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ファージを使った形質転換の研究は、現代では高校のほぼ範囲外になっている。
436 行
 
== 遺伝子の本体 ==
=== 遺伝子の本体の研究 ===
1869年、スイスの[[w:フリードリッヒ・ミーシェル|フリードリッヒ・ミーシェル]]は、
細胞核内の物質を発見しヌクレイン(nuclein)と呼んだ。
当時は、遺伝子の本体はタンパク質であると考えられていたが、
今日では、ヌクレインはDNAと呼ばれ、遺伝子の本体であることが明らかになっている。
 
*グリフィスの実験
[[Image:Griffith_experiment_ja.svg|thumb|400px|right|[[w:グリフィスの実験|グリフィスの実験]]]]
1928年イギリスの[[w:フレデリック・グリフィス|フレデリック・グリフィス]]は、
肺炎レンサ球菌とネズミを用いて[[w:グリフィスの実験|実験]]を行った。
肺炎レンサ球菌には、被膜を持っていて病原性のあるS(smooth)型菌と、被膜が無く病原性のないR(rough)型菌の2種類がある。
被膜の有無と病原性の有無の、どちらも遺伝形質である。
通常の菌の分裂増殖では、S型とR型との違いという遺伝形質は変わらない。
 
グリフィスの実験結果は次の通り。
:生きたS型菌をネズミに注射すると、ネズミは肺炎を起こして死ぬ。
:生きたR型菌をネズミに注射すると、ネズミは肺炎を起こさない。
:加熱殺菌したS型菌をネズミに注射すると、ネズミは肺炎を起こさない。
:加熱殺菌したS型菌に生きたR型菌を混ぜてネズミに注射すると、ネズミは肺炎を起こして死ぬ。死んだネズミの血液を調べるとS型菌が繁殖していた。
 
これはR型菌の形質が、加熱殺菌したS型菌に含まれる物質によって、S型菌の形質へ変化したためであり、
これを'''形質転換'''(transformation: nuclein)と呼ぶ。
{{-}}
 
*アベリーの実験
1943年ころ、カナダの[[w:オズワルド・アベリー|オズワルド・アベリー]]は、グリフィスの実験での形質転換を起こした物質が何かを特定するため、タンパク質分解酵素とDNA分解酵素を用いて、S型菌・R型菌の実験を行った。
 
実験結果
:S型菌のタンパク質を分解した抽出液にR型菌を混ぜると、S型菌へ形質転換した。
:次にS型菌のDNAを分解した抽出液にR型菌を混ぜても、S型菌へ形質転換はしなかった。
これによって、R型菌の形質転換を起こしたのはDNAであることがわかった。
 
*バクテリオファージの増殖実験
[[Image:Tevenphage.svg|thumb|left|T2ファージの構造]]
1952年、アメリカの[[w:アルフレッド・ハーシー|アルフレッド・ハーシー]]と[[w:マーサ・チェイス|マーサ・チェイス]]は、
T2ファージというウイルスを用いて[[w:ハーシーとチェイスの実験|実験]]を行った。
T2ファージは細菌に寄生して増殖するウイルスであるバクテリオファージの一種であり、
ほぼタンパク質とDNAからできている。T2ファージの頭部の中にDNAが含まれる。それ以外の外殻(がいかく)はタンパク質で、できている。
 
彼らは、放射性同位体の<sup>35</sup>S(硫黄の放射性同位体)および<sup>32</sup>P(リンの放射性同位体)を目印として用い、硫黄をふくむタンパク質には<sup>35</sup>Sで目印をつけ、<sup>32</sup>PでDNAに目印をつけた。DNAは P(リン)をふくむがS(硫黄)をふくまない。彼らの実際の実験では、タンパク質に目印をつけた実験と、DNAに目印をつけた実験とは、それぞれ別に行った。
{{-}}
[[File:ハーシーとチェイスの実験.svg|thumb|800px|ハーシーとチェイスの実験]]
実験では、それらの放射性同位体をもつT2ファージを大腸菌に感染させ、さらにミキサーで撹拌し、遠心分離器で大腸菌の沈殿と、上澄みに分けた。
大腸菌からは、<sup>32</sup>Pが多く検出され、あまり<sup>35</sup>Sは検出されなかった。このことからT2ファージのDNAが大腸菌に進入したと結論付けた。また、上澄みからはT2ファージのタンパク質が確認された。つまり上澄みはT2ファージの外殻をふくんでいる。
 
さらに、この大腸菌からは、20~30分後、子ファージが出てきた。子ファージには<sup>35</sup>Sは検出されなかった。
 
これによって、DNAが遺伝物質であることが証明された。
 
 
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=== DNAの構造 ===
[[File:DNAのヌクレオチド構造.svg|thumb|300px|DNAのヌクレオチド構造]]
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これにより、ヒトの遺伝子の全体が明らかとなった。
現在では、ゲノム研究は、食品や医療などに応用されている。
 
