本文
編集白文 訓読文
編集春望 杜甫
国破山河在 国破れて山河在り
城春草木深 城春にして草木深し
感時花濺涙 時に感じては花にも涙を濺ぎ
恨別鳥驚心 別れを恨んでは鳥にも心を驚かす
烽火連三月 烽火 三月に連なり
家書抵萬金 家書 万金に抵る
白頭掻更短 白頭掻けば更に短く
渾欲不勝簪 渾て簪に勝えざらんと欲す
現代語訳
編集- 春の眺め
- 国家は(戦乱で)ぼろぼろになったが、山河は(昔からの姿で、変わらずに)ある。
- この戦乱は、安史の乱(755年~763年)。この詩の成立は757年頃、一度奪われた長安城を回復した当時のものとされる。「やぶれる」は「敗れる」ではなく、「あれはてる」こと。
- 城内には春が来て、草木が青く茂っている。
- 城と言うとき、日本の「しろ」を想像すると誤る。中国の城は、「万里の長城」で想起されるような城壁で囲まれた都市である。そこは、庶民も生活し農耕も行われていた訳であるが、戦乱により住民が逃げ(又は殺され)、農地などに草が生い茂っている様である。
- 時世を感じては、咲く花にすら、涙をこぼし、
- 家族と別れて暮らすことを恨んでは、(朝に)鳥が鳴くのも(家族が戻ったのではないかと)そわそわしてしまう。
- 「感時花濺涙、恨別鳥驚心」は、日中とも伝統的に「花」「鳥」は、杜甫が心を動かす対象とする。しかし、各々対象であれば、文法的には、「濺涙於花」など、動詞に後置するのが通常である。一部では、各々擬人化した表現として、「花は涙を濺ぎ」「鳥は心を驚かす」と解することもある。
- のろしの火は何ヶ月も続き、
- このときの「三月」は「何ヶ月も」の意。「一日三秋(日本では『一日千秋』)」、「白髪三千丈」などの「三」の用法。
- 家族からの手紙は、何よりもの宝物である。
- (心を痛めて)白髪の頭を掻けば、髪は抜け落ち、
- まったく、かんざし(簪)を挿すこともできなくなってしまった。
鑑賞
編集- 押韻:「深」 「心」 「金」 「簪」
- 対句形式
- 第2聯
- (感⇔恨):感情を表する動詞
- (時⇔別):出来事を表す名詞
- (花⇔鳥):鑑賞して楽しむ対象
- (濺⇔驚):動詞
- (涙⇔心):心情を表す名詞
- 第3聯
- (烽火⇔家書):名詞
- (連⇔抵):動詞
- (三⇔萬):数詞
- (月⇔金):名詞(「光り輝くもの」で共通の範疇の意識があるのか?)
- 第2聯