーは、光の強度とは無関係である。単純な流体として考えるなら、(たとえば集光させたり光を重ねたりして、)光の強度が上がれば、運動量密度も上がるハズだし、その帰結の放出電子のエネルギー密度も上がるハズだろいうという予測が成り立ちそうだが、しかし実験結果はその予測とは異なり、光電効果は光の強度とは無関係に光の周波数によって放出電子のエネルギーが決まる、・・・というのが、実験事実である。

このような実験結果から、20世紀初頭の当時、勃興していた量子力学などと関連づけて、「光も波であると同時に粒子である」と断定したのがノーベル財団などであり、光電効果を光の粒子説の根拠のひとつとしたのがアインシュタインの仮説であり、アインシュタインのその仮説を定説として認定したのがノーベル財団であり、現在の物理学では、光電効果が光子説の根拠として通説になっている。

光電効果の実験結果そのものは、単に、光電効果における「光」を、単純な流体・波動としては考えられないだろう・・・というだけの事である。

結局、物理学は実験科学であり、実験結果にもとづき実験法則を覚えるしかない。「光子」というアイデアは、「光電効果の放出電子1個あたりのエネルギーは、入射光の強度に寄らず、光の波長(周波数)による」という事を覚えやすくするための手段にすぎず、アインシュタインとその支持者にとっては、「光の粒子説」というのが、覚えやすくするためのモデルだっただけである(粒子なのに波長(周波数)とは、意味不明だが)。そして運動量密度とエネルギー密度の関係 vp=ε という知識もまた、光電効果の公式 cP=hν を覚えやすくするための手段にすぎない。

じっさいの光は、単純な波でもなく、単純な粒子でもなく、ただ単に、光は光であり、光でしかない。

「光の粒子説」というのは、真空中で媒質(ばいしつ)がなくても光が伝わる、という程度の意味合いでしかないだろう。アインシュタインが特殊相対性理論を発表する前までは、(20中盤以降から現代では否定されているが、)かつて「エーテル」という光を伝える媒質の存在が信じられていた。しかしアインシュタインは相対性理論により、エーテルの存在を否定した。

「光の粒子説」を発表していた者も同じくアインシュタインだったので、ノーベル財団は、本来なら特相対性理論でノーベル賞を授けるかわりに、光子説でノーベル賞をアインシュタインに授けただけだろう

粒子の波動性 編集

物質波 編集

物理学者ド・ブロイは、波と考えられてた光が粒子の性質をもつならば、きっと電子も粒子としての性質だけでなく、電子も波動のように振舞うだろうと考えた。

そして、電子だけでなく、一般の粒子に対しても、その考えを適用し、次の公式を提唱した。

質量m、速さvの粒子は波動性をもち、その波長は次式で与えられる。
 

これはド・ブロイによる仮説であったが、現在では正しいと認められている。

この波は、物質波(material wave)と呼ばれる。ド・ブロイ波(de Broglie wave length)ともいう。 すなわち、光子や電子に限らず、あらゆる物質は粒子性と波動性をあわせ持つといえる。


この物質波という説によると、もしも電子線を物質に当てれば、回折などの現象が起きるはずである。

1927年〜1928年にかけて、デビッソンとガーマーは、ニッケルなどの物質に電子線を当てる実験を行い、X線回折と同様に電子線でも回折が起きることを実証した。日本でも1928年に菊池正士(きくち せいし)が雲母片に電子線を当てる実験により回折が起きることを確認した。

電子線の波長は、高電圧をかけて電子を加速して速度を高めれば、物質波の波長はかなり小さくできるので、可視光の波長よりも小さくなる。

そのため、可視光では観測できなかたった結晶構造が、電子波やX線などで観測できるようになった。生物学でウイルスが電子顕微鏡で観測できるようになったのも、電子の物質波が可視光よりも大幅に小さいからである。

粒子と波動の二重性 編集

参考: 電子ビームによる波動性の干渉実験
 
ブラウン管の電子銃
 
電子の二重スリットの干渉実験
 
二重スリット実験の結果
(※ 検定教科書で習う範囲内です。)

電子銃(でんしじゅう)という実験装置がある。銃といっても、べつにSFのような兵器ではなく、電子銃とは単に電子を放出するだけの装置である。

さて、この電子銃をもちいて、1個づつ電子を当てる実験を、二重スリットを使って実験すると、図のように、波動のように、電子の多く当たった場所と電子の少なく当たる場所との縞模様ができる。



このように、電子にも粒子性と波動性があり、電子は粒子でありつつ、二重スリットに向かって電子を撃ち込むと干渉を起こすという波動性も持っている。


上述のような、さまざまな実験の結果から、すべての物質には、原子ていどの大きさの世界(以降、単に「原子スケール」などと略記する)では、波動性と粒子性の両方の性質をもつと考えられている。 このことを粒子と波動の二重性という。

  • 参考: 不確定性原理
 
物理学者ハイゼンベルグ
不確定性原理の主要な提唱者である。

そして、原子スケールでは、ある一つの物質(主に電子のような粒子)について、その位置と運動量の両方を同時に決定する事はできない。このことを不確定性原理(ふかくていせい げんり)という。


原子・原子核・素粒子 編集

原子 編集

 

物理学者ガイガーと物理学者マースデンは、(ラジウムから出した)α粒子をうすい金ぱくに当てる実験を行い、α粒子の散乱の様子を調べた。(なお、α粒子の正体はヘリウムの原子核。)その結果、ほとんどのα粒子は金ぱくを素通りするが、金ぱく中の一部の場所の近くを通ったα粒子だけが大幅に散乱する現象を発見した。

この実験結果からラザフォードは、原子核の存在をつきとめた。


原子は、中心に原子核があり、そのまわりを電子が運動するというラザフォードモデルとよばれるモデルによって説明される。


原子(atom)は、全体としては電気的に中性であり、負の電荷を有する電子を電子殻に持つ。 ここで、ミリカンの実験 による結果などから、電子の質量は水素イオンの質量の約1/1840程度しかないことが分かっている。 すなわち、原子は電子と陽イオンとが含まれるが、質量の大部分は陽イオンがもつことが分かる。 原子核の大きさは原子全体の1/10000程度であるため、原子の大部分は真空である。 原子核は、正の電荷をもつZ個の陽子(proton)と、電気的に中性な(A−Z)個の中性子(neutron)からなる。 陽子と中性子の個数の合計を質量数(mass number)という。 陽子と中性子の質量はほぼ等しいため、原子核の質量は、質量数Aにほぼ比例する。

水素原子のスペクトル 編集

高温の物体から発光される光には、どの(可視光の)色の波長(周波数)もあり、このような連続的な波長の光を連続スペクトルという。

いっぽう、ナトリウムや水素などの、特定の物質に電圧がかけられ放電したときに発光する波長は、特定の数本の波長しか含まれておらず、このようなスペクトルを輝線(きせん)という。

