刑事訴訟法第319条
条文
編集(自白法則・補強法則)
- 第319条
- 強制、拷問又は脅迫による自白、不当に長く抑留又は拘禁された後の自白その他任意にされたものでない疑のある自白は、これを証拠とすることができない。
- 被告人は、公判廷における自白であると否とを問わず、その自白が自己に不利益な唯一の証拠である場合には、有罪とされない。
- 前二項の自白には、起訴された犯罪について有罪であることを自認する場合を含む。
解説
編集参照条文
編集判例
編集- 強盗、窃盗同未遂、住居侵入(最高裁判決 昭和22年12月16日)刑法256条
- 犯罪事実の一部について証拠として本人の自白の外他に証拠がない場合と刑訴応急措置法第10条第3項
- 犯罪事実の一部について証拠として本人の自白があるだけで他の証拠がない場合でも、その自白と他の証拠を綜合して、犯罪事実全体を認定することは、刑訴応急措置法第10条第3項の規定に違反するものではない。
- 刑訴応急措置法第10条第3項
- 何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白で在る場合には、有罪とされ、又は刑罰を科されない。
- 刑訴応急措置法-w:日本国憲法の施行に伴う刑事訴訟法の応急的措置に関する法律
- 日本国憲法の施行に伴い、当時の刑事訴訟法(大正11年法律第75号)を同憲法の規定に沿うよう、応急的措置を行った法律。1949年(昭和24年)1月1日の新刑事訴訟法の施行に伴って失効。第10条第3項は本条第2項に継承された。
- 刑訴応急措置法-w:日本国憲法の施行に伴う刑事訴訟法の応急的措置に関する法律
- 何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白で在る場合には、有罪とされ、又は刑罰を科されない。
- 刑訴応急措置法第10条第3項
- 賍物故買(最高裁判決 昭和23年3月16日)刑法256条
- 犯罪構成要件たる事実の一小部分に付き被告人の自白以外他に証拠なき場合
- 犯罪構成要件たる事実の大部分が他の証拠の裏付によつて認め得られる以上其一部に付ては被告人の自白以外他に証拠が無くても刑訴応急措置法第10条第3項に違反するものでないこと既に当裁判所の判例とする処で(昭和22年12月16日言渡昭和22年(れ)第136号事件判決参照)今なお変更の要を認めない。
- 強盗殺人未遂、銃砲等保持禁止令違反(最高裁判決 昭和24年12月21日)日本国憲法第38条
- 憲法第38条第3項にいわゆる本人の自白と刑訴法第319条第2項の意義
- 憲法第38条第3項の本人の自白には公判廷での自白は含まれない。新刑訴法が公判廷での自白が被告人に不利益な唯一の証拠である場合には有罪とされない旨の規定を新設したことは、自白偏重の弊害を矯正し被告人の人権を擁護するためのものであり、憲法の根本精神を拡充するものであるとし、この規定は憲法第38条第3項に対する解釈規定ではない。
- 憲法第38条第3項に所謂本人の自白には判決裁判所の公判廷における自白を含まないと解すべきことは、当裁判所の判例において屡屡判示したところであり、今この判例を変更する必要を認めない。新刑訴法が第319条第2項において公判廷における自白であつてもそれが被告人に不利益な唯一の証拠である場合にはこれによつて有罪とされない旨の規定を新設したことは所論のとおりである。しかし、かゝる規定を設けたことの当否はしばらくこれを措くとしてこの規定は憲法第38条第3項に対する所謂解釈規定ではなく自白偏重の弊害を矯正し被告人の人権を擁護せんとする憲法の根本精神をさらに拡充すると共に新刑訴法の指導原理たる当事者対等主義にも立脚して、自白が当事者である被告人の供述たる点を考慮してその証拠能力について、新たな一の制限を設け公判廷における自白にまで及ぼしたものに過ぎないのである。それは丁度憲法第38条第2項においては「強制拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白」について証拠能力を制限しているのを、新刑訴法第319条第1項においてはさらに拡充して「その他任意にされたものでない疑いのある自白」についても証拠能力を制限するに至つたのと同様である。これ等は何れも憲法の基本精神を拡充しその線に沿つた法律改正であつて、毫も憲法の趣旨に背反するものでないからその合憲性を有することは疑のないところである。されば憲法第38条第3項の合理的解釈として示した判例の見解は毫も新刑訴法第319条第2項の規定と矛盾するところはなく今後も維持さるべきものである。従つて反対の見地に立つて右判例の変更を求める所論には賛同することはできない。
- 窃盗(最高裁判所判決昭和25年7月12日)日本国憲法第38条
- 憲法第38条第3項及び刑訴応急措置法第10条第3項違反の一例
- 原判決は、判示第1の事実を認定するに当り(1)第一審公判調書中の被告人の供述記載と(2)被告人に対する司法警察官の尋問調書中の供述記載を証拠として採つている。しかしながら、第一審の公判廷における被告人の供述は「本人の自白」に含まれる※から、独立して完全な証拠能力を有しないので、有罪を認定するには他の補強証拠を必要とするのである。しかるに、本件においてはこれと司法警察官に対する被告人の供述記載(これも補強証拠を要する)とによつて有罪を認定している。かように、互に補強証拠を要する同一被告人の供述を幾ら集めてみたところで所詮有罪を認定するわけにはいかない道理である。
- ※:昭和23年12月22日判決の拡張を安易に認めないとの意図。
- 銃砲刀剣類所持等取締法違反、火薬類取締法違反(最高裁判決 昭和45年11月25日)日本国憲法第38条
- 偽計による自白の証拠能力と憲法38条2項
- 偽計によつて被疑者が心理的強制を受け、その結果虚偽の自白が誘発されるおそれのある場合には、偽計によつて獲得された自白はその任意性に疑いがあるものとして証拠能力を否定すべきであり、このような自白を証拠に採用することは、刑訴法319条1項、憲法38条2項に違反する。
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