生存権
意義
編集生存権は、ヴァイマル憲法(1919年)以来20世紀憲法史において実現されてきた比較的新しい人権である。近代市民社会は自由権を保障することによって経済的発展を遂げたが、その過程で社会的格差の拡大が無視できないまでに広がった。そこで、福祉国家の思想が誕生し、特に社会的弱者を保護するため、国民の生活を国家が一定レベルにおいて保障する必要があるとされたのである。
したがって、生存権は国家に対して一定の作為を請求する権利であるという側面をもつ。これは自由権が原則として国家の不作為を求める権利であることと対照的である。 日本国憲法における生存権は25条に規定されている。
憲法第25条
- すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
- 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
25条の法的性格
編集25条がいかなる法的性格を持つものかについては争いがある。
プログラム規定説
編集25条は個々の国民に対して具体的な権利を与えるものではなく、国にとっての目標をスローガン的に定めたものにとどまる、とする説である。個々の国民が25条に基づいた直接の請求を行うことはできないとする。朝日訴訟最高裁判決(最大判昭和42年5月24日民集21-5-1043)がこの説を採用した。
抽象的権利説
編集25条は国の法的義務を規定したものであると、する説である。ただし、具体的に生存権を実現するためには法律による具体化を待たねばならず、個々の国民が25条に基づいた直接の請求を行うことはできないとする。
具体的権利説
編集25条は国の法的義務を規定したものである、とする説である。具体的に生存権を実現するためには法律による具体化を待たねばならないが、個々の国民は国の立法不作為に対して25条を根拠に違憲確認の訴えを起こすことができるとする。
1項と2項の関係
編集堀木訴訟控訴審判決(大阪高判昭和50年11月10日)は25条1項と2項について区分論をとっている。いわく、2項は国の「防貧政策」を定めたものであり、その政策を実施した結果なおこぼれ落ちた者に対しては、1項に基づいて「救貧政策」をとる必要があるとする。したがって、防貧政策は救貧政策よりも広範な立法裁量が認められるとする。そして、本判決で問題になった年金制度は2項の防貧政策に属し、児童扶養手当と障害者年金の併給調整は立法裁量の問題であるから、裁量権の著しい逸脱が見られない限り合憲であるとされた。