パルマーは、水素原子の数本ある輝線の波長が、次の公式で表現できることに気づいた。

  (2.1)

上式中の「m」はメートル単位という意味。(上式のmは代数ではないので、間違えないように。)

その後、水素以外の原子や、可視光以外の領域についても、物理学者たちによって調べられ、次の公式へと、物理学者リュードベリによって、まとめられた。

  (2.2)

上式のRはリュードベリ定数といい、 /mである。

量子論と原子の構造 編集

 
原子内の定常波

ラザフォードの原子模型に従えば、電子は、まるで惑星の公転のように原子核を中心とする円軌道の上を一定の速度で運動する。

円運動する質点は加速度をもつので、このモデルの電子は加速度運動を続けることになる。
ところが古典電磁気学の分野で、加速度運動をおこなう電荷は電磁波を放出して、エネルギーを失うという法則が既に発見されていた。
この法則によれば、原子核の周りをまわる電子は電磁波を放出し続け、エネルギーを絶えず減らしていく。それにつれて電子は原子核に向けて落下していくため、原子核との距離を小さくしながら原子核の周りを回転し、やがて原子核に衝突してしまう。円軌道の上を安定的に運動することは不可能なのである。
物理学者ボーアはラザフォードの原子模型の深刻な矛盾を克服し、さらに水素原子の放出する線スペクトルについても説明できる原子模型を作るため、
プランクの提唱したエネルギー量子化の考えとアインシュタインの光量子論を取り入れた大胆な仮説を立てた(1913年)。
  • 仮説1;量子条件

原子核を中心とする半径r[m]の円軌道を速さv[m/s]で回転する電子の軌道角運動量  の正整数倍しかとりえない,すなわち

  (2.3)

を満たさねばならない(角運動量の量子化)。この状態を定常状態,この条件を量子条件という。

ここで、m[kg]は電子の質量を、hは プランク定数である。
このボーアの式の正整数nを量子数(りょうしすう)という。

後年(1924年)、ド・ブロイは「物質粒子は波動性を持ち、その波(物質波)は、波長

 

をもつ」と提唱した。また,(2.3)を変形すると

 .

これらは電子の軌道一周の長さが電子の物質波の波長の正整数倍のとき,電子波は定常波になることを示している。

これは、円軌道上に定常波ができるための条件と同じである。
※ 検定教科書でも、ボーアの式の表記は、速度vをつかって表される表記である。
  • 仮説2;振動数条件

電子はあるきまったとびとびのエネルギーしか持たない。このとびとびのエネルギー値をエネルギー順位という。

電子がエネルギー順位を から に遷移する(エネルギーを失う)ときには、 できまる振動数 の一個の光子を放出し、
逆にエネルギー順位Eの電子が外部からエネルギー を得ると、エネルギー順位E'に遷移する。

エネルギー準位 編集

 
水素原子内での電子の円運動

水素原子において、電子軌道上にある電子のエネルギーを求める計算をするが、まず、そのためには、原子の半径を求める必要がある。

  • 半径

水素の電子が原子核 を中心とする半径rの円軌道上を一定の速度vで運動しているとすれば、運動方程式は

 

で表される。

一方、電子が定常波の条件を満たす必要があるので、前項の式(1)から、

 

である。

このvをさきほどの円運動の式に代入して整頓すれば、

 

(ただし、n=1, 2 , 3 ,・・・)

になる。こうして、水素原子の電子の軌道半径が求まる。


さきほどの軌道半径の式でn=1のとき半径r1を「ボーア半径」という。


  • エネルギー準位

原子の世界でも、運動エネルギーKと位置エネルギーUの和が、エネルギーである。

位置エネルギーUは、この水素の電子の場合なら、静電気エネルギーを求めれば充分であり、電位の式によって求められて、

 

となる。

運動エネルギーKは、 なので

 

上式の右辺第一項に、

円運動の方程式 の両辺にrを掛けた

 を代入すれば、

 

となる。

さらに、これに電子の軌道半径 の式(3)を代入すれば、

 

となる。これが水素原子のエネルギー準位である。

エネルギー準位の公式をよく見ると、まず、エネルギーが、とびとびの値になることが分かる。また、エネルギーが負になる事がわかる。

n=1のときが、もっともエネルギーの低い状態であり、そのため、n=1のときが安定な状態である。よって、電子は通常、n=1の状態になる。

なお、

 に諸定数の値を入れて計算すると
 となるので、
水素原子のエネルギー順位は
 と書ける。
 は、約 13.6 eV になるが、これは水素のイオン化エネルギーの値である。これは、実験値にも、よく一致する。
 水素原子のスペクトルの経験式の理論的導出 編集

水素原子の発する光のスペクトルの実測値を表すリュードベリの経験式については、既に「水素原子のスペクトル」の項でで説明した。

ボーアの水素原子モデルに基づいて得られたエネルギー順位と振動数条件の仮説を用いれば、この式が以下のように理論的に導出できる。
任意の正整数m、n(>m)を考える。
すると、振動数条件の仮説により

電子がエネルギー順位 から、低いエネルギー順位 に遷移するときに、振動数   の光子を一個放出する。

この光子の波長λは

  で与えられるので、右辺のエネルギー順位に式(4)を代入すると

 

が得られる。   で、リュードベリ定数Rを定義すると、式(5)は

 

Rの定義式中の諸定数に値をいれて計算すると

 

驚くべきことに、リュードベリの経験式が、見事に導出できたのである。 これは、ボーアの仮説の妥当性を示すものと言えよう。

通俗的な「光は粒子であり波である」という説明 (※ 範囲外)

粒子と波動の二重性についての「光は粒子であり波である」という説明は、分かりやすいが意味を勘違いしやすい。

より正しくは、 「原子スケールていどの物理現象を扱うときは、古典物理のような(人間の肉眼でも観察できる程度の大きさの)巨視的な分野の「粒子」と「波」では、区別できない現象にも遭遇する。」とでも言うほうが、より正確である。

実験事実としての「光」は、巨視的な分野では基本的には「光」は波の性質をもつが、しかし巨視的でない原子などの微細な粒子への「光」の作用などを考える場合には、光電効果のように一定のエネルギーのかたまり毎に不連続に作用する現象もあるわけであるから、連続量である(古典的な)波とは性質が違う。

かといって、原子に当たる波は微視的だからといって、原子に当たった「波」がけっして質量をもつようになるわけでない。質量にはついては古典的な波と同様に、原子スケールの微視的な波でも、質量は持たない。

このように原子スケールの微視的な「波」でも、質量については、古典的な波と共通し、「波」そのものは質量をもたない。

このように、原子スケールの波においても、質量など いくつかの性質では、巨視スケールとひきつづき同様の性質をもっている要素もある。


同様に、電磁放射の問題のように「電子が波の性質をもつ」現象もあるが、しかし電子は質量をもつ。また、化学結合のさいには(化学1の授業でも習うように)「価電子」という電子の粒子1個ずつの単位を考えるのであるから、このように原子スケールであっても、電子は古典的な粒子と共通する性質も いくつか持っている。

