民法第896条
条文
編集(相続の一般的効力)
- 第896条
- 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。
解説
編集- 相続人は被相続人の財産に属する一切の権利(積極財産)のみならず義務(消極財産)をも承継する(包括承継)。日本法における相続の概念として、明治民法第1001条来の基本思想となっている。比較法的には、相続開始(被相続人の死)の時点で、相続財産のうち、消極財産を積極財産で相殺した後、積極財産の残余があればそれを相続するというものがあるが、日本法においてこれは限定承認と概念され、一定の手続を要するものとされる。
- 本条但書は、一身専属的な権利義務は相続されないと定めている。民法上規定があるものとしては、たとえば使用貸借の借主の地位(597条)、委任者・受任者たる地位(653条)、組合員たる地位(679条)などはそれぞれ当事者の死亡によって消滅するので、相続されない。これに対し、売買代金債権や賃借権は死亡によっても消滅せず、相続の対象となる。
- 保証債務(446条以下)が相続の対象となるかについては、保証の内容により異なる。一般的な保証債務は相続の対象となるが、根保証は例外である(465条の4)。また、いわゆる身元保証については根保証同様、個人的な信頼関係に立脚する一身専属性が強い債務として、相続を否定する見解が有力である。
参照条文
編集判例
編集- 土地所有権移転登記抹消登記手続請求(最高裁判決 昭和40年06月18日) 民法第113条,民法第117条
- 無権代理人が本人を相続した場合における無権代理行為の効力
- 無権代理人が本人を相続し、本人と代理人との資格が同一人に帰するにいたつた場合には、本人がみずから法律行為をしたのと同様な法律上の地位を生じたものと解するのが相当である。
- 田地所有権確認等請求(最高裁判決 昭和44年10月30日)民法第180条
- 占有と相続
- 土地を占有していた被相続人が死亡し相続が開始した場合には、特別の事情※のないかぎり、被相続人の右土地に対する占有は相続人によつて相続される。
- ※占有者の死亡を占有の解除条件とする場合など
- 所有権移転登記手続等本訴ならびに土地建物所有権確認反訴請求(最高裁判決 昭和46年11月30日)民法第185条
- 貸金請求(最高裁判決 昭和48年07月03日)民法第113条,民法第117条
- 土地建物明渡請求(最高裁判決 昭和49年09月04日)民法第560条
- 他人の権利の売主をその権利者が相続した場合と売主としての履行義務
- 他人の権利の売主をその権利者が相続し売主としての履行義務を承継した場合でも、権利者は、信義則に反すると認められるような特別の事情のないかぎり、右履行義務を拒否することができる。
- 貸金 (最高裁判決 平成5年01月21日)民法第112条,民法第117条,民法第898条
- 無権代理人が本人を共同相続した場合における無権代理行為の効力
- 無権代理人が本人を共同相続した場合には、共同相続人全員が共同して無権代理行為を追認しない限り、無権代理人の相続分に相当する部分においても、無権代理行為が当然に有効となるものではない。
- 土地建物所有権移転登記抹消登記、土地所有権移転請求権仮登記抹消登記等(最高裁判決 平成5年01月21日)民法第113条,民法第117条,民法第898条
- 無権代理人が本人を共同相続した場合における無権代理行為の効力
- 無権代理人が本人を共同相続した場合には、共同相続人全員が共同して無権代理行為を追認しない限り、無権代理人の相続分に相当する部分においても、無権代理行為が当然に有効となるものではない。
- 土地所有権移転登記手続(最高裁判決 平成8年11月12日)民法第162条,民法第185条,民法第186条1項
- 他主占有者の相続人が独自の占有に基づく取得時効の成立を主張する場合における所有の意思の立証責任
- 他主占有者の相続人が独自の占有に基づく取得時効の成立を主張する場合には、相続人において、その事実的支配が外形的客観的にみて独自の所有の意思に基づくものと解される事情を証明すべきである。
