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条文

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【不利益供述の不強要、自白の証拠能力】

第38条
  1. 何人も、自己に不利益な供述を強要されない。
  2. 強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない。
  3. 何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない。

解説

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参照条文

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  • 刑事訴訟法第319条
    1. 強制、拷問又は脅迫による自白、不当に長く抑留又は拘禁された後の自白その他任意にされたものでない疑のある自白は、これを証拠とすることができない。
    2. 被告人は、公判廷における自白であると否とを問わず、その自白が自己に不利益な唯一の証拠である場合には、有罪とされない。
    3. 前二項の自白には、起訴された犯罪について有罪であることを自認する場合を含む。

判例

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  1. 食糧管理法違反、物価統制令違反(最高裁判所判決昭和23年7月29日)憲法第37条
    公判廷の自白と憲法第38条第3項にいわゆる「本人の自白」
    公判廷における被告人の自白は憲法第38条第3項にいわゆる「本人の自白」に含まれない。
    • 公判廷における被告人の自白が、裁判所の自由心証によつて真実に合するものと認められる場合には、公判廷外における被告人の自白とは異り、更に他の補強証拠を要せずして犯罪事実の認定ができると解するのが相当である。
  2. 窃盗(最高裁判所判決昭和23年7月19日)
    不当に長い拘禁後の自白を有罪の証拠とした判決
    不当に長い拘禁の後の自白を証拠にとることは、憲法第38条第2項の厳に禁ずるところである。従つて、かゝる不当に長い拘禁後の自白を有罪の証拠とした第二審の判決及びこれを是認した原判決は、共に憲法第38条第2項に違反した違法がある。従つて論旨は理由がある。本件再上告は、憲法違反を理由とするものであるから、再上告として適法である。
    • 公訴事実は単純な窃盜で、数は一回被害者、被疑者各一人、被害金品は全部被害者に返還せられ、現に押收されている。事件の筋は極めて簡単で、被告人の勾留を釈いても、罪証湮滅のおそれは考へられない被告人は一定の住居と生業を有し、その住居には、母妻子六人の家族があり、相当の資産もあり、年四六歳である、従って被告人は逃亡する危險もまずないと考えられる。しかるに被告人は昭和22年1月17日勾留せられ、同年5月5日第二審公判で初めて自白し、同日保釈を受けた。
    • 特段の事情のうかがわれない事件においては、被告人に対して、あれ程長く拘禁しておかなければならぬ必要は、どこにもなく、たゞ、被告人が犯行を否認しているばかりに、――言葉をかえていえば、被告人に自白を強要せんがために、勾留をつゞけたものと批難せられても、弁解の辞に苦しむのではなからうか。以上、各般の事情を綜合して、本件の拘禁は、不当に長い拘禁であると、断ぜざるを得ない。
  3. 窃盗(最高裁判所判決昭和23年12月22日)憲法第37条
    被告人の公判廷における自白と憲法第38条第3項の自白
    裁判所が証拠に引用した被告の自白が、その裁判所の公判廷における自白であるならば、それは憲法第38条第3項の自白に含まれないことは、当裁判所の判例として示したところである
  4. 強盗殺人未遂、銃砲等保持禁止令違反(最高裁判決 昭和24年12月21日)刑事訴訟法第319条
    憲法第38条第3項にいわゆる本人の自白と刑訴法第319条第2項の意義
    憲法第38条第3項の本人の自白には公判廷での自白は含まれない。新刑訴法が公判廷での自白が被告人に不利益な唯一の証拠である場合には有罪とされない旨の規定を新設したことは、自白偏重の弊害を矯正し被告人の人権を擁護するためのものであり、憲法の根本精神を拡充するものであるとし、この規定は憲法第38条第3項に対する解釈規定ではない。