そもそも原子からの電磁放射のないことから論理的に言えることは、単に、巨視的な分野と、原子のような微視的な分野では、「法則が違う」という事だけであり、その事だけでは、必ずしも「電子は波である」とは断定できないハズであるのだが、しかし人類は、物質波などその他の実験結果をもとに、人類は「電子は波である」と仮定して、20世紀初頭ごろに物理学の新理論(当時)を理論構築し、それが現代でも続いている。


(※ 範囲外: 大学の範囲) 実際の特性スペクトルの波長は、原子内部の電子の影響により、若干、ズレる。そういった内部電子の補正を考慮した、より精度の高い式として「モーズリーの公式」というのが知られている。なお歴史的な順序は、上述の説明の順序とは逆である。じつは先にモーズリーの式が発見され、あとから、モーズリーとは別に独立に研究されていた上述のようなボーアやラザフォードの理論を用いると、モーズリーの公式もうまく説明できるという事が物理学者コッセルによって発見された[7]。なおモーズリーの公式について調べたいなら、大学科学の量子化学などの科目名の教科書に記載があるだろう。


基底状態と励起状態 編集

(※ 未記述)

原子核 編集

原子核の構造 編集

原子核は、陽子と中性子からできている。 陽子は正電荷をもち、中性子は電荷をもたない。


では、なぜプラスの電荷をもつ陽子どうしが、なぜクーロン力で反発してしまわないのだろうか?

この理由として、つまり陽子どうしがクーロン力で反発しないための理由として、次のような理由が考えられている。

まず、陽子に中性子が近づいて混合すると、「核力」という非常に強い結合力が発生し、 この核力が陽子同士のクーロン力による強い斥力に打ち勝つので、陽子と中性子は結合していると考えられている。(必ずしも、陽子と中性子の個数は同一でなくてもいい。実際に、周期表にあるいくつもの元素でも、陽子と中性子の個数は異なる。)


比喩的に言い換えば、中性子は、陽子と陽子を結びつける、ノリのような役割をしていると、考えられている。

(※ 範囲外:) 原子番号の低い元素において、陽子と中性子の個数は、ほぼ同数である場合が多い。たとえば、酸素や窒素では、陽子と中性子は同数である。一方、元素番号の高い元素ほど(つまり周期表で下のほうの元素)、陽子よりも中性子が多く、たとえばウラン235は中性子数が陽子数の1.5倍である。このような、周期表における陽子数と中性子数の観測事実がある(周期表を調べれば、すぐに分かる)。これには核力の性質が関係していると考えられている[8]
(発展: )なお、20世紀後半以降の素粒子論では、陽子と中性子はさらに小さな物質から成り立っているとされる。だが、高校生はこの単元の学習では、原子核の構成要素としては、とりあえず陽子と中性子までを考えれば十分である。

なお、名称として、陽子と中性子をまとめて「核子」と呼ばれる。


ある元素の原子核の陽子の数は、周期表の原子番号と一致する。

また、陽子と中性子の数の和は質量数とよばれる。

質量数Aの原子核は非常に強い核力のために、小さな球体状の空間の中に固まっており、その半径rは、    であることが知られている。

原子核の結合エネルギー と質量欠損 編集

任意の原子核は、それを構成する核子である陽子と中性子が自由であるときの質量(単体質量という)の和より、小さい質量をもつ。この減った質量を、質量欠損と呼ぶ。 質量数A、原子番号Zの原子核の質量欠損 を、式で書けば, 原子核の質量をm、陽子と中性子の単体質量をそれぞれ としたとき、

 である。


(※ 範囲外: )原子にもよるが、一般に質量欠損の大きさは、もし欠損のない状態として仮定した場合の理論値の1%ていど[9]である。精密測定で1%というのは、けっこう大きい割合である。
(※ 範囲外: )質量欠損の後でも、質量数(核子における陽子と中性子の個数の合計)は通常は保存されている[10]。つまり、質量数が保存されているのにもかかわらず、質量(キログラム)を測定すれば、その核子の質量(キログラム)がわずかに欠損しているのである。


原子レベルの質量の測定法
 
質量分析器の模式図。試料導入部およびイオン源(左下)、分析部(左上、磁場偏向型)、イオン検出部(右上)、データ処理部(右中)からなる。

そもそも、どうやって原子や分子の質量を精度よく測定するか?

これは、「質量測定法」と言われる技術分野になり、高校レベルでは説明できない。(アインシュタインが果たして、そういった測定技術を知っていたかどうかも疑わしそうである。)


参考文献が未入手なので、断言はできないが、一般に原子レベルの質量測定法として精密科学でよく知られるものとして、右図のような、磁場によって荷電粒子を曲げる方式のものがある(※ 高校物理のローレンツ力の計算でも、似たような実験装置での円軌道の計算を習う)。

このような磁場とローレンツ力を用いた方式による質量測定は一般に、「磁場偏向型」といわれる。

このような装置により、磁場や電化の大きさは実験的に決定できるので、曲率が質量の関数になるので、つまり半径から質量が逆算できる。


測定対象の元素材料が中性の原子であっても、その原子が固体なら、それに電子ビームを当てて、電子によって弾き飛ばされた材料が帯電してイオン化しているので、それから、上記のような磁場による質量測定が可能になる。

(※ しかし、参考文献が未入手なので、はたしてこの方法で質量欠損が測定できるかどうかは未確認。)


文献、

西條敏美『測り方の科学史 II 原子から素粒子へ』、恒星社、2012年3月15日 初版発行、77ページ、

 によると、1919年に科学者アストン(人名)によって質量分析器が発明されたので、質量欠損もそれを用いて測定された、とその文献では主張されている。

重要なこととして、こらら原子の質量は測定的に決定できる数値である。けっして、何らかの仮定にもとづく理論計算ではない。また、古典物理以上の知識(相対性理論や量子力学など)を必要としない、古典的な電磁気学などの古典物理学にもとづく実験装置で測定できる実験事実である。

なお、化学の同位体の存在やその質量も、このころ、このような装置で発見された。


なお(高校では習わないが)、原子質量がいくつもの元素で測定できるので、派生的に、まず

化学の理論で分かる原子番号Zと原子量Aと、測定された原子の質量の測定値Mをもとに、

Z,AからMを求める公式が作成された(ワイツゼッカーの公式。1935年)。

また、原子半径の予想値なども算出されていった(レインウォーター(人名)。1953年)。



 質量欠損の原因  編集

測定実験の事実として、陽子単独や中性子単独の質量の倍数や和よりも、それらの結合した原子核のほうが質量が低いので、陽子や中性子が結合すると質量の一部が欠損するというのが、測定結果の事実である。

