粒子の作用はローレンツ不変な形式でなくてはならない。すなわち、作用は粒子の世界線に沿ったスカラー の積分と4元ベクトル の線積分の和
の形に限られるだろう。自由粒子については なのであった。
電磁場と相互作用する粒子の作用 は、 、 とした
である。4元ベクトル は電磁場(あるいは4元ポテンシャル、電磁ポテンシャル)と呼ばれ、 は電荷と呼ばれる量である。電磁場 の成分は、 であり、 はスカラーポテンシャル、 はベクトルポテンシャルと呼ばれる。
作用の時間成分と空間成分を分けて書くと
自由粒子の作用と合わせると、
となる。この被積分関数が電磁場中の粒子のラグランジアン である。
電磁場中の運動方程式を求めるためには、オイラーラグランジュ方程式
を求めれば良い。
また、 である。
最終的に、オイラーラグランジュ方程式は
となる。これが粒子の運動方程式である。第一項と第二項の電荷当たりにかかる力を電場 といい、第三項の速度に直交する部分を磁場 という。
また、運動方程式は となり右辺はローレンツ力と呼ばれる。
電場と磁場の定義より
である。これでマクスウェルの方程式のうち二式を得る。
ここで、もう一度粒子の運動方程式を求めることにしよう。今度は4元形式を崩さない形で求める。
粒子の作用は
である。作用の変分は、
であり、
である。電磁場の強度 を と定義すると、
となる。 より、運動方程式
を得る。
は反対称 であるから、対角成分 は0。つまり電磁場テンソルの上半分の6成分を調べれば残りは分かる。
電磁場の強度 の成分は
等により、
を得る。ちなみに、 である。実際、 ただし、 に負号がついていることに注意。
の を に変換してローレンツ因子の分を除すると、
を得る。 については、ローレンツ力の式 となる。
について計算すると、 を得る。これは電磁場が粒子に対してする仕事である。磁場は粒子に対して仕事をしないことがわかる。
電磁場の作用を求めるにあたって、まずは電磁場と相互作用する粒子の作用 に少しの変更を加えよう。これはある粒子の経路について変分をとるから、一つの粒子に対する作用であったが、電磁場の作用を求めるために、これを存在するすべての粒子に対する和に変更しなくてはいけない。作用は、
となる。ここで、 は存在するすべての粒子のラベルである。積分はそれぞれの粒子の世界線に沿った経路ものになる。電荷密度 をディラックのデルタ関数を使って
と定義する。 は 番目の電荷の位置ベクトルである。さらに、4元電流密度 を
と定義する。ここで、4元電流密度は ではない。 がスカラーではないからこの量が4元ベクトルとはならためである。電荷密度 がスカラーではないことはローレンツ収縮が起こるためである。ある微小領域 に存在する電荷はローレンツ不変だが、微小領域の体積 はローレンツ収縮によって変化しうる。これに伴って電荷密度 も変化するためローレンツ不変ではない。微小領域に存在する電荷は でこの量はローレンツ不変である。両辺に を掛けて、
ここで、 はスカラーである。なぜなら、ローレンツ変換によって、 (ローレンツ収縮)、 との変換を受けるからである。あるいは、ローレンツ変換の行列の行列式が1である事からも分かる。 は4元ベクトルだから、 は4元ベクトルである。
4元電流密度を使うと、作用は、
となる。
次に、電磁場自身の作用 をもとめよう。電磁場の作用はゲージ変換について不変であるべきだ。すなわち、作用はゲージ不変な によって作られなくてはいけない。もし が顕に含まれているとゲージ不変ではなくなる。さらに、電磁場は経験的に重ね合わせの原理を満たすことが分かっている。すなわち、第一の粒子がある場をつくり、また第二の粒子が場をつくるならば、この2つの粒子によって作られる場は粒子の作る場の単純な足し合わせであるということである。この原理を満たすためには、変分によって導かれる運動方程式は の一次の式であればよい。変分によって得られる式の次数はラグランジアンの次数から1を引いたものであるから、ラグランジアンは に対する二次の式である。これらの条件を満たす量は のみである。比例定数を適当に選ぶと、電磁場の作用は、
となる。ここで、 である。
その変分は、
ここで、 であり、 であるから、
さらに、 であるから、右辺第一項について四次元のガウスの定理を用いると、
である。無限遠では場は0となるから であり、時間の端点では であるから、この積分は0となる。
結局作用の変分は、
となる。
と合わせると、電磁場の運動方程式
を得る。
について計算すると、
を得る。
ここで、一つの静止した電荷 が距離 のところにつくる電場の大きさはガウスの法則より、
これは、クーロンの法則であるから、 の関係を得る。
すなわち、
について計算すると、
が得られる。これでマクスウェルの方程式の四本の式が得られた。
ここで、
