ガリア戦記/ガリア語の名前
< ガリア戦記
『ガリア戦記』で言及されるガリア人の地名・部族名・人名などの名前(固有名詞)について解説する。
ガリア語とは
編集ガリア語 (羅 Lingua Gallica、英 Gaulish、仏 Gaulois) とは、ガリア (ガッリア)・イタリア半島北部・ヒスパニア中部・ルシタニアなどで5世紀頃まで話されていたケルト諸語の一派で、他の地域に居住する話者も母語として話していたとされている。ガリア語は死語ではあるが、多くの単語がヨーロッパ諸語、とりわけ地名に残されている。
- Lingua Gallica fuit lingua Celtica, qua gentes Celticae in Gallia, Italia septentrionali, Hispania media, Lusitania nec non alibi habitantes lingua vernacula loquebantur usque ad saeculum quintum. Lingua Gallica mortua est, etsi multa verba maneant in linguis Europaeis quibusdam et praesertim in nominibus locorum.
(vide etiam paginam "Lingua Gallica" in Vikipaedia)
下の表および右下の系統樹に、ガリア語を含むケルト諸語の言語学的分類を示す。
ただし、これはケルト諸語を「島嶼ケルト」「大陸ケルト」に二分する伝統的な分類法であるが、近年では「Pケルト語」[1]「Qケルト語」に二分する分類法もある。これは例えば、『ガリア戦記』でも言及されているように、アトレバテース族 Atrebates がブリタンニア島と大陸の双方にまたがって居住していたように、単純に島嶼・大陸と分けにくいことにもよる。
ケ ル ト 語 派 |
ケルト祖語 (Proto-Celtic) | |||
---|---|---|---|---|
島嶼 ケルト語 |
ゲール諸語 | 原アイルランド語・古アイルランド語・中期アイルランド語・ アイルランド語・スコットランド・ゲール語・マン島語 など | ||
ブリソ ン諸語 |
西方[2] | 古ウェールズ語・中期ウェールズ語・ウェールズ語 | ||
西南[3] | 古コーンウォール語・コーンウォール語 | |||
大陸ケルト語 | ガラティア語 (小アジアのガラティア) ノール語[4](中・東部ヨーロッパ) ケルティベリア語・ルシタニア語 (イベリア半島) ガリア語・レポント語 (ガリア:ベルギー~北イタリア) |
特徴
編集語彙集
編集以下では、仏語訳を緑色で示す。アステリスク * は再構を表わす。
単語要素
編集
allo-
編集- autre:他の
- 派生語
allobrog-
編集- étranger, exilé:他国人、よそ者、亡命者
- 語釈
- 派生語
and-, ande-, ando-
編集- très :非常に、大変
- 派生語
arios
編集- homme libre, seigneur :自由人、貴族(領主・支配者)?
belo-, bello-
編集- fort, puissant:強い、強力な、有力な、勢力のある
- 派生語
- #Bello-uaci ベッロウァキー族(Bellovaci)
bogius
編集- briseur, pourfendeur:破壊者、一刀両断にする(やっつける)人
- 派生語
bratu
編集- en gratitude, voeu:感謝して、祈願
- 派生語
brīuā
編集- pont:橋
- 派生語
brog(i)-
編集- pays :国・領土・境界
- 派生語
com-, con-, co-
編集- :
- 派生語
dūnon
編集- citadelle, enceinte, fortifiée, mont:城砦、城壁、要塞化されたもの、丘
nouiios
編集- nouveau:新しい
- 派生語
orget(o)-, orgeno-
編集- tueur, meutre :殺人者、殺人
- ※戦功または軍事的な地位を表す言葉と考えられよう。
- 派生語
rēmos
編集- premier, prince :第一の(者)、指導者、
rix (riks)
編集- roi :王
- rīx
- 派生語
senos
編集- ancien, vieux :古い(古参の)、昔からの、老いた
uelio-
編集- modeste, honnête (ou 'meilleur') :謙虚な、誠実な
- 派生語
uid-, uidi-, uissu-
編集- connaissance, savoir :知識、知ること
固有名詞:地名の例
編集
Bratu-spantion
編集- lieu où l'on dit les jugements :判決が宣べられる所
- 語釈
- #bratu + spantion の複合語。
- 羅 Bratuspantium[6] ブラトゥスパンティウム