なので、質量欠損のとりあえずの原因として考えられているのは、陽子や中性子どうしの結合である[11]と考えられている。

だが、では、なぜ陽子や中性子が原子核として結合すると質量が欠損するかの理由としては、けっして「結合だから」という理由では説明がつかない。

なので、物理学者たちは、質量欠損の起きる根本的な原因となる物理法則して、アインシュタインの相対性理論を適用している。(検定教科書でも、相対性理論の結果であるとして説明する立場)


(アインシュタインの特殊)相対性理論から導かれる結果として(※ 備考: 相対論には一般相対論と特殊相対論の2種類がある)、質量mとエネルギーEには、

 

という関係式があるとされる。

なお、C とは光速の値である。

あるいは別の書式として、変化を表すデルタ記号Δを使て、

 

などと書く場合もある。

つまり、もし何らかの理由で、真空から質量が発生または消失すれば、そのぶんの莫大なエネルギーが発生するというのが、相対性理論でのアインシュタインなどの主張である。


さて、自由な陽子と中性子は、核力により結合するとき、その結合エネルギーに相当するw:ガンマ線を放射することが知られている。

そして、ガンマ線にもエネルギーがある。

なので、陽子と中性子の結合したときのガンマ線のエネルギーは、質量欠損によって生じたと考えると、測定結果とツジツマが合う。(測定結果は、あくまで質量が欠損することまで。)

核子の結合において、質量欠損 が、ガンマ線などのエネルギーに転化した、と物理学者たちは考えている。

放射能と放射線 編集

元素の中には、放射線(radiation)を出す性質をもつものがあり、この性質を放射能(radioactivity)という。 また、放射能をもつ物質は放射性物質といわれる。 放射線には3種類存在し、それぞれα線、β線、γ線という。

α崩壊は、親原子核からヘリウム原子核が放射される現象である。 このヘリウム原子核はα粒子とよばれる。 α崩壊後、親原子核の質量数は4小さくなり、原子番号は2小さくなる。

β崩壊は、親原子核の中性子が陽子と電子に変化することで、電子が放射される現象である。 (備考: このとき、反ニュートリノとよばれる微小な粒子も同時に放出されると、近年の学説では考えられている。)

なお、この電子(ベータ崩壊として放出された電子のこと)は「β粒子」ともよばれる。

β崩壊後、親原子核の質量数は変化しないが、原子番号は1増加する。

γ線は、α崩壊またはβ崩壊直後の高エネルギーの原子核が、低エネルギーの安定な状態に遷移するときに放射される。 γ線の正体は光子で、X線より波長の短い電磁波である。

α崩壊やβ崩壊によってもとの原子核の数は徐々に減っていくが、これらの崩壊は原子核の種類ごとに決まった一定の確率で起きるので、崩壊によってもとの原子核の数が減る速度は原子核の個数に比例して変化する。しかし、崩壊によってもとの原子核の数が半減するのにかかる時間は、原子核の種類だけによってきまる。そこで、この時間のことをその原子核の 半減期(はんげんき、half life ) と呼ぶ。崩壊によって原子核の個数がどれだけになるかは、この半減期を用いて記述することができる。原子核の半減期をT、時刻tでの原子核の個数をN(t)とすると、

 

が成り立つ。

発展・公式の導出 編集

原子核の崩壊速度は、原子核の個数に比例すると述べた。実は、上に述べた公式はこの情報だけから純粋に数学的に導き出すことができるものである。高等学校では扱わない数学を用いるが、興味のある読者のためにその概要を記しておく。

原子核の個数と崩壊速度の間の比例定数は原子核の種類によって決まる。この定数をその原子核の崩壊定数という。崩壊定数がλの原子核の時刻tでの個数をN(t)とすると、その変化速度、すなわちN(t)の微分は、

 

で表される。このような、ある関数とその微分との関係を表した式を微分方程式といい、微分方程式を満たすような関数を求めることを、微分方程式を解くという。(詳しい解法は解析学基礎/常微分方程式で説明するが、)この微分方程式を解くと

 

が得られる。(この式が確かに先ほどの微分方程式を満たしていることを確かめてみよ)

半減期Tとは、 となるtのことなので、先ほどの式から

 

が得られる。よって、

 

が得られる。

'
(※ 範囲外: 科学思想における影響.) 上述の「半減期は原子核の種類によって決まる」という事は、言い換えれば「半減期は原子核の種類によってしか決まらない」という事でもある。これの意味する事は、やや天下り(あまくだり)的な説明だが、上述のような放射性壊変などの現象は「放射壊変は、確率論的に発生している物理現象である、という可能性が高い」という意味である。
たとえば、ウラン鉱石から(発見当時の技術では無理だが)原子1個ぶんを取り出したあと、半減期の時間が経ったからって、そのウラン原子が、けっして「確実に放射壊変して別原子に変化している」とは言えない、のである。確率論的・統計数学的に「半減期の時間が経過したら、だいたいこのくらいの量や確率で放射壊変している」としか言えない、という意味である。
(その他、分子数などでは決まらない事から、けっして古典的な熱力学のような、複数の分子間(あるいは複数の原子間)における相互作用の現象でもない、という事も意味する。また、温度によって半減期や放射壊変の結果が変化しない事から、化学反応ではないことも言える[12]。)
「確率論」という用語に対して一方、「決定論」(けっていろん)という別の哲学的な用語がある。古典力学、いわゆるニュートン力学などのような初期値や初速度さえ決まれば原理的には、未来の現象を精度よく計算できるような現象あるいは世界観のことを、「決定論」という。
かつて、ガリレオやニュートンなどの古い時代の物理学は、決定論的な世界観を前提としていた(ガリレオなどが『決定論』という用語を知っているかは、ともかく)。
しかし、放射壊変などの現象が「確率論的である」という事の意味はつまり、とする「決定論」に対して、放射壊変などが反例のような現象になっているという意味である。これはつまり、それ以前の決定論的な世界観に対する、大変革を意味する。
読者の高校生も、物理1(物理基礎)などの科目で、確率の方程式などを見たことが無いだろう。少なくとも高校物理の(物理1、物理基礎のような)力学の範囲では、少なくとも法則を記述する式としては、指数や対数の式も、読者は質点の学では見たことが無いハズだ。(熱力学の公式では、発展的(やや範囲外)な分野の法則に、指数を使う公式が若干ある。)
なお、熱力学では統計的な考え方を用いるが、これは決定論的な世界観の時代の古い物理学者にとっては、「もし気体原子が1個だけなら、その運動は決定論的に記述できるが、しかし原子の個数が膨大すぎるので、人間が計算できないから、しかたなく統計的な考え方を使っているだけである」という風に、便宜的に統計を用いているだけであるという世界観であり、古典熱力学は決定論の破綻とは思われていなかった。
実際、高校物理2の熱力学で習うような気体分子運動論も、理論の創始者であるマクスウェルやボルツマンなどは、決定論的な前提で、気体分子の運動を解析していた[13]


