中学校保健体育/生活に伴う廃棄物の衛生的管理

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どのような関係が廃棄物と健康にありますか?

キーワード 編集

ごみ・循環型社会・3R・分別回収・生活排水・水質汚濁・下水道・下水処理場

浄化槽・屎尿処理施設・合併処理浄化槽・公害・環境基本法

ごみと健康 編集

※ごみはどのような種類があり、どのくらいの量がありますか?

私達は日常生活を続けると、どうしても様々なごみ(生ごみ・ビニール・紙・プラスチック製の容器・ペットボトル・ビン・金属など)を出してしまいます。

まず、生ごみを出さないと、嫌な臭いがして、そこに鼠やハエなどが寄り付いて繁殖します。やがて、鼠やハエなどから感染症が広がっていきます。次に、ごみを正しく処理をしないと、人にも環境にも有害な物質(ダイオキシン)が発生してしまいます。自然環境が有害な物質(ダイオキシン)で汚染されると、私達の健康に悪影響を与えます。そのため、一般家庭の焼却処理は原則禁止されています。ダイオキシン対策では、ごみ焼却施設からのダイオキシン排出量を規制して、焼却施設の大型化・高性能化を進めてきました。その結果、2011年のダイオキシン類排出量は1997年から約99%減少しました。また、焼却施設の大型化・高性能化から処理熱の有効利用も出来るようになっています。

戦後日本の廃棄物処理事情【発展講義】
日本は第二次世界大戦後の1945年から1950年代にかけて戦後復興と経済成長を遂げてきました。しかし、人口があまりにも増えたため、都市部ではごみの処理問題に悩まされていました。当時、ごみは野積みされていたり、海や川に捨てられていたりしました。その結果、ハエや蚊が大量発生するようになり、伝染病(感染症)も広がりました。また、各家庭ごみの収集は手押し車を使って人間に頼っていました。そのため、大量のごみ処理に苦労しました。その上で、路上で荷物の積み替え作業を行うため、ごみの飛散問題などもありました。

このような都市ごみ問題を解決するため、1954年、「清掃法」が制定しました。現在、「清掃法」は「廃棄物の処理と清掃に関する法律」に改正されています。「清掃法」の制定以降、地方自治体・行政・国民の役割と関係が明らかになりました。具体的に、市区町村などのごみ収集・処分方法、国と都道府県の財政的・技術的支援、住民の協力義務などが挙げられます。

ごみの衛生的な処理と個人の取り組み 編集

※ごみはどこへ行きますか?

現在、市区町村や自治体は、企業や家庭のごみを回収して、ごみの種類に合わせて焼却したり最終処分場に埋め立てたりして衛生的に処理しています。また、一部のごみは資源として再利用されています。

近年、ごみの量は減っていますが、1968年と比べると今でも大量のごみを出しています。2016年現在、最終処分場はあと約20年で埋め立てられると予測されています。このため、社会全体が少ない資源を大切に使い、出来るだけ環境を汚染しないように目指していかなければなりません(循環型社会)。発生抑制・再利用・再生利用3R)が循環型社会の基本的な考え方となっています。

ごみの種類に合わせて、資源として何が使えるのか、適切な処理をするために、それぞれの地域で分別回収が行われています。個人がごみを減らすと、自然環境の汚染を防げます。また、個人が分別すると廃棄物の衛生的管理につながり、個人や社会の健康を守れます。

生活排水と健康 編集

 
アオコの被害〔神奈川県〕

※生活排水とは何ですか?

生活排水は、屎尿(小便や大便を含む水)と生活雑排水(風呂・台所など)で成り立っています。日常生活を送る中で、私達は大量の生活排水を出します。

食べ残しが生活排水で流された場合、魚の住める環境になるまでには大量の水を必要とします。例えば、サラダ油15mLなら約5100Lの水が必要になります。反対に、牛乳180mLなら約3900Lの水が必要になります。

また、屎尿からノロウイルスや病原性大腸菌などの病原体が発生して、感染症の流行や悪臭の原因となります。さらに、生活雑排水(生活排水・産業排水)に洗剤・生ごみ・油などが含まれていると、河川・湖沼・海・地下水などが汚れてしまいます(水質汚濁)。このように、生活排水は自然環境や私達の健康に悪影響を及ぼします。したがって、衛生的に処理されなければなりません。

生活排水の処理と個人の取り組み 編集

 
下水処理場

※屎尿と生活雑排水はどのように処理されていますか?

私達は生きていく上で屎尿を必ずします。トイレに入ったら、屎尿をして流します。この処分方法は大きく分けて2種類あります。第一に、下水道整備地域では、下水処理場で屎尿を含む汚水を綺麗にしています。第二に、下水道未整備地域では、浄化槽で屎尿を含む汚水を綺麗にしています。このように、汚水は下水処理場や浄化槽で綺麗にしてから、川に流すか、トイレ用水として再利用されます。

主に、非水洗家庭の屎尿は直接集められて屎尿処理施設で処理されます。しかし、一部は下水道に流すか、肥料として使えるように農地還元などの方法で処理されています。

生活雑排水も下水道整備地域では、屎尿を含む汚水と一緒に下水処理場で処理されています。しかし、下水道未整備地域では、そのまま川や海などに生活雑排水を流しています。

地域の人口に応じて下水道整備に差が見られます。それでも、下水道普及率は年々上昇しています。今後、下水道未整備地域などで合併処理浄化槽の整備が望まれています。合併処理浄化槽では、屎尿と生活雑排水を合わせて、微生物の力で処理しています。

