炭素 C 、ケイ素 Si はともに14族に属する元素である。価電子を4個持つ。

炭素

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炭素 (C) は生物を構成する重要な元素であり、多くの化学製品にも含まれている。炭素を含む物質は一般に有機物と呼ばれる。有機化合物については別の章で詳しく学ぶ。この節では、炭素の単体、一酸化炭素、二酸化炭素について説明する。

単体

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炭素の単体は共有結合の結晶であり、結合の仕方によっていくつかの同素体が存在する。

ダイヤモンド (C)
 
ダイヤモンド
 
ダイヤモンドの構造

ダイヤモンドは無色の固体で、1つの炭素原子が4つの炭素原子と正四面体の頂点方向に共有結合し、それが多数連結して結晶を形成している。共有結合の結晶であるため、非常に融点・沸点が高く、地球上で最も硬い物質として知られている。電気は通さないが、熱はよく伝える。宝石としての利用のほか、工業的には研磨剤としても使われる。光の屈折率が大きい。


黒鉛 (C)
 
黒鉛
 
グラフェン
黒鉛(グラファイト)の一層をグラフェンと呼ぶ。上図ではグラフェンが4層描かれている。

黒鉛は金属光沢のある黒色の固体で、炭素原子が正六角形の層状構造を持っている。各層は3つの共有結合によって形成され、残りの価電子は自由電子として層間を移動する。この自由電子の存在により、黒鉛は電気をよく通し、熱伝導性も高い。層と層の結合は弱いため、黒鉛は柔らかく、鉛筆の芯や電気分解用の電極として使用される。


フラーレン(C60、C70など)
 
フラーレン

フラーレンは茶褐色の固体で、多数の炭素原子が球状に結合している。右図はC60フラーレンのモデルで、炭素原子が60個、サッカーボール状に結合している。20世紀後半に発見された物質で、現在も研究が進んでいる。純粋なフラーレンは電気を通さないが、アルカリ金属を添加すると超伝導性を示すことがある。有機溶媒に溶ける性質を持つ。


グラフェン

グラフェンは炭素原子が六角形に配列した一層のシート状の物質で、非常に強く柔軟であり、電気や熱を効率よく伝える。


カーボンナノチューブ

カーボンナノチューブ(Carbon Nanotube、CNT)は、炭素原子が六角形に結びついたグラフェンシートを丸めて筒状にしたナノ材料。非常に高い強度と優れた電気・熱伝導性を持つ。


無定形炭素
 
活性炭

炭素の同素体とは異なり、黒鉛や炭化水素が不規則に結合し、結晶構造を明確に持たない固体がある。これを無定形炭素(amorphous carbon)と呼ぶ。木炭やコークスが代表的で、この中でも活性炭は多孔質であり、さまざまな物質を吸着する性質があるため、消臭剤などに用いられている。


酸化物

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炭素が空気中で燃焼すると、酸化物が生成される。

一酸化炭素 (CO)

炭素や有機化合物が空気中で不完全燃焼すると、一酸化炭素 (CO) が生じる。一酸化炭素は無色無臭の気体で、非常に有毒である。吸入すると血液中のヘモグロビンと結合し、酸素の運搬を阻害する。水には溶けにくい。

実験室では、ギ酸を濃硫酸で脱水して一酸化炭素を生成できる。

 

空気中では青白い炎を上げて燃焼し、二酸化炭素を生じる。

 

一酸化炭素は還元性を持ち、金属酸化物を還元して単体にする性質がある。

 
二酸化炭素 (CO2)

炭素や有機化合物が空気中で完全燃焼すると、二酸化炭素 (CO2) が生じる。実験室では炭酸カルシウムに塩酸を加えて発生させることができる。

 

工業的には、石灰石の熱分解によって二酸化炭素が得られる。

二酸化炭素は無色無臭の気体で、毒性はない。酸性酸化物であり、水に溶けると炭酸水素イオン   を生成し、弱酸性を示す。

 

また、塩基と反応して塩を作る。

 

二酸化炭素を石灰水(水酸化カルシウム水溶液)に通すと、炭酸カルシウムが生成され白濁する。この反応は二酸化炭素の検出に用いられる。

 
 
ドライアイス

二酸化炭素の固体は分子結晶で、ドライアイスとして知られ、冷却剤として使用される。常圧下で昇華性を持ち、液体にならずに直接気体となる。

二酸化炭素は生物の活動によって放出・吸収される。呼吸では、酸素を吸収して糖類と反応し、エネルギーを取り出す過程で二酸化炭素が生成される。

 

逆に、植物は光のエネルギーを用いて二酸化炭素を吸収し、糖類を合成する。この過程を光合成という。

 