しかし、原子物理における放射壊変はそうではなく、そもそも扱う物質(たとえばウラン鉱石など)が気体である必要は無いし、(ウラン鉱石などは固体なので静止しており)そもそも運動してないし、また、多数の原子の集団である必要すらもなく、つまり原理的には1個の原子または数個程度からなる結晶であっても良い。つまり気体熱力学のような多数の粒子からなる内部構造をもたないにも関わらず、放射改変はその法則を表す基本公式のそのもの自体4に、統計的な式が含まれている。
しかも放射壊変は、物質を構成する原子そのものの現象である。
だから、熱力学の場合とは違い、放射壊変は、(のちの物理学からの後知恵であるが)決定論的な世界観だけでは説明できない事であり、のちの量子力学(りょうしりきがく)などにつながる、いわゆる『現代物理学』といわれる、(放射壊変の分野が、後知恵だが)物理学の新しい世界観につながる分野の先駆けとなったという意義がある。
(※ ・・・というような感じのことがよく、科学史などで語られるのだが、しかしネットで確認した範囲では裏づけになりそうな資料・論文などが得られなかった。)
(たしか高校物理では、上述のような感じのことを物理科の教師が授業中に口頭で説明したりする場合がある。しかし科学思想などは高校物理の範囲外なので、検定教科書には記載されない。また、必然的に大学入試にも出題されないので、上述の科学史の歴史観については丸暗記は不要。

高校物理では、放射能の分野とは別に、原子の「物質波」とか、電子の「波動性」とかの現代物理的な波動の概念を、物理2(専門物理)科目で習い、そういった波動性に関する事も、ニュートン力学的な決定論の破綻になる。だが、その「波動性」うんぬんの理論を前提としなくても、放射壊変という実験事実だけでも、(質点や剛体の運動のような)ニュートン力学的な決定論的な世界観が、くつがえされるされるのである。

実際、コラム外の上記の本文の話題では、一切、電子や原子などに波動性があるかどうかの話題はしていない。

なお、高校物理の教育では、よく、放射破変の単元で、上述のようにニュートン力学の決定論が破綻している事を教えることにより、高校の頭を現代物理的な世界観にならしすことで、のちの単元の物質波や電子の波動性などの単元に導入しやすいようにするく・・・というような教育手法が行われたりする。


原子核反応 編集

 
霧箱(きりばこ)の実験。陽子は電荷(正電荷)をもっているため、霧箱でも観測することができる。 (※ この画像は、陽子の観測実験ではない。霧箱の原理説明のための画像である。)
霧箱(きりばこ)という、蒸気のつまった装置をつかうと、なんらの粒子が通過すると、その粒子の軌跡で、気体から液体から凝着が起きるので、軌跡が、目に見えるのである。(イメージ的には、飛行機雲のようなのを、イメージしてください。) で、磁場を加えた場合の、軌跡の曲りぐあい等などから、比電荷までも予想できる。
  • 陽子の発見

ラザフォードは、窒素ガスを密閉した箱にα線源があると、正電荷をもった粒子が発生することを発見した。

この正電荷の粒子が、陽子である。つまり、ラザフォードは陽子を発見した。

同時に、酸素も発生することを発見し、その理由は窒素が酸素に変換されたからであり、つまり、原子核が変わる反応も発見した。

これらのことを式にまとめると、

 

である。

このように、ある元素の原子が、別の元素の原子に変わる反応のことを 原子核反応 という。または、「核反応」という。


(※ 範囲外: )霧箱は、種類にもよるが、普通、エタノールまたはアルゴンの気体が封入される[14]
霧箱のような実験装置の用途として、陽子の実験の用途のほか、原子核反応の回数を観測する目的でも使うことが出来る。放射線の測定器のいわゆる「ガイガーカウンター」の原理も、霧箱と類似している。原理的な放射線測定器であるガイガー・ミュラー管には気体(アルゴンやエチレンガスなどの不活性な気体)が封入されている。霧箱のように気気体を封入した測定管に、高電圧をかけた電気極板を追加することで、放射線をとらえるようにしたものがガイガー管である[1]。物理学者ガイガーは、このような測定器を開発し、さらに原子核反応によって生成されるヘリウム分子を集めて気体として封入し、(※ wiki補足: そのヘリウムに気体の状態方程式などを適用する事により、)当時としては最高水準の精度でアボガドロ定数を測定する事に成功した[15]。当時知られていた、プランクの熱輻射の理論から算出されるアボガドロ定数の値や(ボルツマン定数 Na k と気体定数 k の比からアボガドロ定数 Na が求められる)物理学者ベランがブラウン運動から求めたアボガドロ定数に、ガイガーのアボガドロ定数の精度は匹敵する精度であった[16]


  • 中性子の発見

素粒子 編集

 
霧箱実験。サッと現れる白い軌跡が、荷電粒子や放射線が通過した跡。
 
霧箱を覗き込む物理学者(1957年)。中心にポロニウムが置かれており、そこから放射される放射線(アルファ粒子)が、花びらのような形で可視化されている。

まず、宇宙線の観測により、μ粒子というのが、発見されている。

範囲外: どうやって素粒子を観測するか 編集

そもそも、どうやって素粒子を観測するかというと、いくつかの方法があるが、

写真乾板。(素粒子観測用の乾板を「原子核乾板」という)
霧箱

などが使われた。

霧箱(きりばこ) 編集

(※ 高校で習う範囲内。X線や原子核の単元で、霧箱(きりばこ)を習う。)

霧箱(きりばこ)という、蒸気のつまった装置をつかうと、なんらの粒子が通過すると、その粒子の軌跡で、気体から液体から凝着が起きるので、軌跡が、目に見えるのである。(※ 検定教科書では、原子核の分野で、霧箱について習う。)(イメージ的には、飛行機雲のようなのを、イメージしてください。)

で、磁場を加えた場合の、軌跡の曲りぐあい等などから、比電荷までも予想できる。

このように、霧箱をつかった実験により、20世紀前半〜中盤ごろには、いろいろな粒子が発見された。

μ粒子以外にも、陽電子(ようでんし)が、霧箱によって発見されている。

(※ 範囲外:)世界初で陽電子を実験的に観測したアンダーソンは、霧箱に鉛板を入れることで陽電子を発見した。

というか、(μ粒子の発見よりも)陽電子のほうが発見は早い。

(※ 範囲外:)また、陽電子は、量子力学のシュレーディンガー方程式に、特殊相対性理論とを組み合わせた、「ディラックの方程式」から、理論的に予想されていた。

反物質 編集

まず、「陽電子」という物質が1932年に鉛板を入れた霧箱(きりばこ)の実験でアンダーソン(人名)によって発見されており、陽電子は質量が電子と同じだが、電荷が電子の反対である(つまり陽電子の電荷はプラスeクーロンである)。(※ 鉛板については高校の範囲外。)