- 他主占有者の相続人について独自の占有に基づく取得時効の成立が認められた事例
- 甲が所有しその名義で登記されている土地建物について、甲の子である乙が甲から管理をゆだねられて占有していたところ、乙の死亡後、その相続人である乙の妻子丙らが、乙が生前に甲から右土地建物の贈与を受けてこれを自己が相続したものと信じて、その登記済証を所持し、固定資産税を納付しつつ、管理使用を専行し、賃借人から賃料を取り立てて生活費に費消しており、甲及びその相続人らは、丙らが右のような態様で右土地建物の事実的支配をしていることを認識しながら、異議を述べていないなど判示の事実関係があるときは、丙らが、右土地建物が甲の遺産として記載されている相続税の申告書類の写しを受け取りながら格別の対応をせず、乙の死亡から約15年経過した後に初めて右土地建物につき所有権移転登記手続を求めたという事実があるとしても、丙らの右土地建物についての事実的支配は、外形的客観的にみて独自の所有の意思に基づくものと解するのが相当であり、丙らについて取得時効が成立する。
- 根抵当権設定登記抹消登記手続請求本訴、同反訴(最高裁判決 平成10年07月17日)民法第113条、民法第117条
- 本人が無権代理行為の追認を拒絶した後に無権代理人が本人を相続した場合における無権代理行為の効力
- 本人が無権代理行為の追認を拒絶した場合には、その後無権代理人が本人を相続したとしても、無権代理行為が有効になるものではない。
- 損害賠償請求事件(最高裁判決 平成11年10月22日)国民年金法第30条,厚生年金保険法第47条,民法第709条,国民年金法第35条1号,厚生年金保険法第53条1号,国民年金法第33条の2,厚生年金保険法第50条の2,国民年金法第37条,厚生年金保険法第58条
- 不法行為により死亡した者の相続人が被害者の得べかりし障害基礎年金及び障害厚生年金を逸失利益として請求することの可否
- 障害基礎年金及び障害厚生年金の受給権者が不法行為により死亡した場合には、その相続人は、加害者に対し、被害者の得べかりし右各障害年金額を逸失利益として請求することができる。
- 不法行為により死亡した者の相続人が被害者の得べかりし障害基礎年金及び障害厚生年金についての各加給分を逸失利益として請求することの可否
- 障害基礎年金及び障害厚生年金についてそれぞれ加給分を受給している者が不法行為により死亡した場合には、その相続人は、加害者に対し、被害者の得べかりし右各加給分額を逸失利益として請求することはできない。
- 障害基礎年金及び障害厚生年金の受給権者が不法行為により死亡した場合にその相続人がする損害賠償請求において当該相続人が受給権を取得した遺族基礎年金及び遺族厚生年金を控除すべき損害の費目
- 障害基礎年金及び障害厚生年金の受給権者が不法行為により死亡した場合に、その相続人が被害者の死亡を原因として遺族基礎年金及び遺族厚生年金の受給権を取得したときは、当該相続人がする損害賠償請求において、支給を受けることが確定した右各遺族年金は、財産的損害のうちの逸失利益から控除すべきである。
- 財産分与審判に対する抗告審の取消決定に対する許可抗告事件(最高裁判決 平成12年03月10日)民法第768条
- 預託金返還請求事件(最高裁判決 平成17年09月08日)民法第88条2項,民法第89条2項,民法第427条,民法第601条,民法第898条,民法第899条,民法第900条,民法第907条,民法第909条
- 共同相続に係る不動産から生ずる賃料債権の帰属と後にされた遺産分割の効力
- 相続開始から遺産分割までの間に共同相続に係る不動産から生ずる金銭債権たる賃料債権は,各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得し,その帰属は,後にされた遺産分割の影響を受けない。
参考
編集明治民法において、本条には「親権喪失の宣告」に関する以下の規定があった。民法第834条に継承され、その後の改正により「親権喪失の審判」となっている。
- 父又ハ母カ親権ヲ濫用シ又ハ著シク不行跡ナルトキハ裁判所ハ子ノ親族又ハ検察官ノ請求ニ因リ其親権ノ喪失ヲ宣告スルコトヲ得
|
|