民法第117条
条文
編集(無権代理人の責任)
- 第117条
- 他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明したとき、又は本人の追認を得たときを除き、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。
- 前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。
- 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき。
- 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が過失によって知らなかったとき。ただし、他人の代理人として契約をした者が自己に代理権がないことを知っていたときは、この限りでない。
- 他人の代理人として契約をした者が行為能力の制限を受けていたとき。
改正経緯
編集- 2017年改正前の条文は以下のとおり。表現を理解しやすいように改めたものである。また、改正により、相手方に過失があった場合でも、悪意の無権代理人に対しては履行又は損害賠償を請求できることが明記された。
- 他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明することができず、かつ、本人の追認を得ることができなかったときは、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。
- 前項の規定は、他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき、若しくは過失によって知らなかったとき、又は他人の代理人として契約をした者が行為能力を有しなかったときは、適用しない。
解説
編集無権代理人の責任の発生要件と発生する責任の内容について規定している。
損害賠償とは履行利益(りこうりえき)の損害賠償であり、相手方の要求する時までに契約の目的物の価額が値上がりすれば賠償額も上がる。
この規定は、自ら債務を負う効果意思を持たない無権代理人に、法が敢えて履行責任(または履行利益の損害賠償責任)を負わせるものであるから、法定責任であるといわれる。その趣旨は、代理権を有するかのような外観を信頼した相手方の保護にある。したがって、保護される相手方は、無権代理人が代理権を有しないことについて、善意、無過失であることが要求され、かつ、行為能力を有しない無権代理人(102条により代理人は制限行為能力者であってもよい)には効果を帰属させない。
ここで、相手方は無権代理人が自分と契約を締結した事実、無権代理人が顕名をした事実を証明しただけで責任を追及できるとされているので、無権代理人の責任の要件は、無権代理人が立証責任を負うとされる。したがって代理権を有したこと、本人が追認したこと、相手方が取り消したこと、相手方の悪意有過失、自らが制限行為能力者であることを証明できなければ無権代理人は責任を免れない。
参照条文
編集判例
編集- 建物引渡所有権移転登記手続等請求(最高裁判決 昭和37年4月20日) 民法第113条
- 本人が無権代理人を相続した場合における無権代理人行為の効力
- 本人が無権代理人の家督を相続した場合、被相続人の無権代理行為は、右相続により当然には有効となるものではない。
- 土地所有権移転登記抹消登記手続請求(最高裁判決 昭和40年6月18日) 民法第113条,民法第896条
- 無権代理人が本人を相続した場合における無権代理行為の効力。
- 無権代理人が本人を相続し、本人と代理人との資格が同一人に帰するにいたつた場合には、本人がみずから法律行為をしたのと同様な法律上の地位を生じたものと解するのが相当である。
- 自動車譲渡代金請求(最高裁判決 昭和42年9月26日)商法第168条1項6号
- 定款に記載のない財産引受と発起人等の権利義務
- 発起人または発起人組合は、特約の存する場合、民法第117条の類推適用により履行の責に任ずべき場合等の特別の事情の認められないかぎり、定款に記載のない財産引受に基づいて、財産引受により会社に帰属すべきものとされた契約上の権利を取得し、またその契約上の義務を負担するものではない。
- 民法第117条の類推適用はありうる旨の判旨
- 貸金請求 (最高裁判決 昭和48年7月3日) 民法第113条,民法第896条
- 民法117条と無権代理人を相続した本人の責任
- 無権代理人を相続した本人は、無権代理人が民法117条により相手方に債務を負担していたときには、無権代理行為について追認を拒絶できる地位にあつたことを理由として、右債務を免れることができない。
- 保証債務履行(最高裁判決 昭和62年7月7日) 民法第109条,民法第110条,民法第113条
- 民法117条2項にいう「過失」と重大な過失
- 民法117条2項にいう「過失」は、重大な過失に限定されるものではない。
- 無権代理人が民法117条1項所定の責任を免れる事由として表見代理の成立を主張することの許否
- 無権代理人は、民法117条1項所定の責任を免れる事由として、表見代理の成立を主張することはできない。
- 民法117条2項にいう「過失」と重大な過失
- 貸金 (最高裁判決 平成5年1月21日)民法第112条,民法第896条,民法第898条
- 土地建物所有権移転登記抹消登記、土地所有権移転請求権仮登記抹消登記等(最高裁判決 平成5年1月21日)民法第113条,民法第896条,民法第898条
- (同日同内容の判決)
- 無権代理人が本人を共同相続した場合における無権代理行為の効力
- 無権代理人が本人を共同相続した場合には、共同相続人全員が共同して無権代理行為を追認しない限り、無権代理人の相続分に相当する部分においても、無権代理行為が当然に有効となるものではない。
- 無権代理人が本人を他の相続人と共に共同相続した場合において、無権代理行為を追認する権利は、その性質上相続人全員に不可分的に帰属するところ、無権代理行為の追認は、本人に対して効力を生じていなかった法律行為を本人に対する関係において有効なものにするという効果を生じさせるものであるから、共同相続人全員が共同してこれを行使しない限り、無権代理行為が有効となるものではないと解すべきである。そうすると、他の共同相続人全員が無権代理行為の追認をしている場合に無権代理人が追認を拒絶することは信義則上許されないとしても、他の共同相続人全員の追認がない限り、無権代理行為は、無権代理人の相続分に相当する部分においても、当然に有効となるものではない。
- 根抵当権設定登記抹消登記手続請求本訴、同反訴(最高裁判決 平成10年7月17日)民法第113条、民法第896条
- 本人が無権代理行為の追認を拒絶した後に無権代理人が本人を相続した場合における無権代理行為の効力
- 本人が無権代理行為の追認を拒絶した場合には、その後無権代理人が本人を相続したとしても、無権代理行為が有効になるものではない。
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