中学校保健体育/環境への適応能力

小学校・中学校・高等学校の学習>中学校の学習>中学校保健体育>環境への適応能力

私達の体は、環境の変化に合わせてどのように働きますか?

キーワード 編集

適応・適応能力・熱中症・低体温症

体の適応能力 編集

※気温の変化に合わせて、私達の体はどのように体温を調節していますか?

私達の体は、暑い時や寒い時のような気温の変化から意識しなくても様々な関係器官を働かせて一定体温(36.5℃前後)に保とうとします。その結果、私達の体は最もよく動くようになります。また、空気中の酸素濃度や気圧の変化に合わせて、体は様々な働きをします(適応)。

このように、環境が変わると、体の調節機能を働かせて新しい環境に慣れようとします(適応能力)。適応は自律神経の働きとして行われ、生命を維持するためにとても大切です。周りの環境に影響されると、適応能力も高まります。

標高の高い場所で生きるための適応
標高が上がると空気も薄くなるので、血液中に酸素が入りにくくなります。そのため、体は心拍数を増やして、より多くの酸素を運べるようにします。また、深く速く呼吸して、取り込む酸素の量を増やそうとします。そのため、登山をすると心臓の心拍数が上がり、呼吸も速くなります。体が高地に慣れないと高山病になり、頭痛・吐き気・嘔吐・眩暈・呼吸困難などを引き起こします。

これらの適応に加えて、高地で暮らすと赤血球の数が増えるので、より多くの酸素を運べるようになります。高地トレーニング(高所トレーニング)とは、スポーツトレーニングの1つで、この適応を利用して行われます。順化とは、数日から数週間かけて環境の変化に慣れる過程を指します。

熱帯地方の住民は汗腺の数も多いので、たいてい暑さに上手く耐えられます。その結果、汗をあまりかいていなくても肌が濡れやすくなります。また、皮膚近くの血管が広く、皮膚温度も高いので、熱を逃がしやすくなっています。

適応能力の限界 編集

※適応能力の限界を超えると私達の体はどうなりますか?

私達の体は、どんな環境の変化にも適応出来ません。急激な変化や大きな変化は、適応能力の限界を超えるので、健康に深刻な悪影響をもたらします。普通、乳幼児や高齢者に適応能力はあまりありません。例えば、もし暑さに慣れなかったら、屋内・屋外を問わず熱中症になってしまいます。そして、体温が41℃以上になると意識を失って、最悪死んでしまいます。もし、山や海で行方不明になると、寒さに耐えられず低体温症になったり、凍死したりします。体温が33℃~34℃を下回ると意識を失い、30℃を下回ると最悪死んでしまいます。また、有害な化学物質に適応出来ません。

★熱中症の死者と凍死者の推移

 

上のグラフは厚生労働省「人口動態統計」から抜粋しています。

このように、適応能力の限界を超えて健康に悪影響を与えないように、気象情報を正しく利用してみましょう。例えば、天気予報などの内容を見てから判断して、正しい行動をとります。

トムラウシ山遭難事故 編集

※トムラウシ山遭難事故の内容を読んで、環境の変化と体の適応について考えてみましょう。

トムラウシ山遭難事故
北海道のトムラウシ山で2009年夏に遭難事故が起きました。登山経験者のみが2泊3日のトムラウシ登山ツアーに参加しました。装備も十分でした。1日目は天気も良く、順調にコースを巡り、山小屋に宿泊しました。2日目、早朝から雨の中で登山を始め、予定通り終了しました。3日目、2日目の装備を十分に乾かさずに出発しました。雨と風がまだ続いていたので、コースを変更して下山を目指しました。下山するためには、沼の増水で出来た川を渡らなければなりません。このため、1時間以上、全員が渡りきるまで濡れたまま激しい風の中で待たなければならなくなりました。その間、多くの登山参加者は、意識を失ったり、倒れてしまったり、痙攣を起こしたり、突然動けなくなるなど、様々な症状に見舞われました。結局、この事故で8名が凍死しました。午後5時30分、トムラウシ連峰は3.8℃の最低気温を観測しました。

資料出所 編集

  • 東京書籍『新しい保健体育』戸田芳雄ほか編著  2021年
  • 学研教育みらい『中学保健体育』森昭三ほか編著 2021年