12.3 語根
名詞の型については 4.5 にて簡単に述べた。例えば文1 の
הׂלֵךְ は CōCēC(C は子音を表す)という型に属し、文2 の צׂעֲקִים、文3 の עֹבְרִים と יׂשְׁבִים の単数形(צׂעֵק,עׂבֵר,יׂשֵׁב)も同じ型である。この型に属する語は、基本形能動分詞と呼ばれる文法的特徴を共有している(基本形については、後で動詞を学ぶときに詳しく述べる)。分詞は動詞から派生される名詞の一つであるが、例えば英語の能動現在分詞 going が動詞語幹 go に -ing を接尾して作られるのに対し、ヘブライ語では、例えば h-l-k のように原則として三個の子音の不連続な列をなす語根と CōCēC という型を組み合わせて作るのである。語根や型を抽象するのは、それらが意味と関係しているからである。
すでに学んだ名詞を例にとれば、עֶ֫בֶד, מֶ֫לֶךְ, דֶּ֫רֶךְ, אֶ֫רֶץ はいずれも、CéCeC という型に属し、この型は形容詞的な働きをしない名詞(5.4 参照.例えば חָכָם《賢い、賢人》と מֶ֫לֶךְ を比較せよ)を表している。
それでは語根の意味は?少し先取りして動詞も含めて、同じ語根を共有する語を調べて見よう。
הָלַךְ《彼は歩いた》 | : | הֹלֵךְ《歩く(人)、歩いている(人)》 |
צָעַק《彼は叫んだ》 | : | צׂעֵק《叫ぶ(人)、叫んでいる(人)》 |
יָשַׁב《彼は坐った》 | : | יׂשֵׁב《坐る(人)、坐っている(人)》 |
この左右三対の語はそれぞれ הלך、צעק、ישׁב という形を共有し、それと平行して 《歩く》、《叫ぶ》、《坐る》という意味を共有している。すなわち הלך、צעק、ישׁב という語根がそれぞれ《歩く》、 《叫ぶ》、《坐る》という意味と結びついている、と考えることができる。 このようにヘブライ語の語根は辞書的意味(個々の項目ごとに記憶されている意味)をあらわす。一方、型は上述のように、能動完了動詞とか能動分詞といった、文法的意味を表す。
一般に名詞の型は生産的ではない。すなわち任意の型と任意の語根を組み合わせさえすれば次々に名詞が作られていく、というわけではない。例えば דָּבָר《言葉》という名詞は CāCāC という型に属するが、この型を הלך、צעק という語根に適用して *הָלָךְ, *צָעָק という名詞を随意に作るということはできない。逆に言えば、ある名詞の意味をその語根と型との意味から十分に予測するということはできない。これに反し、分詞は動詞語根さえ与えられれば随意に作ることができる。従って例えば אשׁם《罪を犯す》という語根を分詞に当てはめて作った אֹשֵׁם が聖書に現れないのは、偶然にすぎない。こういうことから、辞書(とくに Zorell, Baumgartner などの新しいもの)では、一般の名詞は、たとい動詞と語根を共有するものであっても、独立の見出し語として扱われる一方、分詞は כּׂהֵן《祭司》のように語根を共有する語が無く完全に名詞と化してしまっている語は別として、動詞語根の見出しの下で処理される。