そして、電子と陽電子が衝突すると、2mc2のエネルギーを放出して、消滅する。(この現象(電子と陽電子が衝突すると2mc2のエネルギーを放出して消滅する現象)のことを、「対消滅」(ついしょうめつ)という。)


陽子に対しても、「反陽子」がある。反陽子は、電荷が陽子と反対だが、質量が陽子と同じであり、陽子と衝突すると対消滅をする。

中性子に対しても、「反中性子」がある。反中性子は、電荷はゼロだが(ゼロの電荷の±を反対にしてもゼロのまま)、質量が同じで、中性子と対消滅をする。

陽電子や反陽子や反中性子のような物質をまとめて、反物質という。


(※ 範囲外: )放射性同位体のなかには、崩壊のときに陽電子を放出するものがある。最先端の病院で使われるPET(陽電子断層撮像法)技術は、これを応用したものである。フッ素をふくむフルオロデオキシグルコースという物質はガン細胞によく取り込まれる。PET診断では、これに(フルオロデオキシグルコースに)放射性のフッ素 18F をとりこんだ放射性フルオロデオキシグルコースを用いている。(※ 啓林館の『化学基礎』の教科書に、発展事項としてフルオロデオキシグルコースがPET診断で使われてることが紹介されている。)

μ粒子 編集

 
宇宙線は、図のように、地球の大気圏などに含まれる原子核に衝突することにより、いくつもの二次的な宇宙線を発生する。地球の高山で観測できる宇宙線は、二次的な宇宙線のほうである。いっぽう、宇宙空間を飛んでいる宇宙線は、一次宇宙線という。(※ 高校の範囲内) 宇宙線として観測されるμ粒子や陽電子やπ中間子は、このような現象によって発生したと考えられている。


反物質とは別に、μ粒子が、宇宙線の観測から、1937年に見つかった。

このμ粒子は、電荷は、電子と同じだが、質量が電子とは違い、μ粒子の質量は、なんと電子の約200倍の質量である。

μ粒子は、べつに陽子や電子の反物質ではないので、べつに陽子とも対消滅を起こさないし、電子とも対消滅を起こさない。

なお、μ粒子にも、反μ粒子という、反物質が存在することが分かっている。


このような物質が、われわれの住んでいる地上で見つからないのは、単に地上の大気などと衝突して消滅してしまうからである。

なので、高山の頂上付近などで観測実験をすると、μ粒子の発見の可能性が高まる。

なお21世紀の現在、μ粒子を活用した技術として、現在、火山などの内部を観察するのに、活用されている。μ粒子は、透過力が高いが、地上の物質と反応して、わずかに消滅してしまうので、そのような性質を利用して、火山内部のように人間が入り込めない場所を観察するという技術が、すでにある。


μ粒子などの素粒子を検出するために、写真乾板を使う。通常の写真乾板とは違い、粒子線のような細かいものを捕らえられるように調整されており、「原子核乾板」という。(「原子核乾板」については範囲外。)
乾板中の成分にμ粒子が当たることで、電気化学的な反応が起こり、乾板が反応する。
早い話、X線とX線乾板の原理と同じような原理で、μ粒子を使った(火山などの)内部研究が行われてた。近年は、原子核乾板の代わりに、半導体センサーを使って、検出している(要するに、デジカメの光センサーなどと同じ原理)。
  • μ粒子の発生方法

このような観測に使われるμ粒子をどうやって発生させるのか?

宇宙線から飛んでくるμ粒子をそのまま使うという方法もありそれを実行している研究者もいるが、それとは別の手法として、加速器などで人工的にμ粒子などを発生させるという方法もある。


加速器を使った方法は、下記の通り。

まず、シクロトロンやサイクロトロンを使って、電子などを超高速に加速させ、それを一般の物質(グラファイトなど)に当てる。

すると、当然、いろんな粒子が発生する。

そのうち、π中間子が、磁気に反応する(と考えられている)ので、大きな電磁石コイルで、π中間子を捕獲する。


このπ中間子が崩壊して、μ粒子が発生する。

※ 範囲外: 宇宙線の発生原因は不明 編集

そもそも宇宙線が何によって発生しているかの発生原因は、現時点の人類には不明である。(※ 参考文献: 数研出版の資料集の『図説物理』)

超新星(ちょうしんせい)爆発によって宇宙線が発生するのでは、という説もあるが、とにかく宇宙線の発生原因については未解明である。

範囲外?: スピン 編集

電子や陽子や中性子などは、「スピン」という磁石のような性質をもっている。磁石にN極とS極があるように、スピンにも、2種類の向きがある。スピンのこの2種類の向きは、「上向き」と「下向き」に、よく例えられる。磁石の磁力の発生原因は、磁石中の分子の最外殻電子のスピンの向きが同一方向にそろっているから、であると考えられている。

全分子は、電子や陽子や中性子を含むのに、なのに多くの物質が、あまり磁性を発生しないのは、反対符号のスピンをもつ電子が結合しあうことで、打ち消しあうからである。

(てっきり、電子と陽子のような電荷をもつ粒子にしかスピンがないと誤解している人もいるが、中性子にもスピンはある。)

中学高校で観測するような普通の方法では、スピンが観測できないが、分子などの物質に磁気を加えつつ高周波を加えるなどすると、スピンの影響によって、その分子の振動しやすい周波数が違うなどの現象をもちいて、間接的に(電子などの)スピンを観測できる。(なお、核磁気共鳴法(NMR、nuclear magnetic resonance)の原理である。 ※ 理論的な解析は、大学レベルの力学の知識が必要になるので省略する。) 分子中の水素原子や、ある種の放射性同位体(中性子がたった1個ふえただけの同位体)など、高周波の影響を受けやすく、その理由のひとつが、スピンによるものだと考えられてる。(※ なお、医療で用いられるMRI(magnetic resonance imaging)は、この核磁気共鳴法(NMR)を利用して人体内部などを観測しようとする機器である。)

さて、実は素粒子も、スピンをもつのが普通である。

μ粒子はスピンをもつ。

μ粒子の「スピン」という性質による磁気と、μ粒子の透過性の高さを利用して、物質内部の磁場の観測方法として既に研究されており、このような観測技術を「μオンスピン回転」という。超伝導体の内部の観測などにも、すでに「μオンスピン回転」による観測が研究されている。

ウィキペディア記事『w:ミュオンスピン回転』によると、μオンの崩壊時に陽電子を放出するので、陽電子の観測技術も必要である。(高校の範囲外であるが、)これからの学生は、いろいろと勉強する事が多い。

陽子と中性子のアイソスピン 編集

陽子と中性子は、質量はほとんど同じである。電荷が違うだけである。

そして、電子と比べると、陽子も中性子も、質量がかなり大きい。

この事から、「陽子や中性子にも、さらに中身があり、別の粒子が詰まっているのでは?」という疑問が生まれてきて、陽子や中性子の内部の探索が始まった。

しかし、現在でも、陽子や中性子の内部の構造は、実験的には取り出せてはいない。(※ 陽子や中性子の内部構造として説明されている「クォーク」は、単独では発見されていない。クォークは単に、内部の説明のための、概念である。)