日本最古の現役下水道
16世紀終わり頃になると、豊臣秀吉が大阪の町を整備しました。その頃に約7キロメートルの太閤(背割)下水も作られました。太閤(背割)下水は、低湿地地域の住宅を排水するために作られました。現在も大阪府大阪市の下水道として使われています。

下水道の役割としては大きく分けて2つあります。

  • 汚水を綺麗して、私達の健康と環境を守っています。
  • 大雨になると雨水をすぐに流して水害を防ぎます。

しかし、下水道にも弱みがあります。例えば、生ごみや油をそのまま流すと下水道へ繋ぐ排水管や下水道管が痛んでしまいます。そのため、私達は生活の中で水を汚さないように気をつけなければなりません。

環境汚染と健康 編集

※公害はなぜ起こりましたか?

一般家庭や産業の廃棄物を綺麗にしないまま自然へ捨ててしまうと、環境汚染に繋がります。汚染物質は空気・水・食物などから私達の体内に入り込み、健康に悪影響を与えます。1950年代になると、大気汚染・水質汚濁・土壌汚染・地盤沈下・騒音など、全国各地で公害が発生するようになりました。水俣病・新潟水俣病・イタイイタイ病・慢性砒素中毒・四日市喘息などが代表的な公害問題として挙げられます。産業の急成長が公害の主な原因になりました。そして、公害対策よりも経済が優先されたので、数多くの生命と健康を失いました。

★汚染物質と健康への影響

汚染物質 健康への影響
大気汚染物質 硫黄酸化物 気管支炎・喘息など
窒素酸化物 呼吸器系の抵抗力低下など
水質汚染物質 有機水銀 頭痛・不眠・神経痛・言語障害など(水俣病)
カドミウム 腎臓障害・骨軟化症など(イタイイタイ病)
シアン 痙攣・意識障害・呼吸停止など

このように、公害は大きな被害をもたらしました。しかし、住民運動や公害対策基本法の成立などで少しずつ改善されています。公害などの被害を繰り返さないためには、痛ましい経験から教訓を手に入れて、その教訓を人類全体で共有しなければなりません。

環境基本法は、万全な対策をとって環境を守るために、1993年から導入されています。汚染物質(大気汚染物質・水質汚染物質・放射性物質など)を計画的に取り締まらなければならず、環境汚染の複雑な発生原因を知るために環境基本法が定められました。また、地球環境を守るために、国際協力も進めています。

それでも、様々な環境問題(人体に有害な化学物質・海洋汚染・大気汚染・ごみ・地球温暖化など)につながっています。また、微小粒子状物質(PM2.5)は健康に悪影響を与えます。もし、微小粒子状物質(PM2.5)の注意情報が流れたら、不必要な外出は控え、外出の時はマスクを着けましょう。そして、長時間屋外で激しい運動を控えて、窓の開閉や換気を出来るだけ行わないようにしましょう。

化学物質と健康
化学物質は、ペットボトル・プラスチック容器・合成洗剤・スプレー式農薬などに使われています。このような製品は私達の生活を便利で豊かにします。しかし、製品の製造・廃棄で化学物質が環境中に出されたり、製品の使用中に化学物質が体内に入ったりして健康に悪影響を与えます。

さらに、プラスチックごみは世界の環境問題としてよく知られています。毎年、約800万トンのプラスチックごみが世界中の海に流れています。海に浮かんでいるうちに細かく砕けてマイクロプラスチックになり、私達の健康に悪影響をもたらすかもしれません。環境問題の取り組みは、空間的な広がり(地球規模)や時間的な広がり(将来の影響)から、私達の生活や健康を守るために大切です。私達も、ごみの減量・分別・水を汚さない工夫などに取り組まなければなりません。

自然災害時の健康と個人の取り組み 編集

※自然災害時の健康と個人の取り組みについて学びましょう。

地震・集中豪雨・台風などの自然災害が起きると、大量の家庭ごみや生活排水が残ります。また、建物の瓦礫や生活用品など大量の災害廃棄物も出ます。東日本大震災発生後、約3100万トンの災害廃棄物も発生しました。全国の自治体が協力して約3年かけて福島県を除く東日本大震災の災害廃棄物を片付けました。災害廃棄物の中に有害物質が含まれており、もし、私達が誤って扱ったり吸ったりすると、感染症や呼吸器障害に繋がります。

災害時のトイレと健康
トイレは災害になると問題になります。水洗トイレが使えないと、人間の屎尿をきちんと処分出来ないので、滞ってしまいます。その結果、害虫の発生を招き、細菌やウイルスなどの感染症の拡大にもつながります。このように、トイレも、災害に備えておきましょう。

人間は自分の健康と相手の健康を守るために正しく行動しなければなりません。このため、災害時のトイレの使い方やごみの出し方など、自治体が情報を出しているので確認しておきましょう。

資料出所 編集

  • 東京書籍『新しい保健体育』戸田芳雄ほか編著  2021年
  • 学研教育みらい『中学保健体育』森昭三ほか編著 2021年