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条文 編集

【臨時会】

第53条
内閣は、国会の臨時会の召集を決定することができる。いづれかの議院の総議員の4分の1以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない。

解説 編集

 
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参照条文 編集

  • 国会法第3条
    臨時会の召集の決定を要求するには、いずれかの議院の総議員の4分の1以上の議員が連名で、議長を経由して内閣に要求書を提出しなければならない。
  • 地方自治法第101条‎
    第3項
    議員の定数の4分の1以上の者は、当該普通地方公共団体の長に対し、会議に付議すべき事件を示して臨時会の招集を請求することができる。
    第4項
    前2項の規定による請求があつたときは、当該普通地方公共団体の長は、請求のあつた日から20日以内に臨時会を招集しなければならない。
    第6項
    第3項の規定による請求のあつた日から20日以内に当該普通地方公共団体の長が臨時会を招集しないときは、第1項の規定(首長による議会の招集)にかかわらず、議長は、第3項の規定による請求をした者の申出に基づき、当該申出のあつた日から、都道府県及び市にあつては10日以内、町村にあつては6日以内に臨時会を招集しなければならない。

判例 編集

  1. 憲法53条違憲国家賠償等請求事件(最高裁判決令和5年9月12日)
    憲法53条後段の規定により国会の臨時会の召集を決定することの要求をした国会議員の内閣による上記の決定の遅滞を理由とする国家賠償法の規定に基づく損害賠償請求の当否
    憲法53条後段の規定により国会の臨時会の召集を決定することの要求(以下、「臨時会召集要求」)をした国会議員は、内閣による上記の決定の遅滞を理由として、国家賠償法の規定に基づく損害賠償請求をすることはできない。
    1. 臨時会召集要求をした場合、内閣において、20日以内に臨時会が召集されるよう臨時会召集決定をする義務を負うことに関する確認の訴え
      →「訴えの利益確認の利益)」を欠く。訴えの利益を欠く以上、遅滞の適否や当否等に関し裁判所の判断を要しないものとして、判決においては判断を回避。
      • 本件各確認の訴えは、上告人が、個々の国会議員が臨時会召集要求に係る権利を有するという憲法53条後段の解釈を前提に、公法上の法律関係に関する確認の訴えとして、上告人を含む参議院議員が同条後段の規定により上記権利を行使した場合に被上告人が上告人に対して負う法的義務又は上告人が被上告人との間で有する法律上の地位の確認を求める訴えであると解されるから、当事者間の具体的な権利義務又は法律関係の存否に関する紛争であって、法令の適用によって終局的に解決することができるものであるということができる。そうすると、本件各確認の訴えは、法律上の争訟に当たるというべきであり、これと異なる原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があるといわざるを得ない。
        (原審における以下の判断を否定)
        • 臨時会召集要求は国会議員が国の機関として有する権限を行使するものであり、個々の国会議員が臨時会召集要求に係る権利を有しているということはできないから、本件各確認の訴えは、国会議員が上記権限の侵害を理由とするものであって自己の権利又は利益の保護救済を目的とするものではないというべきであり、裁判所法3条1項にいう法律上の争訟には当たらない。
      • 本件各確認の訴えは、将来、上告人を含む参議院議員が憲法53条後段の規定により臨時会召集要求をした場合における臨時会召集決定の遅滞によって上告人自身に生ずる不利益を防止することを目的とする訴えであると解されるところ、将来、上告人を含む参議院の総議員の4分の1以上により臨時会召集要求がされるか否かや、それがされた場合に臨時会召集決定がいつされるかは現時点では明らかでないといわざるを得ない。そうすると、上告人に上記不利益が生ずる現実の危険があるとはいえず、本件各確認の訴えは、確認の利益を欠き、不適法であるというべきである。
      宇賀克也裁判官反対意見
      • 争訟としての妥当性(判決同旨)
        国会議員にとって、国会において国民の代表として質問、議案の発議、表決等を行うことは、最も重要な活動といえ、憲法上は召集されるはずであった臨時会で上記のような議員活動をすることができないことは極めて重大な不利益であり、事後的な損害賠償によって回復できるものではないので、憲法53条後段の規定による臨時会召集要求があったにもかかわらず臨時会召集決定がされないという事態を事前に防止するための法的手段が用意されていてしかるべきである。そして、そのような法的手段としては、抗告訴訟としての義務付け訴訟も考えられるが、臨時会の召集を抗告訴訟の対象となる処分とみることができるかについては、否定説も成立し得るから、実質的当事者訴訟としての確認訴訟は、当事者間の具体的紛争解決にとって適切な手段であるといい得ると思われる。
      • 確認の利益即時確定の利益)」の存在
        本件の原告は、国会議員であり、国会議員としての地位を恒常的に有するとはいえないが、参議院の場合には解散はなく、任期中に再度、憲法53条後段の規定による臨時会召集要求に加わることは可能である。臨時会召集要求がされた場合、内閣として臨時会で審議すべき事項等も勘案して、召集時期を決定する裁量があるという認識があるからと思われ、そうである以上、令和5年ないし令和6年に(=原告の任期中に)臨時会召集要求がされても、20日以内に臨時会が召集されない蓋然性は相当に高いと思われる。したがって、即時確定の利益も認められる。