    • 憲法第38条第3項に所謂本人の自白には判決裁判所の公判廷における自白を含まないと解すべきことは、当裁判所の判例において屡屡判示したところであり、今この判例を変更する必要を認めない。新刑訴法が第319条第2項において公判廷における自白であつてもそれが被告人に不利益な唯一の証拠である場合にはこれによつて有罪とされない旨の規定を新設したことは所論のとおりである。しかし、かゝる規定を設けたことの当否はしばらくこれを措くとしてこの規定は憲法第38条第3項に対する所謂解釈規定ではなく自白偏重の弊害を矯正し被告人の人権を擁護せんとする憲法の根本精神をさらに拡充すると共に新刑訴法の指導原理たる当事者対等主義にも立脚して、自白が当事者である被告人の供述たる点を考慮してその証拠能力について、新たな一の制限を設け公判廷における自白にまで及ぼしたものに過ぎないのである。それは丁度憲法第38条第2項においては「強制拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白」について証拠能力を制限しているのを、新刑訴法第319条第1項においてはさらに拡充して「その他任意にされたものでない疑いのある自白」についても証拠能力を制限するに至つたのと同様である。これ等は何れも憲法の基本精神を拡充しその線に沿つた法律改正であつて、毫も憲法の趣旨に背反するものでないからその合憲性を有することは疑のないところである。されば憲法第38条第3項の合理的解釈として示した判例の見解は毫も新刑訴法第319条第2項の規定と矛盾するところはなく今後も維持さるべきものである。従つて反対の見地に立つて右判例の変更を求める所論には賛同することはできない。
  5. 窃盗(最高裁判所判決昭和25年7月12日)刑訴応急措置法第10条第3項(現・刑事訴訟法第319条第2項相当)
    憲法第38条第3項及び刑訴応急措置法第10条第3項違反の一例
    原判決は、判示第1の事実を認定するに当り(1)第一審公判調書中の被告人の供述記載と(2)被告人に対する司法警察官の尋問調書中の供述記載を証拠として採つている。しかしながら、第一審の公判廷における被告人の供述は「本人の自白」に含まれるから、独立して完全な証拠能力を有しないので、有罪を認定するには他の補強証拠を必要とするのである。しかるに、本件においてはこれと司法警察官に対する被告人の供述記載(これも補強証拠を要する)とによつて有罪を認定している。かように、互に補強証拠を要する同一被告人の供述を幾ら集めてみたところで所詮有罪を認定するわけにはいかない道理である。
    ※:昭和23年12月22日判決の拡張を安易に認めないとの意図。
  6. 偽証、飲食営業緊急措置令違反(最高裁判決 昭和27年11月05日)
    証言拒絶権ある証人を宣誓させて尋問した場合と憲法第38条第1項
    旧刑訴第188条第1項にあたる場合、証人は証言を拒む権利があるから、右証人に宣誓させて尋問したからといつて直ちに憲法第38条第1項にいう自己に不利益な供述を強要したものということはできない。
    1. 旧刑訴第188条第1項(同旨:現行刑事訴訟法第146条
      証言を為すに因り自己又は自己と第186条第1項(同旨:刑事訴訟法第147条)に規定する関係ある者刑事訴追を受ける虞れあるときは証言を拒むことを得
  7. 電車顛覆致死、偽証(三鷹事件 最高裁判決 昭和30年06月22日)刑法第126条刑法第127条
    被告人の自白について、同人が犯罪の実行者であると推断するに足る直接の補強証拠が欠けていても、その他の点について補強証拠が備わり、それと被告人の自白とを綜合して犯罪事実を認定するに足る以上、憲法第38条第3項の違反があるということはできない。
  8. 窃盗(最高裁判決 昭和42年7月5日)日本国憲法第31条
    1. 起訴されていない犯罪事実を量刑の資料として考慮したことが憲法第31条・第38条第3項に違反するとされた事例
      起訴されていない犯罪事実で、被告人の捜査官に対する自白のほかに証拠のないものを、いわゆる余罪として認定し、これをも実質上処罰する趣旨のもとに重い刑を科することは、憲法第31条・第38条第3項に違反する。
    2. 原判決の憲法違反が判決に影響を及ぼさないとして上告が棄却された事例
      右のような憲法違反を犯している第一審判決を違法ではないとして認容した違憲が原判決にあつても、原判決が、結論において、第一審判決の量刑を不当としてこれを破棄し、自判する際に、余罪を犯罪事実として認定しこれを処罰する趣旨を含めて量刑したものとは認められないときは、右違憲は判決に影響を及ぼさない。
      • 原審における過誤は、上訴審において治癒されている。
  9. 銃砲刀剣類所持等取締法違反、火薬類取締法違反(最高裁判決 昭和45年11月25日)刑事訴訟法第319条
    偽計による自白の証拠能力と憲法38条2項
    偽計によつて被疑者が心理的強制を受け、その結果虚偽の自白が誘発されるおそれのある場合には、偽計によつて獲得された自白はその任意性に疑いがあるものとして証拠能力を否定すべきであり、このような自白を証拠に採用することは、刑訴法319条1項、憲法38条2項に違反する。

前条:
日本国憲法第37条
【刑事被告人の諸権利】
日本国憲法
第3章 国民の権利及び義務
次条:
日本国憲法第39条
【遡及処罰の禁止、二重処罰の禁止】
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