民法第768条
条文
編集(財産分与)
- 第768条
- 協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
- 前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から5年を経過したときは、この限りでない。
- 前項の場合には、家庭裁判所は、離婚後の当事者間の財産上の衡平を図るため、当事者双方がその婚姻中に取得し、又は維持した財産の額及びその取得又は維持についての各当事者の寄与の程度、婚姻の期間、婚姻中の生活水準、婚姻中の協力及び扶助の状況、各当事者の年齢、心身の状況、職業及び収入その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。この場合において、婚姻中の財産の取得又は維持についての各当事者の寄与の程度は、その程度が異なることが明らかでないときは、相等しいものとする。
改正経緯
編集2024年改正(2024年(令和6年)5月21日公布、施行日未定、公布より2年以内に施行する)にて以下のとおり改正。
- 第2項
- (改正前)離婚の時から2年を経過したときは、
- (改正前)離婚の時から5年を経過したときは、
- 第2項
- 以下の条文から改正。
- 前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。
- 以下の条文から改正。
解説
編集- 日本の婚姻制度において夫婦の財産関係は別産・別管理制が採用されており(民法第755条)、原理的には、離婚に伴った金銭等のやり取りは発生しないはずである。しかしながら、婚姻中に得られた財産で、夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、その共有に属するものと推定されており(民法第762条第2項)、少なくとも、この共有を分割する必要がある。
- そして、何よりも「婚姻中自己の名で得た財産(民法第762条第1項)」で占有・名義等が夫婦の一方になっているものであっても(例.居住不動産の名義が夫のものになっている)、その取得については他方による貢献(共同就労は勿論、家事労働の提供等を含む)が不可欠であったと認められる場合が少なくなく、それは実質的な共有財産であって、その財産形成にかかる貢献相当額について、財産分与を請求できるとする趣旨である。なお、家制度・家督財産制度が原則である明治民法には本条項に相当する条文はない。
- 離婚において最も重要な論点のひとつであり、裁判離婚においては、「付帯処分」についての裁判として、子の監護案件とともに判決を要する事項であるが、協議離婚においては親権が決定されていることが必須である一方で、離婚自体の成立要件とはなっていない。
財産分与の算定
編集慰謝料と財産分与
編集偽装離婚と財産分与の効果
編集参照条文
編集判例
編集- 慰籍料請求 (最高裁判決 昭和31年02月21日)民法第709条,民法第710条,民法第771条
- 離婚と慰藉料請求権
- 夫婦がその一方甲の有責不法な行為によつて離婚のやむなきに至つたときは、その行為が必ずしも相手方乙の身体、自由、名誉等に対する重大な侵害行為にはあたらない場合でも、乙は、その離婚のやむなきに至つたことについての損害の賠償として、甲に対し慰藉料を請求することができる。
- 離婚の場合における慰藉料請求権と財産分与請求権との関係
- 慰藉料を請求することができる場合において、財産分与請求権を有することは、慰藉料請求権の成立を妨げるものではない。
- 離婚と慰藉料請求権
- 財産分与審判に対する即時抗告事件(広島高裁決定 昭和38年06月19日)
- 内縁と財産分与
- 内縁の夫婦関係についても財産分与に関する規定が準用される。
- 離婚等(最高裁判決 昭和53年11月14日)民法第771条
- 離婚訴訟における財産分与と過去の婚姻費用分担の態様の斟酌
- 離婚訴訟において裁判所が財産分与を命ずるにあたつては、当事者の一方が婚姻継続中に過当に負担した婚姻費用の清算のための給付をも含めて財産分与の額及び方法を定めることができる。
- 所有権確認等(最高裁判決 昭和55年07月11日)民法第423条
- 協議・審判等による具体的内容形成前の財産分与請求権に基づく債権者代位権行使の許否
- 協議あるいは審判等によつて具体的内容が形成される前の財産分与請求権を保全するために債権者代位権を行使することは許されない。
- 詐害行為取消(最高裁判決 昭和58年12月19日)民法第424条
- 離婚に伴う財産分与と詐害行為の成否
- 離婚に伴う財産分与は、民法768条3項の規定の趣旨に反して不相当に過大であり、財産分与に仮託してされた財産処分であると認めるに足りるような特段の事情のない限り、詐害行為とはならない。
- 配当異議事件(最高裁判決 平成12年03月09日)
- 離婚に伴う財産分与として金銭の給付をする旨の合意が詐害行為に該当する場合の取消しの範囲
- 離婚に伴う財産分与として金銭の給付をする旨の合意は、民法768条3項の規定の趣旨に反してその額が不相当に過大であり、財産分与に仮託してされた財産処分であると認めるに足りるような特段の事情があるときは、不相当に過大な部分について、その限度において詐害行為として取り消されるべきである。
- 離婚に伴う慰謝料を支払う旨の合意と詐害行為取消権
- 離婚に伴う慰謝料として配偶者の一方が負担すべき損害賠償債務の額を超えた金額を支払う旨の合意は、右損害賠償債務の額を超えた部分について、詐害行為取消権行使の対象となる。
- 離婚に伴う財産分与として金銭の給付をする旨の合意が詐害行為に該当する場合の取消しの範囲
- 財産分与審判に対する抗告審の取消決定に対する許可抗告事件(最高裁判決 平成12年03月10日)民法第896条
- 内縁の夫婦の一方の死亡により内縁関係が解消した場合に民法768条の規定を類推適用することの可否
- 内縁の夫婦の一方の死亡により内縁関係が解消した場合に、民法768条の規定を類推適用することはできない。
参考
編集明治民法においては、本条に以下の条文があったが、家族法改正に伴い継承なく削除・廃止された。
- 奸通ニ因リテ離婚又ハ刑ノ宣告ヲ受ケタル者ハ相奸者ト婚姻ヲ為スコトヲ得ス
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