民法第397条
条文
編集(抵当不動産の時効取得による抵当権の消滅)
- 第397条
- 債務者又は抵当権設定者でない者が抵当不動産について取得時効に必要な要件を具備する占有をしたときは、抵当権は、これによって消滅する。
解説
編集長期年賦償還の債権の抵当権について最後の弁済期が到来する前に第三取得者が第397条の要件を充足した後、抵当権が実行されたが第三取得者が第三者異議の訴えを起こした場合を考える。
- 396条が抵当不動産の第三取得者・後順位抵当権者に消滅時効援用権を認めたとする説(判例の考え方)
- 397条によれば「債務者又は抵当権設定者でない者」が抵当不動産を原始取得すると反射的に抵当権が消滅する(397条が弁済期到来後のみを想定したかどうかはともかく)。このときの善意無過失とは所有権を取得したことについてである。設例の場合、「債務者又は抵当権設定者でない者」に第三取得者を含めると弁済期到来前で抵当権者が実行できないまま抵当権が消滅してしまうので不合理である。従って第三取得者も「抵当権設定者」に含めて、第三取得者に取得時効の援用を認めるべきではない。第三者異議の訴えは棄却される。
- 396条の「抵当権設定者」に第三取得者を含めず397条の「抵当権設定者」にこれを含めてしまっている。
- 396条が債務者及び抵当権設定者のみに関する規定とする説
- 397条は第三取得者が、抵当権の登記がない抵当不動産を取得して抵当権の存在につき善意無過失で10年間占有すれば抵当権の消滅時効を援用するのを認めた。また抵当権の登記があれば抵当権の存在について悪意又は有過失であるから抵当権付きの不動産として時効取得し消滅時効は援用できない。(設例は場合分けが必要である)
- 397条の「時効」は消滅時効ではないのにそう解してしまっている。
- 第三取得者が抵当不動産の所有権を時効取得した時に取得時効の反射的効果として抵当権が消滅すると考えていない。
参照条文
編集判例
編集- 抵当権設定登記抹消登記手続請求事件(最高裁判決 平成15年10月31日)詳細は民法第144条の記事を参照。
- 取得時効の援用により不動産の所有権を取得してその旨の登記を有する者が当該取得時効の完成後に設定された抵当権に対抗するためその設定登記時を起算点とする再度の取得時効を援用することの可否
- 取得時効の援用により不動産の所有権を取得してその旨の登記を有する者は,当該取得時効の完成後に設定された抵当権に対抗するため,その設定登記時を起算点とする再度の取得時効の完成を主張し,援用をすることはできない。
- 第三者異議事件(最高裁判決 平成24年3月16日)民法第162条, 民法第177条
- 不動産の取得時効の完成後,所有権移転登記がされることのないまま,第三者が原所有者から抵当権の設定を受けて抵当権設定登記を了した場合における,再度の取得時効の完成と上記抵当権の消長
- 不動産の取得時効の完成後,所有権移転登記がされることのないまま,第三者が原所有者から抵当権の設定を受けて抵当権設定登記を了した場合において,上記不動産の時効取得者である占有者が,その後引き続き時効取得に必要な期間占有を継続し,その期間の経過後に取得時効を授用したときは,上記占有者が上記抵当権の存在を容認していたなど抵当権の消滅を妨げる特段の事情がない限り,上記占有者が,上記不動産を時効取得する結果,上記抵当権は消滅する。
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