- ブラトゥスパンティウムは、ベッロウァキー族(Bellovaci)の城塞都市であった(『ガリア戦記』第2巻13節)が、ローマ人に服属した後で部族はローマ風の都市カエサロマグス(現在のボーヴェ市)に移住させられたため、ブラトゥスパンティウムがどこにあったのか正確な位置は不明である。[7][8]
Nouio-dūnon
編集- Neuchâtel:新しい城砦
- 語釈
- 羅 Noviodūnum ノウィオドゥーヌム
- この名前の城塞都市は、ケルト系部族が居住していたヨーロッパ各地に存在していたと考えられている。そのうち『ガリア戦記』では、3か所が言及されている。
- Noviodunum Suessionum(『ガリア戦記』第2巻12節)
- Noviodunum Biturigum(『ガリア戦記』第7巻12節)
- ナン=スュル=ブヴロン:ノウィオドゥーヌム・ビトゥリグム、現在のロワール=エ=シェール県にあり、ウェルキンゲトリクスがそこでカエサルの諸軍団と戦った。
- Neung-sur-Beuvron (Noviodunum Biturigum, dans l'actuel Loir-et-Cher, Vercingétorix y livra bataille contre les légions de César) (w)
- ナン=スュル=ブヴロン:ノウィオドゥーヌム・ビトゥリグム、現在のロワール=エ=シェール県にあり、ウェルキンゲトリクスがそこでカエサルの諸軍団と戦った。
- Noviodunum Haeduorum(『ガリア戦記』第7巻55節)
Sāmaro-brīuā
編集- pont sur la Sāmarā :サーマラー川の橋
固有名詞:部族名の例
編集
Allobroges
編集- les Etrangers, les Exilés :他国人たち、亡命者たち
- 語釈
- #allobrog- は #allo-「他の」 と #brog(i)-「国の」 の複合語。
- Allobroges(羅 Allobroges、英 Allobroges、仏 Allobroges、アッロブロゲース)
- ローヌ川の源流域とアルプス北部辺りに居住していた部族の名で、再建されたガリア語では *Allobrogis 、ギリシア語では Ἀλλοβρίγων, Ἀλλόβριγες などと表記されると考えられている。
Bello-uaci
編集- ?? puissant :力強い○○、勢力のある○○??
- 語釈
- bello- 「力強い、勢力のある」から(後半部分の uaci については不詳)
- 羅 Bellovaci/Bellovacos, 英 Bellovaci, 仏 Bellovaques
- ベッロウァキー族はベルガエ人の一派で、彼らの部族名は現在の仏ボーヴェ市(Beauvais)の都市名の語源とされている。彼らはもともと城塞都市ブラソゥスパンティウム #Bratu-spantion を本拠地としていた(『ガリア戦記』第2巻13節)が、ローマ人に服属して帝制期になるとローマ風の都市カエサロマグス(Caesaromagus)に移住させられて、その都市は「ベッロウァキー族の都市」を意味するキーウィタース・ベッロウァコールム(civitas Bellovacorum)またはベッロウァクム(Bellovacum)とも呼ばれ、これがボーヴェ(Beauvais)に訛って[14] 現在に至る。
Rēmi
編集- les Premiers, les Princes :第一の者たち、指導者たち
- 語釈
- #rēmos 「第一の」から
- 羅 Remi, 英 Remi, 仏 Rèmes
- レーミー族 Rēmi はベルガエ人の一派で、彼らの部族名は現在の仏ラーンス(Reims)の都市名の語源とされている。
Senones
編集- Les Anciens :古参の者たち
Uelio-casses
編集- 語釈
- #uelio- 「謙虚な、誠実な」の派生語
Uero-mandui
編集
固有名詞:人名の例
編集
Andecombogius
編集- Grand-Briseur :大破壊者
- 語釈
- Andecombogius アンデコンボギウスは、『ガリア戦記』第2巻3節 に、レーミー族の領袖・使節として言及されるが、写本・校訂版により綴りが分かれている。
Ariouistus
編集- Noble Savoir ou Qui-sait-en-avance:高貴な知識 (または) 前もって知る者
- 語釈
- Ariouistus (羅 Ariovistus; w:Ariovistus, 英 w:Ariovistus, 仏 w:Arioviste)
- アリオウィストゥスは、『ガリア戦記』第1巻に「ゲルマーニア人」の王として登場するが、現代の研究者たちはこのアリオウィストゥスという名前をケルト系のガリア語から派生したと考えている。(w:en:Ariovistus#Etymology などを参照。)
Orgetorix
編集- Roi-des-Tueurs :殺人者たちの王(長?)
