「高等学校国語総合/伊勢物語」の版間の差分

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筒井筒の語釈
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昔、田舎(いなか)わたらひしける人の子ども、井のもとに出でて(いでて)遊びけるを、大人(おとな)になりにければ、男も女も恥ぢ'''かはして'''ありけれど、男は'''この女をこそ得め'''と思ふ。女は'''この男を'''と思ひつつ、親の'''あはす'''れども、'''聞かで''' '''なむありける'''。さて、この隣の男のもとより、'''かくなむ'''、
 
:筒井筒 井筒にかけし '''まろ'''がたけ 過ぎにけらしな ''''''(いも)見ざるまに
  
女、返し、
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そして、この隣に住む男のところから、'''このように(歌を言ってきた)'''。
 
:'''私の'''(=男のほう)背丈も、(もう)井戸の背丈を越してしまったことだよ。'''あなた(=女)'''と会わないでいるうちに。丸い井戸の、井戸の囲いと、幼いころに高さを比べた私の背丈は。
 
女の返歌は、
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:'''かくなむ''' - このように。後ろに「言ひおこせる」などを補って訳す。
:まろ - 私。自称の代名詞。
:妹(いも) - 男が女を慣れ親しんで呼ぶ、呼び名。
:'''本意'''(ほい) - 念願かなって。本来の望みどおりに。「ほんい」の撥音「ん」が表記されない形。
:'''あひにけり''' - 結婚した。
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さて、年ごろ経る(ふる)ほどに、女、親なく、頼りなくなるままに、'''もろともに'''いふかひなくてあらむやはとて、河内(かふち)の国高安(たかやす)の郡(こおり)に、行き通ふ所いできにけり。'''さりけれど'''、このもとの女、「悪し。」(あし)と思へる気色(けしきもなくて、いだしやりければ、男、「'''異心'''(ことごころ)ありてかかるにやあらむ。」と思ひ疑ひて、前栽(せんざい)の中に隠れゐて、河内へ往ぬる顔にて見れば、この女、いとよう化粧(けしょう)じて、うち眺めて(ながめて)、
 
さて、年ごろ経る(ふる)ほどに、女、親なく、頼りなくなるままに、もろともにいふかひなくてあらむやはとて、河内(かふち)の国高安(たかやす)の郡(こおり)に、行き通ふ所いできにけり。さりけれど、このもとの女、「悪し。」(あし)と思へるけしきもなくて、いだしやりければ、男、「異心(ことごころ)ありてかかるにやあらむ。」と思ひ疑ひて、前栽(せんざい)の中に隠れゐて、河内へ往ぬる顔にて見れば、この女、いとよう化粧(けしょう)じて、うち眺めて(ながめて)、
 
:風吹けば 沖つ白波 たつた山 夜半(よは)にや君が ひとり越ゆらむ
  
と詠み(よみ)けるを聞きて、限りなく'''かなし'''と思ひて、河内へも行かずなりにけり。
 
 
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さて、それから数年がたつうちに、女の親が死んで、女は生活のよりどころ(=財産など)がなくなり、(男が思ったのは)夫婦とも'''いっしょ'''貧しくいられようか(、いやおられない、)と(男は)思い、(男は別の女に通ってしまようになり、)河内の国の高安の郡に行き通う所が出来てしまった。
 
'''そうでありながら'''、もとの女は不快に思ってる様子が無いので、男はこのもとの女が'''浮気'''をしてるのではと疑わしく思ったので、(男は)庭の植え込みの中に隠れて、河内に行ったふりをして、女の様子を見ると、女はたいそう美しい化粧をして物思いにぼんやりと外を眺めて(和歌を詠み)
 