歴史的には、まず、陽子と中性子の内部構造として、架空の素粒子を考えられ、陽子と中性子は、それらの素粒子の状態が違うだけ、と考えられた。

いっぽう、電子には、内部構造がない、と考えらている。

され、20世紀なかば、量子力学では、そのころ、すでに、電子の状態として「スピン」という概念が、みつかっていた。量子力学では、化学結合で価電子が2個まで結合して電子対になる理由は、このスピンが2種類しかなくて、反対向きのスピンの電子2個だけが結合するからである、とされている。

スピンの2種類の状態は、「上向き」「下向き」というふうに、よく例えられる。(実際の方向ではないので、あまり深入りしないように。)

このような量子力学を参考にして、陽子と中性子でも「アイソスピン」という概念が考えられた。(※ 「アイソスピン」は高校範囲外。)

陽子と中性子は、アイソスピンの状態が違うだけ、と考えられた。

クォーク 編集

その後、20世紀半ば頃から、「アイソスピン」を発展させた「クォーク」という理論が提唱された。

架空の「クォーク」という3個の素粒子を仮定すると、実在の陽子や中性子の成り立つモデルが、実験結果をうまく説明できる事が分かった。

電荷( )をもつ素粒子「アップクォーク」と、±( )をもつ素粒子「ダウンクォーク」があって、

 で陽子、
 で陽子、

と考えると、いろいろな素粒子実験の結果をうまく説明できる事が分かった。

なお、電子には、このような内部構造はない、と考えられいる。

アップクォークは「u」と略記され、ダウンクォークは「d」と略記される。

陽子のクォーク構造はuudと略記される(アップ、アップ、ダウン)。

中性子のクォーク構造はuddと略記される(アップ、ダウン、ダウン)。

加速器実験と中間子 編集

なお、上記の説明では省略したが、おおよそ1950〜60年代ごろまでに、高山での宇宙線の観測や、あるいは放射線の観測や、またあるいはサイクロトロンなどによる粒子の加速器衝突実験により、陽子や中性子のほかにも、同程度の質量のさまざまな粒子が発見されており、それら新種の粒子は「中間子」に分類された。

そもそも、「クォーク」の理論は、このような20世紀半ばごろまでの実験や観測から何百個もの新種の粒子が発見されてしまい、そのような経緯があったので、クォークの理論が提唱されたのである。

さて、「中間子」(ちゅうかんし、mason メソン)とは、もともと理論物理学者の湯川秀樹が1930年代に提唱した、陽子と中性子とを引き付けているとされる架空の粒子であったが、20世紀なかばに新種の粒子が発見された際、「中間子」の名前が使われることになった。


さて、実験的に比較的早い時期から発見された「中間子」では、「π中間子」がある。ある種類のπ中間子は、アップクォークと反ダウンクォークからなり、π+と略記される。(ダウンクォークの反物質が、反ダウンクォーク。) π 

別のある種類のπ中間子は、ダウンクォークと反アップクォークからなり、πと略記される。π- 

このように、ある粒子内のクォークは合計2個のであっても良い場合もある。(かならずしも、陽子のようにクォーク3個でなくてもかまわない場合もある。)

(※ このような実験例から、粒子内に合計5個のクォークや7個のクォークを考える理論もあるが、しかし高校物理の範囲を大幅に超えるので、説明を省略。)

また、中間子は、自然界では短時間のあいだだけ、存在できる粒子だという事も、観測実験によって、分かってきた。(中間子の存在できる時間(「寿命」)は短い。すぐに、他の安定な粒子に変換してしまう。)

第2世代以降の素粒子 編集

しかし、アップとダウンだけでは、説明しきれない粒子が、どんどんと発見されていく。クォークの提唱時の当初は、おそらく、 「クォークのアップとダウンで、きっと、ほとんどの中間子の構造を説明できるだろう」 と期待されていたのだろうが、しかし、宇宙線から1940年代に発見された「K中間子」の構造ですら、アップとダウンでは説明できなかった。

このほか、加速器の発達などにより、アップとダウンの組み合わせだけで説明できる数を超えて、どんどんと新種の「中間子」が発見されてしまい、もはやアップとダウンだけでは、中間子の構造を説明しづらくなってきた上、μ粒子が、説明できない。

また、加速器実験により、1970年代に「D中間子」など、さまざまな中間子が、実験的に実在が確認された。

このように、アップとダウンだけでは説明のできない、いろいろな粒子が存在することが分かり、そのため、素粒子理論では、「アップ」(u)と「ダウン」(d)という2種類の状態の他にも、さらに状態を考える必要に、せまられた。そして、新しい状態として、まず「チャーム」(記号c)と「ストレンジ」(記号s)が考えられた。加速器実験の技術が発展し、加速器実験の衝突のエネルギーが上がってくると、さらに「トップ」(記号t)と「ボトム」(記号b)というのが考えられた。

なお、μ粒子には内部構造はないが、陽子や中性子に電子を対応させるのと同様に(第1世代)、チャームやストレンジからなる陽子的・中性子的な粒子とμ粒子を対応させた(第2世代)。同様に、トップやボトムからなる粒子にμ粒子を対応させた(第3世代)。

クォークとレプトン
種類 電荷 第1世代 第2世代 第3世代
クォーク   アップ (u) チャーム (c) トップ (t)
  ダウン (d) ストレンジ (s) ボトム (b)
レプトン   電子 (e ) μ粒子 (μ ) τ粒子 (τ )
電子ニュートリノ(νe μニュートリノ(νμ τニュートリノ(ντ

電子やμ粒子は内部構造をもたないと考えられており、「レプトン」という、内部構造をもたないとされるグループに分類される。

「K中間子」は、第1世代のクォークと第2世代のクォークから成り立っている事が、分かっている。(※ 検定教科書の範囲内。)

そして、2017年の現在までずっと、クォークの理論が、素粒子の正しい理論とされている。

用語 編集

素粒子の観点から分類した場合の、陽子と中性子のように、クォーク3個からなる粒子のことを、まとめて「バリオン」(重粒子)という。π中間子(π )など、クォークが2個の粒子は、バリオンに含まない。

しかし、中間子のなかにも、ラムダ粒子(uds、アップダウンストレンジの組み合わせ)のように、クォーク3個からなる粒子もある。ラムダ粒子なども、バリオンに含める。

陽子と中性子やラムダ粒子などといったバリオンに、さらに中間子(中間子は何種類もある)を加えたグループをまとめて、「ハドロン」という。

なお、普通の物質の原子核では、陽子と中性子が原子核に集まっているが、このように陽子と中性子を原子核に引き合わせる力のことを核力という。核力の正体は、まだ、あまり解明されていない(少なくとも高校で教えるほどには、まだ充分には解明されていない)。