 
=== (※ ほぼ範囲外:) 遺伝子の本体の研究 ===
:※ 2010年代の生物基礎・生物の教科書では、形質転換やファージなどの話題が、あまり見当たらない。
 
1869年、スイスの[[w:フリードリッヒ・ミーシェル|フリードリッヒ・ミーシェル]]は、
細胞核内の物質を発見しヌクレイン(nuclein)と呼んだ。
当時は、遺伝子の本体はタンパク質であると考えられていたが、
今日では、ヌクレインはDNAと呼ばれ、遺伝子の本体であることが明らかになっている。
 
* グリフィスの実験
[[Image:Griffith_experiment_ja.svg|thumb|400px|right|[[w:グリフィスの実験|グリフィスの実験]]]]
1928年イギリスの[[w:フレデリック・グリフィス|フレデリック・グリフィス]]は、
肺炎レンサ球菌とネズミを用いて[[w:グリフィスの実験|実験]]を行った。
肺炎レンサ球菌には、被膜を持っていて病原性のあるS(smooth)型菌と、被膜が無く病原性のないR(rough)型菌の2種類がある。
被膜の有無と病原性の有無の、どちらも遺伝形質である。
通常の菌の分裂増殖では、S型とR型との違いという遺伝形質は変わらない。
 
グリフィスの実験結果は次の通り。
:生きたS型菌をネズミに注射すると、ネズミは肺炎を起こして死ぬ。
:生きたR型菌をネズミに注射すると、ネズミは肺炎を起こさない。
:加熱殺菌したS型菌をネズミに注射すると、ネズミは肺炎を起こさない。
:加熱殺菌したS型菌に生きたR型菌を混ぜてネズミに注射すると、ネズミは肺炎を起こして死ぬ。死んだネズミの血液を調べるとS型菌が繁殖していた。
 
これはR型菌の形質が、加熱殺菌したS型菌に含まれる物質によって、S型菌の形質へ変化したためであり、
これを'''形質転換'''(transformation: nuclein)と呼ぶ。
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* アベリーの実験
1943年ころ、カナダの[[w:オズワルド・アベリー|オズワルド・アベリー]]は、グリフィスの実験での形質転換を起こした物質が何かを特定するため、タンパク質分解酵素とDNA分解酵素を用いて、S型菌・R型菌の実験を行った。
 
実験結果
:S型菌のタンパク質を分解した抽出液にR型菌を混ぜると、S型菌へ形質転換した。
:次にS型菌のDNAを分解した抽出液にR型菌を混ぜても、S型菌へ形質転換はしなかった。
これによって、R型菌の形質転換を起こしたのはDNAであることがわかった。
 
* バクテリオファージの増殖実験
[[Image:Tevenphage.svg|thumb|left|T2ファージの構造]]
1952年、アメリカの[[w:アルフレッド・ハーシー|アルフレッド・ハーシー]]と[[w:マーサ・チェイス|マーサ・チェイス]]は、
T2ファージというウイルスを用いて[[w:ハーシーとチェイスの実験|実験]]を行った。
T2ファージは細菌に寄生して増殖するウイルスであるバクテリオファージの一種であり、
ほぼタンパク質とDNAからできている。T2ファージの頭部の中にDNAが含まれる。それ以外の外殻(がいかく)はタンパク質で、できている。
 
彼らは、放射性同位体の<sup>35</sup>S(硫黄の放射性同位体)および<sup>32</sup>P(リンの放射性同位体)を目印として用い、硫黄をふくむタンパク質には<sup>35</sup>Sで目印をつけ、<sup>32</sup>PでDNAに目印をつけた。DNAは P(リン)をふくむがS(硫黄)をふくまない。彼らの実際の実験では、タンパク質に目印をつけた実験と、DNAに目印をつけた実験とは、それぞれ別に行った。
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[[File:ハーシーとチェイスの実験.svg|thumb|800px|ハーシーとチェイスの実験]]
実験では、それらの放射性同位体をもつT2ファージを大腸菌に感染させ、さらにミキサーで撹拌し、遠心分離器で大腸菌の沈殿と、上澄みに分けた。
大腸菌からは、<sup>32</sup>Pが多く検出され、あまり<sup>35</sup>Sは検出されなかった。このことからT2ファージのDNAが大腸菌に進入したと結論付けた。また、上澄みからはT2ファージのタンパク質が確認された。つまり上澄みはT2ファージの外殻をふくんでいる。
 
さらに、この大腸菌からは、20~30分後、子ファージが出てきた。子ファージには<sup>35</sup>Sは検出されなかった。
 
これによって、DNAが遺伝物質であることが証明された。
 
 
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== 脚注 ==