高等学校言語文化/唐詩紀事
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推敲
編集白文 (正字)
編集- 賈島赴擧至京。騎驢賦詩、得「僧推月下門」之句。慾改推作敲、引手作推敲之勢、未決。不覺衝大尹韓愈。乃具󠄁言、愈曰、「敲字佳矣。」遂󠄂竝轡論詩久之。
(唐詩起事 巻四十 賈島)
書き下し (新字)
編集賈島 挙 に赴 きて京 に至 り、驢 に騎 りて詩を賦 して、「僧は推す月下の門を」の句を得たり。推すを改めて敲 くと作 さんと欲し、手を引きて推敲の勢 を作すも、未だ決 せず。覚えず大尹 韓愈 に衝 たる。乃 ち具 に言ふに、愈曰 はく、「敲くの字佳 し」と。遂に轡 を並べて詩を論ずること之 を久しくす。
注釈
編集- 賈島:中唐の詩人。西暦779〜843年。
- 挙:科挙(官吏登用試験)のこと。詩が試験科目の一つであった。
- 京:ここでは、唐の都である長安。
- 驢:ロバ。
- 賦す:詩を作る。
- 推す:「押す」に同じ。
- 敲く:「叩く」に同じ。
- 引く:伸ばす。
- 勢:様子。
- 覚えず:思わず。うっかり。
- 大尹:高官。
- 韓愈:中唐の詩人。西暦768〜824年。唐宋八大家に数えられる。
- 衝たる:突っ込む
- 具に:詳しく
- 轡を並べる:乗り物を同じ方向に向ける。「轡」は「くつわ」とも読む。
現代語訳
編集- 賈島は科挙の試験を受けるために都・長安に来て、ロバに乗りながら詩を作っていると、「僧は月下の門を推す」という句ができた。しかし、この「推す」を「敲く」に改めたいと思い、手を伸ばして推す・敲くの仕草をしたが、まだ決まらない。そうしているうちに、思わず都の長官である韓愈の隊列に突っ込んでしまった。そこで、韓愈に突っ込んでしまった理由を話すと、「敲という文字が良い。」と返ってきた。そのまま二人は轡を並べ、進みながら詩についてしばらく論じた。
鑑賞
編集『唐詩紀事』は、12世紀に北宋の計有功によって編纂された。全八十一巻からなり、唐代の詩人1500人の略伝・逸話・代表作を収めている。
この『推敲』は、『唐詩紀事』第四十巻「賈島」の終盤の抜粋であり、この文章の内容から、「推敲」は「詞や文章を書いた後、より良いものにするため何度も練り直すこと」という意味になっている。
『唐詩紀事』の本文の続きには、以下のように記されている。
- 或云、吟「落葉滿長安」之句、唐突大尹劉栖楚被繋、一夕放之。
- (
或 云 はく、「落葉長安に満つ」の句を吟 ふ、大尹劉栖楚に唐突し繋がれるも、一夕にして之を放つ。)
現代語訳すると、『ある人が言うには、賈島は「落葉長安に満つ」という句を口ずさみながら、高官である劉栖楚の乗っている馬にぶつかって牢屋に入れられた。しかし、(牢屋の中でも句を苦吟して「秋風渭水に吹き 落葉長安に満つ」という優れた句を作り出したので、)一夜にして釈放された。』となる。