民法第109条
条文
編集(代理権授与の表示による表見代理等)
- 第109条
- 第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、その責任を負う。ただし、第三者が、その他人が代理権を与えられていないことを知り、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない。
- 第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば前項の規定によりその責任を負うべき場合において、その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは、第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、その行為についての責任を負う。
改正経緯
編集- 2017年改正で第2項が追加され、見出しに「等」が加えられた。
- 第2項においては、代理権授与表示による表見代理が成立する際、権限踰越が生じた場合の取り扱いについて定めた。
- 平成16年12月1日法律第147号による改正:民法現代語化に伴い、「確立された判例・通説」に基づき、本条ただし書が追加された。
- (改正前の本条)
- 第三者ニ対シテ他人ニ代理権ヲ与ヘタル旨ヲ表示シタル者ハ其代理権ノ範囲内ニ於テ其他人ト第三者トノ間ニ為シタル行為ニ付キ其責ニ任ス
解説
編集- 代理権を有していない者の行為(無権代理行為)であっても、本人が代理権を与えたという外観が作出された場合において、相手方である第三者がその外観を信じるにあたって善意無過失である場合、本人は当該行為の責任を負う。これを表見代理という。表見代理には以下の三類形があるとされ、本条は、その第1類型について定める。
参照条文
編集判例
編集- 売掛代金請求(最高裁判決 昭和35年10月21日)商法第23条(現・会社法第9条)
- 「東京地方裁判所厚生部」のした取引と同裁判所の責任。
- 一般に官庁の部局をあらわす文字である「部」と名付けられ、裁判所庁舎の一部を使用し、現職の職員が事務を執つていた「東京地方裁判所厚生部」は、東京地方裁判所の一部局としての表示力を有するものと認めるべきであり、東京地方裁判所当局が同部の事業の継続処理を認めた以上、これにより同裁判所は、「厚生部」のする取引が自己の取引なるかのごとく見える外形を作り出したものというべく、善意無過失の相手方に対し、「厚生部」のした取引につき自ら責に任ずべきである。
- 売買代金請求(最高裁判決 昭和45年12月15日)会社法第354条
- 契約金等(最高裁判決 昭和53年3月28日)商法第23条(現・会社法第9条)
- 団体の名目的な代表者となることを団体の事業を専行処理している他人に許諾した場合におしてその他人が団体名義で第三者とした取引と民法の表見代理に関する規定及び商法23条の規定の類推適用の有無
- 権利能力なき社団又は財団としての実態をも有しない団体の名目的な代表者となることを、その団体の事業を専行処理している甲に対して許諾したにすぎない乙は、甲が右団体名義で第一者とした取引につき、その取引の実質は乙と右第三者との取引に等しいものであることが甲と右第三者との間において了解されていたというような特段の事情のない限り、民法の表見代理に関する規定及び商法23条の規定の類推適用によつて右取引についての責任を負うものではない。
- 保証債務履行 (最高裁判決 昭和62年7月7日)民法第110条、民法第113条、民法第117条
- 民法117条2項にいう「過失」と重大な過失
- 民法117条2項にいう「過失」は、重大な過失に限定されるものではない。
- 無権代理人が民法117条1項所定の責任を免れる事由として表見代理の成立を主張することの許否
- 無権代理人は、民法117条1項所定の責任を免れる事由として、表見代理の成立を主張することはできない。
- 民法117条2項にいう「過失」と重大な過失
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