本文
編集白文 訓読文
編集香炉峰下新卜山居草堂初成偶題東壁 香炉峰下新たに山居を卜(ぼく)し 草堂初めて成り偶(たまたま)東壁に題す
日高睡足猶慵起 日高く睡(ねむ)り足りて 猶お起くるに慵(ものう)し
小閣重衾不怕寒 小閣に衾(ふすま)を重ねて 寒きを怕(おそ)れず
遺愛寺鐘欹枕聴 遺愛寺の鐘は 枕を欹(そばだ)てて聴き
香炉峰雪撥簾看 香炉峰の雪は 簾(すだれ)を撥(かか)げて看る
匡廬便是逃名地 匡廬(きょうろ)は便ち是れ名を逃るるの地
司馬仍為送老官 司馬は仍お老(おい)を送るの官為(た)り
心泰身寧是帰処 心泰く身寧きは 是れ帰する処
故郷何独在長安 故郷 何ぞ独り長安に在るのみならんや
現代語訳
編集- (第一句)太陽が高くのぼり、睡眠時間も十分なのに、まだ起きたくない。
- (第二句)小さな家にふとんを重ねて寝ているので、寒さの心配はない。
- (第三句)遺愛寺の鐘は、枕を高くしてじっと聴き
- (第四句)香炉峰の雪は、すだれを高く上げて眺める。
- (第五句)ここ廬山は、世間一般の名声から逃れるためには相応しい地。
- (第六句)司馬という官職も老後を過ごすためには相応しい官職だ。
- (第七句)心も身も安らぐ場所こそが帰るべき場所。
- (第八句)どうして故郷は長安だけであろうか、いや故郷は長安だけではない。
鑑賞
編集中唐期の詩人白居易の七言律詩。
朝廷への越権行為により左遷された地で作られた詩である。
隠遁生活のような日常を詠じる中に作者の無念の思いも伝わってくる。
なお、第四句は清少納言の『枕草子』「香炉峰の雪」でもよく知られている。
ある雪の日、中宮定子から「少納言よ、香炉峰の雪いかならむ」と問われた清少納言は、
この詩の第四句をふまえて、格子を上げさせ簾を高く上げさせたという。
押韻
編集- 寒・看・官・安