ここで、最後の式は、電磁場テンソルが反対称であることから、アインシュタインの記法なしで
であり、微分の添字は対称であることから、 となる。
は
である。これは連続の式である。
ここでは、連続の式をマクスウェルの方程式から求めたが、これは電荷と電流の定義より、自明に成り立つ式である。一つの電子について証明すれば十分だから、そのときは、
となる。
さらに、
任意の関数 について、 と変換しても、 は変化しない。この変換をゲージ変換という。ゲージ変換はスカラーポテンシャルとベクトルポテンシャルを分けて書くと である。このゲージ自由度のお陰で、我々は電磁ポテンシャルにゲージ条件を課して計算しやすいように変形することができる。例えば、ローレンツゲージ や、クーロンゲージ 。あるいは、 の場合には、常に で、かつ である放射ゲージを取ることができる。
任意の電磁ポテンシャル からローレンツゲージを満たす電磁ポテンシャル へのゲージ変換を求めよう。条件は、 より、
クーロンゲージについては、 より、
となるゲージのためには、 だから、 とすればいい。さらに、 の場合は、時間に依存しない関数の勾配をつけ加えることで、 を保ったまま、 とすることができる。その関数は であるが、右辺は となるから時間に依存しない。すなわち、 は時間に依存しないからこの関数の勾配を加えれば放射ゲージが得られる。
マクスウェルの方程式の第一の組
(ファラデーの電磁誘導の法則)
(磁気単極子は存在しないこと)
と第二の組
(ガウスの法則)
(アンペールマクスウェルの法則)
を合わせてマクスウェルの方程式という。
ガウスの法則をある体積で積分すると、
ガウスの定理より、
であるから、
同様に、
ストークスの定理より、
だから、アンペールマクスウェルの式をある面で積分すると、
を得る。
ファラデーの電磁誘導の法則についても同様に
ここで、 は磁束と呼ばれる。 は閉曲線を一周したときの起電力 である。
回巻きのコイルならば、そのコイルに生じる起電力 は
となる。
第一の組は四元形式では、 と書かれる。このことを示そう。まず、添字に同じ文字がある場合は となり自明に0となるから意味をなさない。すなわち、添字はすべて異なるものでなくてはならない。式 を で略記する。添字は循環的だから、 で が一番小さいとしていい。さらに、 と は同値な式を与えるから、 としていい。結局この式で独立なものは の4つしかない。それぞれの場合について計算すると時間成分を含む3式は第一式、空間成分のみの式は第二式を与えることが分かる。
第一の組は電磁ポテンシャルの存在から自明に成り立つ式であるから、これは電場と磁場に対する拘束条件と言える。
第二の組は、電荷と電流によってつくられる電磁場を与えている。
ところで、 を電磁ポテンシャルを使って書くと、 となる。ここで、電磁ポテンシャルにはある関数の勾配を足しても良い自由度があるから、この自由度を利用して となるポテンシャルを選ぶことができる。さらに、ダランベルシアン を導入すると、マクスウェルの方程式は、 となる。
この方程式の解は
これがマクスウェルの方程式の一般解である。ただし、 , は の解であって境界条件に合うように定める。
時間変化が無いときには、
となる。この式から直ちに、ビオ・サバールの法則
が求まる。
ところで、 という式は磁場が時間変化すると電場の回転が発生すると解釈することが出来る。ところが、電磁ポテンシャルを基本的な量として考えるとまた違った解釈が可能だ。すなわち、電場や磁場はすべて電磁ポテンシャルから発生するという立場のもとでは、磁場が時間変化するということは、そこに時間変化するベクトル・ポテンシャルの回転が存在するだろう。そして、時間変化するベクトル・ポテンシャルの回転によって電場の回転が生ずる。すなわち、ベクトル・ポテンシャルによって磁場の時間変化と電場の回転が同時に生じるということである。
電流を0とした式 もこれと同様に考えることが出来る。 は変位電流と呼ばれる。それは として、変位電流は電流 と一緒に磁場の回転を作るように見えるからである。これも電磁ポテンシャルを基本的な量として考えると分かりやすい。 と変形してから左辺に電磁ポテンシャルを代入して、ゲージ条件としてローレンツ条件を採用すると、 となる。この式は、電流密度 がベクトル・ポテンシャルを生成する式として見ることが出来る。すなわち、電流と変位電流が磁場の回転を起こすというよりも、電流が すなわち に影響を与えるのだと考えるほうが良いだろう。その観点では、アンペールマクスウェルの式は とする方が物理的な意味に合っているのかもしれない。
場の平均化
電荷や電流はデルタ関数の足し合わせで定義していたが、このままでは電子の数が多い場合では計算しきれない。そこで、このような場合は位置によって平均化したものを使う。こうすることで、 は有限の値を取ることになる。