- 語釈
- #orget(o)- と #rix (riks) の複合語。※戦功または軍事的な指導者の地位を意味するとも考えられよう。
- Orgetorīx (羅 Orgetorīx; w:Orgetorix, 英 w:Orgetorix, 仏 w:Orgétorix)
脚注
編集- ^ w:en:Gallo-Brittonic languages を参照。
- ^ w:en:Western Brittonic languages を参照。
- ^ w:en:Southwestern Brittonic languages を参照。
- ^ w:en:Noric language を参照。
- ^ wikt:fr:Remus#la を参照。
- ^ wikt:ru:Bratuspantium
- ^ Bratuspantium: a Pleiades place resource
- ^ Bratuspantium — Brill
- ^ wikt:fr:Samarobriva
- ^ wikt:en:Samarobriva
- ^ w:fr:Amiens#Toponymie
- ^ w:fr:Amiens#Antiquité
- ^ w:fr:Ambiens
- ^ wikt:en:Beauvais#French
- ^ w:en:Remi など参照。
参考文献
編集以下、ガリア語の権威グザヴィエ・ドラマル(Xavier Delamarre, 1954- )[1]による辞典など。
Delamarre (2012, 2021)
編集- Noms de lieux celtiques de l'Europe ancienne. -500 – +500. Dictionnaire.
- par Xavier Delamarre, Éditions Errance, ISBN 978-2-87772-483-8
- 1er Édition, Errance, Arles, 2012
- 2e Édition, Errance, Arles, 2021
- ※古代ヨーロッパ各地(BC500~AD500年頃)のケルト語の地名に関する研究成果をまとめた辞典。
- par Xavier Delamarre, Éditions Errance, ISBN 978-2-87772-483-8
関連項目
編集関連記事
編集- ウィキペディア羅語版
- w:la:Categoria:Gentes_Galliae_antiquae (古代ガリアの種族)
- ウィキペディア英語版
- w:en:Celtic languages (ケルト諸語)- w:en:Template:Celtic languages(テンプレート)
- w:en:Template:Gallic peoples (テンプレート:ガリアの人々)
- ウィクショナリー英語版
- wikt:en:Category:Gaulish language (ガリア語)
- wikt:en:Category:Gaulish nouns (ガリア語の名詞)
- wikt:en:Category:Gaulish masculine nouns (ガリア語の男性名詞)
- wikt:en:Category:Gaulish feminine nouns (ガリア語の女性名詞)
- wikt:en:Category:Gaulish neuter nouns (ガリア語の中性名詞)
- wikt:en:Category:Gaulish nouns (ガリア語の名詞)
- ウィキペディア仏語版
- w:fr:Langues celtiques (ケルト諸語)
- w:fr:Liste des peuples gaulois et aquitains (ガリアとアクィタニアの人々の一覧)
- w:fr:Nos ancêtres les Gaulois (われらが先祖ガリア人)
- ウィクショナリー仏語版
- wikt:fr:Catégorie:gaulois (ガリア語)
- wikt:fr:Catégorie:Noms propres en gaulois (ガリア語の固有名詞)