民法第3条の2
条文
編集(意思能力)
- 第3条の2
- 法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。
解説
編集意思能力とは、意思表示などの法律上の判断において自己の行為の結果を判断することができる能力(精神状態・精神能力)[1][2][3]をいう。一般的には、10歳未満の幼児や泥酔者、重い精神病や認知症にある者には、意思能力がないとされる。
日本では、判例(大判明治38年5月11日明治38年(オ)189号民録11輯706頁[4])や学説によって意思無能力者の法律行為は無効とされてきたが、民法などの実定法には具体化されていなかった[3]。2017年の改正で本条が追加された。
制限行為能力者の行為が取消しうるものであるのに対し、意思無能力者の法律行為は一層強い無効とされるが、目的が意思表示者の保護にあるため、無効の主張は目的に叶う者のみに許されるとするのが、立法前からの学説上の通説である。一方、法定されている制限行為能力者の行為と異なり、法律行為時に当該行為の時点で意思無能力であったことは、実質的な観点からその有無を立証する必要がある。
判例
編集制定前の判例
- 婚姻無効確認請求(最高裁判決昭和44年4月3日)民法第739条、民法第742条
- 婚姻の届書が受理された当時本人が意識を失つていた場合と婚姻の届出の効力 - 意思能力の存在時期
- 事実上の夫婦共同生活関係にある者が、婚姻意思を有し、その意思に基づいて婚姻の届書を作成したときは、届書の受理された当時意識を失つていたとしても、その受理前に翻意したなど特段の事情のないかぎり、右届書の受理により婚姻は有効に成立する。
- 本件婚姻届がE(夫婦の一方)の意思に基づいて作成され、同人がその作成当時婚姻意思を有していて、同人と上告人との間に事実上の夫婦共同生活関係が存続していたとすれば、その届書が当該係官に受理されるまでの間に同人が完全に昏睡状態に陥り、意識を失つたとしても、届書受理前に死亡した場合と異なり、届出書受理以前に翻意するなど婚姻の意思を失う特段の事情のないかぎり、右届書の受理によつて、本件婚姻は、有効に成立したものと解すべきである。
脚注
編集- ^ 近江幸治『民法講義Ⅰ 民法総則 第5版』成文堂、2005年3月、37頁
- ^ 川井健『民法概論1 民法総則 第4版』有斐閣、2008年3月、21頁
- ^ 3.0 3.1 “意思能力制度の明文化”. 法務省. 2019年7月8日閲覧。
- ^ 大審院判決判明治38年5月11日明治38年(オ)189号民録11輯706頁 法律が禁治産者等無能力者を特定し其行為を取消すことを許したるは無能力者の利益を保護せんが為め意思欠缺の事実を証明することなく当然之が取消を為すことを得せしめるもにして(略)禁治産宣告前の行為たりとも事実上意思能力を有せざりしときは其行為は無効たるべく又之と等く縦令禁治産中に為したる行為たりとも全く意思能力を有せざる事実あるに於いては何等取消の意思を表示することなく当然無効たるべきは誠に明白なる法理なり
|
|