高等学校 地学/地球のエネルギー収支

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地球は常に太陽からエネルギーを取り込んでいますが、取り込んだ量と同じだけのエネルギーを宇宙へ送り出しています。その結果、地球全体のエネルギー収支はほぼゼロに保たれています。

黒体放射

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物体は、その表面の温度によってエネルギーレベルや波長が異なる電磁波を放射します。高温の太陽からは、主に紫外線や可視光線、波長が4μmより短い赤外線が放射されています(短波放射太陽放射)。一方、冷たい地球からは、4μmより波長の長い赤外線が放射されています。長波放射地球放射は、地球の表面や大気から出る放射線です。4μmでは、長波放射と短波放射の波長はあまり重ならないため、明確に区別されます。

大気と地表のエネルギー収支

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地球のエネルギー収支

太陽定数とは、太陽からの放射が地球の大気圏上部に到達する量であり、約1370ワット平方メートルです。地球に降り注ぐ太陽放射のうち、大気は約30%を反射し、大気と雲は約20%、地表は約50%を取り込むと考えられています。アルベドとは、地表に当たる光の量と反射する光の量の比(反射率)で表します。地球全体の平均的なアルベドは0.30ですが、地表によって差があります。海や森林はアルベドが低く、雪原や雲はアルベドが高くなっています。

右の図は、外気、大気、地表にどれだけのエネルギーがあるのかを示しています。外気と大気のエネルギー収支が取れているだけでなく、大気と地表のエネルギー収支も平均して取れています。そのため、安定した環境が保たれています。熱伝導は、地表から空気中へと熱エネルギーを移動させます(顕熱)。また、水が蒸発する時に空気中に水蒸気を送り込み、この水蒸気が蒸発熱(潜熱)を奪うことで、地面から空気中への熱移動が行われます。

太陽放射と内部熱源の比較
地球では、地球内部から大気中に出てくる熱量(地殻熱流量)は1平方メートルあたり約87ミリワットですが、太陽からやってくる熱量はその約16,000倍もあります。つまり、大気を動かしているエネルギーのほとんどは太陽から来ており、地球内部の熱源は相対的に小さいです。金星や火星も同様に、内部熱源は小さいですが、地球とは異なり、これらの惑星はほとんど太陽放射のみでエネルギー収支を行っています。一方、木星、土星、海王星は、内部からの熱源が大きく、大気に対して強い影響を及ぼしています。

大気の温室効果

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波長0.3マイクロメートル以下の紫外線は、熱圏では酸素に、成層圏ではオゾンにほとんど吸収されます。対流圏下部では、水蒸気と二酸化炭素が主に赤外線の一部を吸収します。一方、可視光線の一部は大気や雲で反射・散乱して大気圏外に送り返されますが、残りの大部分は大気に吸収されずに地表へ届きます。

地表から放射される波長8〜13マイクロメートルの赤外線は、大気圏下層に含まれるガス(例:水蒸気、二酸化炭素、メタン)に吸収されます。また、赤外線は大気からも放出され、大気は赤外線を吸収するため、地表を暖めます。この放射の約3分の2は地表に戻り、地表を温めます。つまり、大気は可視光線を中心とした波長の短い太陽放射は通過させ、赤外線を中心とした波長の長い地球放射は吸収します。これを温室効果といい、その原因となる気体を温室効果ガスと呼びます。

地球の赤外線のうち、波長8〜13マイクロメートルの部分は、大気がほとんど吸収せず、宇宙へ抜けるため大気の窓と呼ばれています。大気の窓の波長帯の赤外線は、大気の影響を受けにくいため、人工衛星で地表の観測に利用されています。

低緯度から高緯度へのエネルギー輸送

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1平方メートルあたり平均0.35キロワットの太陽放射が地球全体に届いています。しかし、入射量は低緯度では多く、高緯度では少なくなります。これは、太陽の南中高度が低緯度では高く、高緯度では低いからです。

一日中太陽が沈まない夏の極域(白夜)では、1日平均の入射量が最も高くなります。一方、一日中太陽が昇らない冬の極域(極夜)では、1日平均の入射量はゼロです。平均すると、赤道では入射量が多く、高緯度では少なめです。地球の海は熱を迅速に吸収したり放出したりしないため、季節による入射放射量の変化に対して地表付近の温度変化が緩やかになります。そのため、一年を通して低緯度の地表付近の温度は高く、極域の温度は低く保たれています。

太陽放射と地球放射の緯度分布

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地球のエネルギー収支が均衡しているとはいえ、ある場所で受ける日射量と、その場所で放射する地球放射量が常に均衡しているわけではありません。地球が太陽から取り入れる放射量の変化に比べて、地球が放射する放射量の変化はわずかです。これは、太陽からの熱量が多い低緯度の方が高温であり、少ない高緯度よりも高温の低緯度から低温の高緯度へ熱が流れるためです。

熱輸送の担い手

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低緯度から高緯度への熱の移動は、大気中、大気中の水蒸気、海水の3つの経路で行われます。大気による熱移動、大気に含まれる水蒸気による熱移動、海水による熱移動がそれぞれ異なるメカニズムで熱を移動させます。大気中の水蒸気は、蒸発する際に潜熱を取り込み、凝縮する際に潜熱を放出します。これにより、熱の移動が行われます。全体として、北半球では北に、南半球では南に熱が移動し、緯度38度付近で最も北に熱が移動します。ここでは、太陽からの光を取り込むと同時に、地球からの光も放出しています。この3つの熱の動き方が、天気や気候に大きな影響を与えています。

熱塩循環

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熱塩循環(Thermohaline Circulation)は、海洋における大規模な循環パターンの一つで、海水の温度(熱)と塩分(塩)による密度の違いが原因で発生します。これは、全球的な海洋循環の重要な要素であり、地球規模の気候や天候に大きな影響を与えています。

熱塩循環のメカニズム

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密度差による循環
温度と塩分
海水の密度は主に温度と塩分によって決まります。冷たい水や塩分が高い水は密度が高くなり、沈む傾向があります。一方、温かい水や塩分が低い水は密度が低く、上昇する傾向があります。
深層循環
北極や南極周辺で冷却されて塩分濃度が高くなった海水は、密度が高いため深層に沈み込みます。この冷たく塩分の多い水は、海底を通って赤道方向に流れます。
表層循環
暖かい水の上昇
深層から移動してきた冷たい水は、赤道付近で温まって軽くなり、表層へと上昇します。ここで再び暖かい水が流れ込み、海面の暖かい水が極地へと移動します。
循環の再生
循環の維持
表層の暖かい水が極地へと移動し、冷却・塩分濃度の増加により再び深層に沈み込むと、循環が再び始まります。このサイクルが継続することで、海洋全体が大規模に循環します。

熱塩循環の影響

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気候調節
熱塩循環は地球の気候に大きな影響を与えます。たとえば、北大西洋の暖かい海流(メキシコ湾流)は、ヨーロッパの気候を温暖に保つ要因となっています。
栄養の分配
深層循環によって栄養素が海洋全体に分配され、海洋生態系の健全な機能を支えています。
気候変動
気候変動が熱塩循環に影響を与える可能性があります。例えば、極地の氷が溶けることで塩分濃度が変化し、循環パターンが変わる可能性があります。

現代の研究

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現在、熱塩循環の理解は、気候モデルや海洋観測技術の進歩により深まっています。これにより、気候変動の影響を予測するための重要な情報が提供されています。

熱塩循環は、地球の気候システムの重要な要素であり、海洋と大気の相互作用を理解するためには欠かせない概念です。