また、微生物の中には糖類を発酵させ、エネルギーを得るものがあり、その過程で二酸化炭素が生じる。

 

ケイ素

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ケイ素 Si は酸素の次に多く地殻中に含まれている元素である。水晶などの鉱物にも含まれている。半導体の主な原料であり、工業的に重要な元素となっている。

単体

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ケイ素

ケイ素 Si は金属光沢をもつ銀灰色の固体である。ケイ素は金属光沢をもつが、しかし金属ではない。

光や紫外線、赤外線などは電磁波であるが、ケイ素は電磁波の反射率が可視光(波長:780nm〜380nm)のあたりだけ、反射率が高いため、人間の目で見た場合に、ケイ素は金属光沢がるように見える。(※ 東京書籍の教科書で、コラムで紹介されている。)


 
ケイ素の単結晶
電子部品の製造などに用いられる。これを薄く切断してシリコンウェハーにする。

ケイ素は天然には単体として存在せず、酸化物を還元することにより製造される。単体は共有結合の結晶であり、ダイヤモンドと同様の構造でケイ素原子が結合する。そのためダイヤモンド同様融点・沸点は高く、固い結晶を作る。導体と不導体の中間程度の電気抵抗を持つ半導体で、太陽電池やコンピュータ部品に用いられる。


シリコンの結晶に、わずかにリンやホウ素を加えたものは、電気をよく通すものになる。これらの材料(シリコンの結晶に、わずかにリンやホウ素を加えたもの)も「半導体」という。(※ 実教出版、数研出版の教科書などで紹介している。) (※ 『物理II』で詳しく習う。『高等学校物理/物理II/電気と磁気』などの単元で扱う。)


  • その他
 
ケイ素の単体の結晶構造

ケイ素の結晶構造は、ダイヤモンドの結晶構造と同じ。(← 高校の範囲。)


(※ 範囲外: )シリセン
シリセンは、ケイ素(シリコン)原子が六角形に配列し、グラフェンに似た二次元シート構造を持つ新しい物質である。シリコンは通常、三次元のダイヤモンド構造を取るが、シリセンではケイ素原子が平面状に並び、蜂の巣状の構造を作り出す。このため、シリセンは「シリコン版グラフェン」とも呼ばれることがある。

シリセンは、グラフェンと同様に優れた電子的特性を持ち、次世代のエレクトロニクス材料として注目されている。特に、シリコンベースの既存の半導体技術との互換性が期待されており、ナノテクノロジーやトランジスタ、センサーなどの分野での応用が研究されている。

ただし、シリセンはグラフェンよりも安定性が低く、空気中では速やかに酸化されるため、特定の条件下でしか安定した形で存在できない。一般的には金属基板の上に成長させることで安定させる技術が使われている。

シリセンはその特性を利用して、エレクトロニクスやスピントロニクス、さらにはエネルギー材料などの広い分野で革新的な技術を生み出す可能性があるが、まだ研究段階にあるため、今後の発展が期待される。


二酸化ケイ素

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水晶

二酸化ケイ素(SiO2)は自然界で石英として存在する。透明な石英の結晶は「水晶」と呼ばれ、宝石として用いられる。また、砂状のものはケイ砂と呼ばれ、ガラスの原料となる。

二酸化ケイ素は共有結合の結晶である。ケイ素原子と酸素原子との結合は非常に強く、固く安定な結晶を作る。また、強い結合のためか、融点も高く、塩酸にも溶けない。しかし、フッ化水素酸とは反応して溶ける。

 


 

また、二酸化ケイ素は酸性酸化物であり、塩基と反応して塩を生じる。たとえば水酸化ナトリウムと反応して、ケイ酸ナトリウム(Na2SiO3)を生じる。

 

これに水を加えて加熱すると、水あめ状の水ガラス(water glass)が得られる。また、水ガラスに塩酸を加えると、ゲル状のケイ酸が得られる。

 

※ 実際は組成が安定せず、できるのがH2SiO3 のみとは限らない

このとき塩化ナトリウムが副生成物としてできるので、塩化ナトリウムを水洗して除き、のこったケイ酸を加熱乾燥するとシリカゲル(silica gel)が得られる。シリカゲルは多孔質で分子を吸着するため、乾燥剤や吸着剤として用いられる。


  • 発展: 水晶振動子 (※ ほぼ範囲外)

電子工業における水晶の応用として、水晶振動子としての利用がある。

水晶に電圧を掛けると、一定の周期で振動することから、時計などの発振器として利用されている。

※ 『科学と人間生活』で水晶振動子が紹介された。