特許法第162条
特許法第162条
拒絶査定不服審判制度におけるいわゆる前置審査への係属について規定する。本条は、平成5年改正前までは実用新案法で準用されていた。
条文
編集第162条 特許庁長官は、拒絶査定不服審判の請求があつた場合において、その請求と同時にその請求に係る特許出願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面について補正があつたときは、審査官にその請求を審査させなければならない。
解説
編集162条から164条までは審査前置制度についての規定である。このうち、本条は前置審査へ係属するための要件について規定する。
現行法(昭和34年法)の制定当初から審査滞貨の一掃が求められていたが[1]、出願件数の増加に伴い逆に積み上がる結果となった[2]。そこで審査の効率化を目指し[3]、出願段階では出願審査請求制度の導入がされることとなったが、審判(拒絶査定不服審判)段階でも審査前置制度を導入することとなった。
今でもそうであるが、拒絶査定不服審判において審判官は出願内容の理解から取り組まなければならず、その分審理に時間がかかっていた。今と違うのは、拒絶査定不服審判が請求されると原則として[4]全件審判合議体が審理するという点である。 一方で、拒絶査定が覆るものの大部分が、拒絶査定後に願書に添付した明細書または図面(当時は、特許請求の範囲は明細書の一部であった。以下、特許請求の範囲も含めて明細書等という。)が補正されたものであることが経験的に知られていた。そのような補正は拒絶査定をした審査官が見れば、拒絶査定前にした調査内容を活用して、迅速に特許査定をすることができる場合が多くなるのではないかと考えられた。そこで、審判請求の際に明細書等の補正があった場合には、その拒絶査定をした審査官に再審査させ、その結果特許査定(あるいは出願公告)をすることができない審判事件のみ審判官合議体が審理することで、審判事件全体の処理の促進を目指すことにした。
拒絶査定不服審判の請求があった場合において、その請求と同時にその請求に係る特許出願の明細書等について補正があったときは、審査官にその請求を審査する(本条)。ここでいう審査は、特許出願に対し特許査定をすることができるか否かについての審査である。なお、審判請求書等の方式等を審査するのは、審査業務課方式審査室の担当であり、審判請求や明細書等にした補正そのものが135条、18条、18条の2の規定により却下され、前置審査に係属しない場合がある。却下についての詳細については、各条の解説を参照のこと。
上記導入の趣旨に基づき、原則として拒絶査定をした審査官または当該査定に関し審査官を補佐した審査官補が審査を担当する[5]。ただし、昇任・配置転換[6]・退官・転職・除斥原因の発生[7]などによりこれらの審査官・審査官補が担当できないときは、出願に係る技術分野の出願審査を担当する審査官・審査官補が担当する[8]。その指定は条文上は特許庁長官がすることになっているが、実際には当該技術分野の審査を所掌する審査長がする[5]。
行政サービスとして、前置審査に係属すると審査前置移管通知が審判請求人または代理人に送付される[9]。
前置審査係属後の審査手順については、特許法第163条#解説を参照のこと。
なお、趣旨および審判請求時の補正がありえない[10]ことから、特許権の存続期間の延長登録の出願に係る拒絶査定に対する拒絶査定不服審判において前置審査に係属することはない。
改正履歴
編集- 昭和45年法律第91号 - 追加
- 平成5年法律第26号 - 条文移動(161条の2から)
- 平成6年法律第116号 - 出願公告制度の廃止に伴い、審査前置においてした出願公告に対して(付与前の)特許異議の申立てがあった場合の職務を削除(後段削除)
- 平成14年法律第24号 - 明細書から特許請求の範囲が分離されたことに伴う修正
- 平成15年法律第47号 - 審判名称付与に伴う修正
- 平成20年法律第16号 - 拒絶査定不服審判の請求に伴う明細書等の補正時期の変更に対応
平成20年改正については、特許法第17条の2#改正履歴を参照のこと。
脚注
編集- ^ 現行法成立時の衆参両議院の付帯決議など
- ^ 参議院会議録情報 第046国会 商工委員会 第28号の冒頭佐橋滋特許庁長官(当時)の答弁
- ^ もちろん、それまで審査官の増員は続けられていたが、審査滞貨の一掃のためさらなる対策が求められていた。
- ^ 例外として、不受理処分(現在の却下処分に相当)、実体的審理に入る前に請求が取り下げられた場合。
- ^ 5.0 5.1 第XI部 業務一般 (PDF) 内「11108 前置審査における審査官の指定」
- ^ 前掲PDFファイル内「11105 審査官の担当の指定及び変更」
- ^ 163条1項で準用する48条で準用する139条1-5, 7号
- ^ 特許庁編「工業所有権法(産業財産権法)逐条解説」〔第19版〕、発明推進協会、2012、p. 449
- ^ [1] (PDF) のQ4-1
- ^ 特許権の設定登録がされているため訂正ができるのみである。
関連条文
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