民法第152条
条文
編集(承認による時効の更新)
- 第152条
- 時効は、権利の承認があったときは、その時から新たにその進行を始める。
- 前項の承認をするには、相手方の権利についての処分につき行為能力の制限を受けていないこと又は権限があることを要しない。
改正経緯
編集2017年改正により、以下のとおり本条に定められていた「破産等手続き参加」の却下又は取り下げの時効への効果の趣旨は、第147条に吸収され、それに代え旧第147条に規定されていた承認の効果について規定し、旧第156条に規定されていた承認能力について吸収した。
解説
編集- 「承認」とは、時効の利益を受ける者が、時効によって権利を失うべき者に対して、その権利の存在を知っていることを表示することを言う。したがって、ある時点で、相手方が権利者に権利がある旨、認めたならば、その時点が時効の起点となる。承認には形式が決められておらず、債務確認書の差し入れ、弁済の猶予の懇願、弁済額減額の申し入れ、担保の提供、利息や元本一部の支払いなど、債務等の存在を前提とする行為のいずれもが承認と解しうる。当然ではあるが、地代や賃料の支払いは、所有権に関する取得時効の起算点を支払いの都度更新する[1]。
- 承認は、新たに債務負担をする行為ではないので、処分の能力や権限があることは必要ない。したがって、保佐人や補助人の同意のない、被保佐人・被補助人の承認は有効である。一方で「処分につき」と限定していることの反対解釈として、管理能力・権限は必要と解されるので、法定代理人や成年後見人の同意のない、未成年・成年被後見人の承認は無効である。
- また、保証においては、主たる債務者の承認による時効の更新は保証契約に及ぶ(第457条)、一方で、そのような規定のない保証人による承認は、時効の相対効の性質(第153条)から、承認者である保証人にしか及ばず主たる債務の時効の進行に影響を与えない(最判昭和62年09月03日)。
「承認」とされる事例
編集- 弁済のための小切手の振り出し(最判昭和36年08月31日)
参照条文
編集判例
編集- 売掛代金請求(最高裁判決 昭和36年08月31日)小切手法第28条以下
- 債務の一部弁済のために小切手が振り出された場合右小切手の支払は右債務の消滅時効中断の事由たる承認となるか。
- 債務の一部弁済のために振り出された小切手が支払人により支払われた場合、右支払は振出人による承認として右債務の消滅時効中断の効力を有する。
- 請求異議(最高裁判決 昭和41年04月20日)
- 消滅時効完成後に債務の承認をした場合において右承認はその時効の完成を知つてしたものと推定することの可否
- 消滅時効完成後に債務の承認をした場合において、そのことだけから、右承認はその時効が完成したことを知つてしたものであると推定することは許されないと解すべきである。
- 消滅時効完成後における債務の承認と当該時効援用の許否
- 債務者が、消滅時効完成後に債権者に対し当該債務の承認をした場合には、時効完成の事実を知らなかつたときでも、その後その時効の援用をすることは許されないと解すべきである。
- 承認により時効は更新される。時効は完成しても権利者が援用しない限りは法的効力は認められないので、援用せず承認すれば時効は更新され債務は存続することとなる。時効が完成したであろうことの事実を知らないことは、権利者の動機の錯誤であり救済に及ぶものではない。
- 債務者が、消滅時効完成後に債権者に対し当該債務の承認をした場合には、時効完成の事実を知らなかつたときでも、その後その時効の援用をすることは許されないと解すべきである。
- 消滅時効完成後に債務の承認をした場合において右承認はその時効の完成を知つてしたものと推定することの可否
- 債務不存在確認等(最高裁判決 昭和62年09月03日) 民法第146条,民法第148条,民法第156条
- 物上保証人がした被担保債権の存在の承認と相対的な時効中断効の有無
- 物上保証人が債権者に対し被担保債権の存在を承認しても、右の承認によつては、債権者と物上保証人との相対的関係においても、被担保債権について時効中断の効力は生じない。
註
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