:(歌) 風が吹くと、沖の白波が「立つ」(たつ)というが、(夫は)竜田山(「たつたやま」)を一人で越えているのだろうか。
 
と詠んだのを(男は)聞いて、(男は)このうえもなく(女を)'''いとしい'''と思い、河内(の女の所)へ行かなくなった。
 
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*語句(重要)
:もろともに - いっしょに
:さりけれど - そうではあるけれど。「さありけれど」。ここでの「さ」の内容は、男が河内の女に通うようになったこと。
:気色(けしき)- 態度、ありさま、そぶり、振る舞い、様子。
:異心(ことごころ) - 浮気心。
:たつた山 - 現在の奈良県にある龍田山。この和歌では動詞「立つ」と掛けている。
:風吹けば沖つ白波 - 序言葉であり、「たつた山」を導く。
:かなし - ここでは「いとしい」の意味。
 
*語句
:河内 - 現在の大阪府の南部。
 
 
=== 三 ===
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'''まれまれ'''かの高安に来てみれば、初めこそ心にくくも'''つくりけれ'''、今はうちとけて、手づから飯匙(いいがい)取りて、笥子(けこ)のうつはものに盛りけるを見て、心憂がりて(うがりて)行かずなりにけり。さりければ、かの女、大和の方を見やりて、
 
:君があたり 見つつを居らむ(をらむ) 生駒山(いこまやま) '''雲な隠しそ''' 雨は降るとも
  
と言ひて見出だす(みいだす)に、からうじて、大和人(やまとびと)、「来む。」(こむ)と言へり。喜びて待つに、たびたび過ぎぬれば、
  
:君来むと 言ひし夜ごとに 過ぎぬれば '''頼まぬものの''' 恋ひつつぞ経る
  
と言ひけれど、男住まず(すまず)なりにけり。
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'''ごく稀(まれ)に'''、あの高安(の女の所)に来てみると、女は始めのころは'''奥ゆかしく'''取り繕っていたけれども、今では気を許して、(食事のときには、女が)自分の手でしゃもじを取ってご飯を食器に盛ったのを(男は)見て、嫌気がさして(高安の女の所に)行かなくなってしまった。
 
そうなったので、あの(高安の)女は、大和のほうを見やって、
 
:(歌) あなたのいらっしゃるあたりを眺めながら暮らしましょう。だから生駒山の'''雲よ、隠すな'''。(たとえ)雨は降っても。
 
と歌を詠んで外を見やると、やっとのこと、大和の人(男)が「行こう」と言った。
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(高安の女は)喜んで待つが、(しかし、男は訪れず、女は使いをよこすが、男は)何度も来ないで、(月日が)過ぎてしまった。
 
:(歌) あなたが来ると言った夜ごとに、(訪れてくれずに、時が)過ぎ去ってしまうので、もう(訪れを)'''あてにはしておりません'''が、(私は)あなたを恋しく思いながら暮らしています。
 
と言ったが(=歌を詠んだけれども)、男は通って来(河内の女の所には)行かなくなってしまった。
 
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(第二十三段)
 
*語句(重要)
:まれまれ - ごくまれに。たまに。ときたま。
:'''つくりけれ''' - 逆接で訳す。「けれ」は係り結びの結びだが、ここでは逆接に訳さないと、文脈の意味が通らない。
:'''心にくく''' - ここでは「奥ゆかしく」。
:手づから - 自分の手で。
:心憂がりて(うがりて) - 嫌に思って。嫌気が差して。「心憂し」(こころうし)の変化した形。
: '''雲な隠しそ''' - 「な・・・そ」で禁止を表す。「雲よ、隠すな」の意味。
:からうじて(かろうじて) - 副詞「からくして」のウ音便。意味は「やっとのことで」、「ようやく」。副詞のかかる先は「言へり」。
: '''頼まぬものの''' - 意味は「もう、あてにはしないけれど」。「頼む」の意味は「あてにする」。「ものの」は逆接の接続助詞。
:住まずになりにけり - ここでの意味は、河内の女の家に行かないこと。「住」とあるのは、おそらく、河内の女の家に行って寝泊りしないことか。
 
*語句
:飯匙(いいがい) - しゃもじ。
:笥子(けこ)のうつはもの - 食器。
:大和 - 現在の奈良県。
 
 
=== 品詞分解 ===