古語活用表に、古語助動詞の活用表とやや詳しい説明があります(2022/5時点)。このページでは、現編集者が古語助動詞に関して重要だと思われることを、多少恣意的に記述していきます。

用言の連用形と接続する助動詞

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助動詞は、用言や体言、助詞の後につく事もあります。用言の後につくときは、特定の助動詞は、特定の活用を持つ言葉に対して特定の活用形でつながります。例えば…

(例文)「雀の子を犬君(いぬき)が逃がしつる。伏籠(ふせご)の内にこめたりつるものを。」とて、いと口惜しと思へり。(源氏物語、若紫)

(意味)「雀の子を犬君が逃がしちゃった。伏籠の中に入れておいたのに。」と云って、すごく悔しがっているようだ。

太字の「つる」は、完了の助動詞「つ」の連体形です。前者の「つ」がなぜ終止形ではなく連体形なのかというと、逃がした(ことを怒っているの。)、という省略があるからでしょう。或いは係り結びの法則には入っていませんが、主格の助詞「が」がある場合は連体形で受け、感動表現となることは、古語ではよく見られます。

そして、「逃がしつる」ですから、動詞、逃がすの連用形につながっている。

つまり助動詞「つ」は、用言とは連用形で接続する。

用言と連用形でつながる助動詞の覚え方として、

ツネッタリ(つ・ぬ・たり)ケッタリ(けり・たし)はキケン(き・けむ)

という語呂があります。

つまり、助動詞、「つ、ぬ、たり、けり、たし、き、けむ」は連用形接続で、そして大雑把に言うと、それ以外の助動詞は連用形以外の接続と見ていいと思います。

ただし、古語の助動詞を正確に全て数えることが出来るのか、数えることが出来たとして本当に例外は無いのか、という事に関して現編集者は未確認なので、100% 確実な指摘ではありません。

推量、適当、義務の助動詞「べし」

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助動詞「べし」も多義であり、場合によっていろいろな訳し方を考えなければいけないが、基本的な意味は、現状を経験や道理から判断して、そうなるに違いない、と、言いたいときに使う。

例えば推量の意味としては、

(例文)見捨てたてまつりてまかる空よりも落ちぬべき心地する」と書き置く。(竹取物語、かぐや姫の昇天)

(意味)あなた方を見捨て申し上げて帰っていく空から落ちてしまったような気持ちです。」と、書き置いた。

この気持ちは空から落ちてしまったに違いない、ぐらいの感覚ですかね。推量は大抵、まずは、「~ダロウ」で訳しますから、落ちてしまったのだろう、そんな気持ちだ、というニュアンスですね。

そして義務の意味としては、

(例文)物ひとこと言いおくべきことありけり」と言ひて、文書く。(竹取物語、かぐや姫の昇天)

(意味)一言言っておかなければいけないことがありました。」と言って、手紙を書く。

これは現代口語の「べき」そのものでしょう。一応現代では、古語の「べし」の連体形を中心に、いくつかの用法で残って使われていますよね。

受身、可能、尊敬の助動詞

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現代口語の「れる」「られる」は、古語では、「る」「らる」になります。「れる」は五段活用とサ行変格活用の動詞の後につき、「られる」はそれ以外の活用を持つ動詞の後につく。一方古語の助動詞「る」は、四段活用とナ行、ラ行変格活用の動詞の後につく。「らる」はそれ以外の活用の動詞ですね。

(例文)人の品高く生まれぬれば、人にもてかしづかて、隠るゝ事おほく、自然(じねん)にそのけはいこよなかるべし。(源氏物語、帚木)

(意味)身分の高い家柄に生まれると、皆に大切に世話されて、欠点の隠れることも多く、自然にその様子も、この上なく良く見えることになるでしょう。

る→れ、れ(連用形)、る(終止形)、るる、るれ、○

使役、尊敬の助動詞

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現代口語の「せる」「させる」は、古語では、「す」「さす」になります。「せる」は五段活用とサ行変格活用の動詞の後につき、「させる」はそれ以外の活用を持つ動詞の後につく。一方古語の助動詞「す」は、四段活用とナ行、ラ行変格活用の動詞の後につく。「さす」はそれ以外の活用の動詞の後。

(例文)御胸つとふたがりて、つゆまどろまれず、明しかねさせ給ふ。(源氏物語、桐壷)

(意味)胸がいっぱいになったまま、まるでお休みになれず、夜を明しかねていらっしゃる。

さす→させ・させ(連用形)・さす(終止形)・さする・さすれ・させよ

これは尊敬用法で、給ふなどの尊敬語の前につけて、最高の尊敬を示しているのですが、何か尊い人は、自分自身の行動も、何かもっと尊い存在が自分自身を動かしているというイメージがあるんですかね。もちろんそんな細かい分析をしなくても、給う、おはしますなどの前につけて尊敬を強調すると端的に覚えていいんですが…。

完了の「ぬ」と打消の「ず」

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卯の花の 匂う垣根に
時鳥(ほととぎす) 早も来鳴きて
忍音(しのびね)もらす 夏は来ぬ
--------『夏は来ぬ』佐佐木信綱作詞

この夏は来(き)ぬの「ぬ」は、古語の完了の助動詞です。夏は今、来ている。古語になれていない若い人は、これを打ち消しの助動詞だと思うことがありますが、古語の打消しの助動詞を使うときは、「夏は来(こ)ず」。そしてこれがそもそも混乱の元なのですが、現代口語の打消しの助動詞を使うときは、「夏は来(こ)ぬ[orん]」、になります。もちろん夏は来ない、の言い方の方が普通ですけどね。