        いずれかの議院の総議員の4分の1以上の要求があれば、内閣は、合理的期間内にその召集を決定する法的義務を負うところ、その例外は、常会又は特別会の開会が間近に迫っているので、臨時会を召集しなくても、常会又は特別会によって国会における議論の場が適時に確保され、憲法53条後段の趣旨が没却されない場合、又は天災地変や戦争により、臨時会の召集が物理的に不可能になった場合等の特段の事情がある場合に限られる。
        憲法53条後段の眼目が少数派議員による国会での質問、議案の発議、表決等を可能にするという、いわゆる「少数派権」の尊重にあること、議員も一定の要件の下で議案を提出することができること(国会法56条1項)、委員会も、その所管に属する事項に関し法律案を提出することができること(同法50条の2第1項)に加え、行政監視も国会の重要な役割であり、臨時会召集要求の重要な動機になることが多いと考えられることに照らしても、内閣が法律案提出の準備を理由として憲法53条後段の規定による臨時会召集決定を遅延させることは許されない。合理的期間について、憲法は定めていないが、20日あれば、十分と思われる。このことは、自由民主党の憲法改正草案において、憲法53条について、要求があった日から20日以内に臨時会を召集しなければならないと規定されていることからもうかがえる。また、同条後段と同趣旨の規定は、地方自治法101条3項に置かれているが、同条4項は、臨時会の招集の請求があった場合、普通地方公共団体の長は、請求のあった日から20日以内に臨時会を招集しなければならないと定めている。上告人が次に憲法53条後段の規定による臨時会召集要求をした場合、特段の事情がない限り、内閣において、20日以内に臨時会が召集されるよう臨時会召集決定をする義務を負うと解されるから、原判決のうち本件各確認の訴えに係る部分を破棄し、本件各確認の訴えのうち主位的訴えに係る請求を上記の限度で認容すべきである。
    2. 内閣が臨時会召集要求から長期間(本件では92日間)にわたって臨時会召集決定をしなかったことが違憲、違法であり、これにより、国会議員としての権利を行使することができなかったなどとして、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償の訴え
      →「当事者適格」を欠く。
      • 憲法53条後段の規定は、国会と内閣との間における権限の分配という観点から、内閣が臨時会召集決定をすることとしつつ、これがされない場合においても、国会の会期を開始して国会による国政の根幹に関わる広範な権能の行使を可能とするため、各議院を組織する一定数以上の議員に対して臨時会召集要求をする権限を付与するとともに、この臨時会召集要求がされた場合には、内閣が臨時会召集決定をする義務を負うこととしたものと解されるのであって、個々の国会議員の臨時会召集要求に係る権利又は利益を保障したものとは解されない。
      • 同条後段の規定上、臨時会の召集について各議院の少数派の議員の意思が反映され得ることを踏まえても、同条後段が、個々の国会議員に対し、召集後の臨時会において議員活動をすることができるようにするために臨時会召集要求に係る権利又は利益を保障したものとは解されず、同条後段の規定による臨時会召集決定の遅滞によって直ちに召集後の臨時会における個々の国会議員の議員活動に係る権利又は利益が侵害されるということもできない。
      宇賀克也裁判官反対意見
      • 国家賠償法1条1項の損害賠償請求が認められるかの要件を検討するに、①「国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員による作為又は不作為であること」及び②「職務関連性があること」の要件を満たしていることは明らかと思われる。③「違法性があること」については、本件においては、憲法53条後段の規定による臨時会召集要求から98日後に臨時会が召集された上、召集された臨時会の冒頭で衆議院が解散され、臨時会での審議は全く行われなかったので、臨時会召集要求は拒否されたとみざるを得ない。かかる対応は、上記特段の事情が認められない限り、違法であるといわざるを得ない。④「故意又は過失があること」についても、同条後段の規定による臨時会召集要求があった場合、内閣として法律案提出の準備に要する期間を考慮すべきではなく、事務的に必要な最小限の期間内に召集する義務があることについては、学説上も異論はないところであり、過失の存在も認めざるを得ない。また、国会議員は、国民の代表として、国会での審議に参画し、質問、議案の発議、表決等を行うことが最も重要な職務であるが、国会が召集されていない期間は、国会における国会議員としての活動はできないことになるから、違法に臨時会が召集されなかった期間は、国会議員としての活動が妨げられたことになり、⑤「他人に損害が生じていること」の要件も満たす。そして、本件において、違法な不作為と損害の間に相当因果関係があることも明らかである。
        個々の国会議員は、国会の審議に参画して表決に加わる権利を有するのであり、違法な臨時会の召集の遅延による国会の審議に参画して表決に加わる権利の侵害として争うことができると考えられるため。損害は、法的保護に値する。

前条:
日本国憲法第52条
【常会】
日本国憲法
第4章 国会
次条:
日本国憲法第54条
【衆議院の解散と特別会、参議院の緊急集会】
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