ともかく、バリオンには、核力が働く。通説では、中間子にも、核力は働くとされている。つまり、ハドロンに、核力が働く。

ハドロンは、そもそもクォークから構成されている事から、「そもそもクォークに核力が働くのだろう」的な事が、考えられている。

理論では、クォークとクォークどうしを引き付けあう架空の粒子として「グルーオン」が考えられており、物理学者から理論が提唱されているが、その正体は、まだ、あまり解明されてないが、しかし物理学者たちは「グルーオンを発見した」と主張している。

現在の物理学では、クォークが単独では取り出せていないのと同様に、グルーオンも単独では取り出せてはいない。


さて、物理学では、20世紀から「量子力学」という理論があって、この理論により、物理法則の根源では、波と粒子を区別するのが無意味だと言われている。そのため、かつては波だと考えられていた電磁波も、場合によっては「光子」という粒子として扱われるようになった。

このように、ある波や力場(りきば)などを、理論面では粒子に置き換えて解釈して扱う作業のことを、物理学では一般に「量子化」という。

グルーオンも、クォークとクォークを引き付ける力を、量子化したものであろう。電荷との類推で、クォークにも色荷(カラー荷)というのが考えているが、その性質は、あまり解明されてない(少なくとも高校で教えるほどには、まだ充分には解明されていない)。

グルーオンのように、力を媒介する粒子のことをゲージ粒子という。

4つの力とゲージ粒子
力の種類 ゲージ粒子
電磁気力 「光子」
(電磁場を量子化したもの)
「強い力」
(クォークを引き付けあう力のこと)
グルーオン
「弱い力」
(β崩壊をつかさどる「力」のこと)
ウィークボソン
万有引力(「重力」)
グラビトン
(未発見)

重力を媒介する架空の粒子のことを重力子(グラビトン)というが、まだ発見されていない。物理学者たちも「グラビトンは、まだ未発見である」と主張している。

電磁気力を媒介する粒子は光子(フォトン)というが、これは単に、電磁場を仮想的な粒子として置き換えて扱っただけである。フォトンは、高校物理の電磁気分野で習うような古典的な電磁気計算では、まったく役立たない。

なお、光子もゲージ粒子に含める。

つまり、光子やグルーオンは、ゲージ粒子である。


ベータ崩壊をつかさどる力のことを「弱い力」といい、この力を媒介する粒子を「ウィークボソン」というが、性質は、よく分かっていない。しかし物理学者たちは「ウィークボソンを発見した」と主張している。

そもそも「ボソン」とは何か?

量子力学のほうでは、電子のような、一箇所にたかだか数個までしか存在できない粒子をまとめてフェルミオンという。フェルミオン的でない別種の粒子としてボソンがある。光子も、ボソンとして扱われる。


「ウィークボソン」とは、おそらく、弱い力を媒介するボソンだからウィークボソンと呼んでいるのだろう。

さて、電荷との類推で、「弱い力」に関する「弱荷」(じゃくか)というのも提唱されているが、しかし、その性質は、あまり解明されてない(少なくとも高校で教えるほどには、まだ充分には解明されていない)。

さて、「弱い力」のある一方、グルーオンの媒介する力のことを「強い力」ともいう。

※ 範囲外: コバルト60のベータ崩壊と「弱い力」 編集

1956年に、電子のスピンの方向と、ベータ崩壊粒子の出て来る方向との関係を見るための実験として、コバルトの放射性同位体であるコバルト60をもちいて次のような実験が、アメリカで行われた。

コバルト元素(元素記号: Co )の放射性同位体であるコバルト60を極低温に冷却し、磁場をかけて多数のコバルト原子の電子殻の孤立電子スピンの方向をそろえた状態で、コバルト60がベータ崩壊して発生するベータ粒子の出る方向を調べる実験が、1956年にアメリカで行われた。

鉄とニッケルとコバルトは、それぞれ金属単体で磁性体になる元素である。元素単体で磁性体になる元素は、この3つ(鉄、ニッケル、コバルト)しかない。(なお、放射性同位体でない通常のコバルトの原子量は59である。)

この3つ(鉄、ニッケル、コバルト)のなかで、コバルトが一番、磁気に寄与する電子の数が多いことが量子力学の理論により既に知られたいたので(コバルトがもっとも、d軌道の電子の数が多い )、ベータ崩壊とスピンとの関係をみるための実験に、コバルトの放射性同位体であるコバルト60が使われたのである。

実験の結果、コバルト60がベータ崩壊してベータ粒子の出てくる方向は、コバルト60のスピンの磁気の方向と(同じ方向よりも)逆の方向に多く放出されているのが観測された。これは、2種類(スピンと同方向にベータ粒子の出る場合と、スピンと反対方向にベータ粒子の出る場合)の崩壊の確率が異なっており、ベータ崩壊の確率の(スピン方向を基準とした場合の)方向対称性が敗れていることになる。

このような実験事実により、「弱い力」は非対称である、というのが定説。

脚注・参考文献など 編集

  1. ^ 山本義隆『原子・原子核・原子力』、岩波書店、2015年3月24日 第1刷、94ページ
  2. ^ 山本義隆『原子・原子核・原子力』、岩波書店、2015年3月24日 第1刷、95ページ
  3. ^ 『現代総合科学教育大系 SOPHIA21 第7巻 運動とエネルギー』、講談社、発行:昭和59年4月21日第一刷発行発行
  4. ^ 川上親考ほか『新図詳エリア教科辞典 物理』、学研、発行:1994年3月10日新改訂版第一刷、P.244 および P.233
  5. ^ クリス・エヴァンス 著、橋本洋・上野滋 共訳『精密の歴史』、大河出版、2001年11月28日 再版、185ページ
  6. ^ 原島鮮『初等量子力学』(裳華房、2014年第40版、初版は1972年)
  7. ^ 山本義隆『原子・原子核・原子力』、岩波書店、2015年3月24日 第1刷、140ページ
  8. ^ 山本義隆『原子・原子核・原子力』、岩波書店、2015年3月24日 第1刷、190ページ
  9. ^ コトバンク『日本大百科全書(ニッポニカ)の解説』(坂東弘治、元場俊雄)など
  10. ^ 山本義隆『原子・原子核・原子力』、岩波書店、2015年3月24日 第1刷、222ページ
  11. ^ コトバンク『世界大百科事典 第2版の解説』など
  12. ^ 山本義隆『原子・原子核・原子力』、岩波書店、2015年3月24日 第1刷、154ページ
  13. ^ 科学哲学入門2 「理系人に役立つ科学哲学」を読む、25ページ
  14. ^ 山本義隆『原子・原子核・原子力』、岩波書店、2015年3月24日 第1刷発行、P80
  15. ^ 山本義隆『原子・原子核・原子力』、岩波書店、2015年3月24日 第1刷発行、P81
  16. ^ 山本義隆『原子・原子核・原子力』、岩波書店、2015年3月24日 第1刷発行、P82