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本節では、原子核・放射線に関する性質や日常生活での使用について学習します。

放射線とその性質 編集

元素の中には、放射線を出す性質をもつものがあり、この性質を放射能といいます。

放射能をもつ物質は放射性物質といわれます。

放射能をもつ同位体は放射性同位体といわれます。

 
ベータ線の実態である電子やガンマ線と異なり、ヘリウムの原子核であるアルファ粒子は一枚の紙すら通過出来ません。

放射線には3種類存在し、それぞれα線β線γ線といいます。

原子核の変化と放射線 編集

α崩壊は、親原子核からヘリウム原子核が放射される現象です。 このヘリウム原子核はα粒子とよばれます。 α崩壊後、親原子核の質量数は4小さくなり、原子番号は2小さくなります。

β崩壊は、親原子核の中性子が陽子と電子に変化することで、電子が放射される現象です。

(備考: このとき、反ニュートリノとよばれる微小な粒子も同時に放出されると、近年の学説では考えられています。)

なお、この電子(ベータ崩壊として放出された電子のこと)は「β粒子」ともよばれます。

β崩壊後、親原子核の質量数は変化しませんが、原子番号は1増加します。

γ崩壊は、α崩壊もしくはβ崩壊直後の高エネルギーの原子核が、低エネルギーの安定な状態に遷移するときに放射されます。 γ線の正体は光子で、X線より波長の短い電磁波です。

放射線の利用 編集

 放射線は、工業、医療、農業などの分野で広く利用されています。

考古学への利用 編集

 放射性同位体に含まれる割合から、遺物などの年代を推定する方法を放射年代測定といいます。生物などの年代を調べるには放射性炭素年代測定が利用されます。

炭素年代測定法の原理 編集

 空気中では、宇宙からの放射線によって作られた中性子が、大気中の窒素と衝突して、炭素が作られます。

 一方炭素は半減期約5700年でβ崩壊します。大気中では、ほぼ一定に保たれていると考えられます。酸素と結びついて二酸化炭素となった炭素は、光合成で植物に取り込まれます。さらに、これらの植物を食べる動物の細胞中に炭素が取り込まれます。このように、全ての生物は、生きている間、体を構成する炭素に一定の割合で放射性同位体炭素を含んでいると考えられます。

しかし、生物が死ぬと炭素が取り込まれなくなるので、体内の炭素は崩壊していくのみとなり、炭素の割合は時間とともに減少していきます。このような性質を使って、その生物が生きていた時代を推定することが出来ます。

農業や工業への利用 編集

放射線を用いた検査 編集

 放射線は材料や製品の内部を分解・破壊せずに調べたりすることが出来ます。これを非破壊検査といいます。高速道路の損傷箇所などの検査が非破壊検査の代表的な例です。

トレーサー利用 編集

 ある物質を構成する元素の一部を放射性同位体で置きかえ、それから放出される放射線を測定することによって、生体内での物質のはたらきや化学反応の仕組みを調べることが出来ます。こうして用いられる放射性同位体をトレーサーといい、このような利用法をトレーサー法といいます。農学や生物学の分野では、リン32が植物の養分吸収の様子を調べるのに用いられています。

その他の利用 編集

 食品や農産物に放射線を照射し、殺菌、発芽の抑制、熟成の抑制、品種改良などが行われています。工業分野では、プラスチックやゴムなどの材料物質の性質を変えたり、半導体の加工をしたりするのにも放射線が利用されています。また、空港での手荷物検査でも用いられます。 

放射線の医学への利用 編集

 放射線を用いる病気の診断と治療には、レントゲン検査などに利用されています。また、放射線の利用には物理学の知識と経験が求められるため、医療従事者などが協力して診断や治療にあたっています。

CT〔コンピュータ断層撮影〕 編集

 人体の特定の部位を取り囲むように、円周状や螺旋状にX線を照射し、人体の精密な断層像を作成します。

PET〔陽電子断層撮影〕 編集

 癌細胞は、正常細胞に比べてブドウ糖を多く取り込みます。よって、陽電子を放出する放射性同位体の原子核を含み、ブドウ糖と非常によく似た構造をもつ薬剤を静脈から注射すると、薬剤を取り込んだ癌細胞から陽電子が放出されます。その陽電子と電子とが対消滅する時に出る光子が放出される位置を画像化することで、癌の診断に役立てることが出来ます。PETは細胞組織のはたらきを映し出すという特徴があります。

シンチレーションカメラ 編集

 シンチレーションカメラは、放射性同位体の原子核の崩壊によって体内で放出されたγ線をモニターに表示し、患部を特定したり状況を観察したりすることが出来ます。

ガンマナイフ
ガンマナイフは、約200個の線源から放射されるγ線を、1点に集中させることによって、病気を短時間で治療を行うことが出来ます。

放射線治療 編集

 放射線の電離作用を利用すれば、放射線を体内の腫瘍に照射してがん細胞を破壊することが出来ます。放射線は正常な細胞も破壊するので、その損傷を最小限に抑える努力がなされています。