法学民事法コンメンタール民法第1編 総則 (コンメンタール民法)

条文

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(権限外の行為の表見代理

第110条
前条第1項本文の規定は、代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときについて準用する。

改正経緯

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  • 2017年改正で第109条に第2項が追加されたことに伴い、単項本文箇所が第1項となったことに伴い、文言が「前条本文」から「前条第1項本文」に改正された。

解説

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表見代理成立要件のうち、第2類型である「権限踰越」について定める。

参照条文

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  • 第109条(代理権授与の表示による表見代理)
    1. 第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、その責任を負う。ただし、第三者が、その他人が代理権を与えられていないことを知り、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない。

判例

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  1. 原因無効宅地建物の所有権取得登記等抹消登記請求(最高裁判決 昭和34年02月05日)
    民法第110条の適用と本人の過失の要否。
    民法第110条による本人の責任は、いわゆる正当の理由が本人の過失によつて生じたことを要件とするものではない。
  2. 根抵当権設定登記抹消登記手続請求(最高裁判決 昭和41年11月18日)不動産登記法第25条(申請主義 現・不動産登記法第16条),不動産登記法第26条(申請方法 現・不動産登記法第18条他),不動産登記法第35条(登記申請に要する書面 現・不動産登記法第18条他)
    1. 登記申請行為と表見代理
      登記申請行為自体には、表見代理に関する民法の規定の適用はない。
    2. 偽造文書による登記の効力
      偽造文書によつて登記がされた場合でも、その登記の記載が実体的法律関係に符合し、かつ、登記義務者において登記申請を拒むことができる特段の事情がなく、登記権利者において当該登記申請が適法であると信ずるにつき正当の事由があるときは、登記義務者は右登記の無効を主張することができない。
  3. 貸金請求(最高裁判決 昭和35年02月19日)
    民法第110条の基本代理権が認められないとされた事例。
    勧誘外交員を使用して一般人を勧誘し、金員の借入をしていた会社の勧誘員甲が、事実上長男乙をして一切の勧誘行為にあたらせて来たというだけでは、乙を甲の代理人として民法第110条を適用することはできない。
  4. 家屋明渡請求(最高裁判決 昭和44年06月24日)
    1. 民法110条にいう「正当ノ理由ヲ有セシトキ」の意義
      民法110条にいう「正当ノ理由ヲ有セシトキ」とは、無権代理行為がされた当時存した諸般の事情を客観的に観察して、通常人において右行為が代理権に基づいてされたと信ずることについて過失がないといえる場合をいう。
    2. 民法110条にいう「正当ノ理由」がないとされた事例
      甲から家屋を賃借した乙が、甲の代理人として右家屋の賃料の取立および受領の権限を有するにすぎない丁の承諾を得て、丙に対しその賃借権を譲渡した場合において、丙が、乙から右承諾を得た旨を聞知し、これによつて、甲の承諾を得たものと信じたとしても、容易に甲または丁より丁には右承諾をする権限がないことを知り得たにもかかわらず、丁の右権限の有無について調査をしなかつた等判示の事情があるときは、丙が、たやすく丁に右承諾の代理権があると信じたことは、その過失に基づくものであつて、甲は、丁のした右承諾について表見代理の責に任ずるものではない。
  5. 土地建物所有権移転登記抹消登記手続請求(最高裁判決 昭和44年12月18日)民法第761条
    1. 民法761条と夫婦相互の代理権
      民法761条は、夫婦が相互に日常の家事に関する法律行為につき他方を代理する権限を有することをも規定しているものと解すべきである。
    2. 民法761条と表見代理
      夫婦の一方が民法761条所定の日常の家事に関する代理権の範囲を越えて第三者と法律行為をした場合においては、その代理権を基礎として一般的に同法110条所定の表見代理の成立を肯定すべきではなく、その越権行為の相手方である第三者においてその行為がその夫婦の日常の家事に関する法律行為に属すると信ずるにつき正当の理由のあるときにかぎり、同条の趣旨を類推して第三者の保護をはかるべきである。
  6. 所有権確認請求および所有権移転登記手続等反訴請求(最高裁判決 昭和44年12月19日)
    代理人が直接本人の名で権限外の行為をした場合と民法110条の類推適用
    代理人が直接本人の名において権限外の行為をした場合において、相手方がその行為を本人自身の行為と信じたときは、そのように信じたことについて正当な理由があるかぎり、民法110条の規定を類推して、本人はその責に任ずるものと解するのが相当である。
  7. 所有権移転登記抹消登記手続請求(最高裁判決 昭和45年12月24日)
    無権代理人が代理人と称して丙と締結した抵当権設定契約を本人が追認したのち、無権代理人がの代理人と称して丁と抵当権設定契約を締結した場合において、丁が無権代理人に本人を代理して右抵当権設定契約をする権限があると信ずべき正当の事由を有するときは、本人は、民法110条および112条の類推適用により、無権代理人のした抵当権設定契約につき責に任じなければならない。
  8. 約束手形金請求(最高裁判決 昭和46年06月03日)
    登記申請の権限と民法110条の表見代理における基本代理権
    本人から登記申請を委任されてこれに必要な権限を与えられた者が右権限をこえて第三者と取引行為をした場合において、その登記申請が本人の私法上の契約による義務の履行のためになされるものであるときは、その権限を基本代理権として、右第三者との問の行為につき民法110条を適用し、表見代理の成立を認めることができる。
  9. 所有権移転登記抹消登記手続請求事件(最高裁判決 平成18年02月23日)民法第94条2項
    不実の所有権移転登記がされたことにつき所有者に自らこれに積極的に関与した場合やこれを知りながらあえて放置した場合と同視し得るほど重い帰責性があるとして民法94条2項,110条を類推適用すべきものとされた事例
    不動産の所有者であるXから当該不動産の賃貸に係る事務や他の土地の所有権移転登記手続を任せられていた甲が,Xから交付を受けた当該不動産の登記済証,印鑑登録証明書等を利用して当該不動産につき甲への不実の所有権移転登記を了した場合において,Xが,合理的な理由なく上記登記済証を数か月間にわたって甲に預けたままにし,甲の言うままに上記印鑑登録証明書を交付した上,甲がXの面前で登記申請書にXの実印を押捺したのにその内容を確認したり使途を問いただしたりすることなく漫然とこれを見ていたなど判示の事情の下では,Xには,不実の所有権移転登記がされたことについて自らこれに積極的に関与した場合やこれを知りながらあえて放置した場合と同視し得るほど重い帰責性があり,Xは,民法94条2項,110条の類推適用により,甲から当該不動産を買い受けた善意無過失のYに対し,甲が当該不動産の所有権を取得していないことを主張することができない。

前条:
民法第109条
(代理権授与の表示による表見代理等)
民法
第1編 総則

第5章 法律行為

第3節 代理
次条:
民法第111条
(代理権の消滅事由)
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