民法第396条
条文
編集- 第396条
- 抵当権は、債務者及び抵当権設定者に対しては、その担保する債権と同時でなければ、時効によって消滅しない。
解説
編集「その担保する債権と同時でなければ、時効によって消滅しない。」とは、被担保債権の時効消滅と同時に抵当権の消滅を主張することができるという意味であるが、この条文の趣旨は、
- 抵当不動産の第三取得者や後順位抵当権者の場合に消滅時効を認める説
- 本来、原則通りであれば抵当権は民法第166条2項で、被担保債権が時効消滅していなくとも20年経過すると消滅時効によって消滅するが、これの援用権者について、債務者または抵当権設定者が認められない、というのが396条の趣旨である。起草者の梅謙次郎がそう述べている。従って債務者または抵当権設定者以外の、抵当不動産の第三取得者や後順位抵当権者は抵当権の消滅時効を援用することができる。抵当不動産の第三取得者については被担保債権の消滅時効を援用することができるが、被担保債権の時効が更新(改正前:時効の中断)されても抵当権の消滅時効を援用することができる。これが判例(大判昭和15年11月26日民集19巻2100頁)である。
- 抵当権者は被担保債権も抵当権も時効を更新せざるを得ないが、抵当権の時効を更新する手段が抵当不動産の第三取得者や後順位抵当権者の(先順位)抵当権承認をまつぐらいしかない。
- 抵当権の時効更新の方法として民法第290条類推適用が提案されている。
- 債務者及び抵当権設定者のみに関する規定とする説
- 改正前フランス民法2180条は債務者が占有したままの場合についてしか述べておらず、その場合に附従性で消滅すると書かれている。396条はこのような趣旨でしかない。そもそも抵当不動産の第三取得者が抵当権の消滅時効を援用するのは396条ではなく397条によってであると解釈する。
- 397条は消滅時効ではなく取得時効による原始取得で反射的に抵当権が消滅することを定めていることに矛盾する。また、397条で第三取得者に取得時効の援用を認めないのが判例である。
参照条文
編集判例
編集- 土地根抵当権設定登記抹消登記手続(最高裁判例 平成7年3月10日)民法第147条
- 物上保証人が債務者の承認により被担保債権について生じた消滅時効中断の効力を否定することの許否
- 物上保証人は、債務者の承認により被担保債権について生じた消滅時効中断の効力を否定することができない。
- 建物根抵当権設定仮登記抹消登記手続請求事件(最高裁判決 平成30年2月23日)旧民法第167条,破産法第253条1項本文
- 抵当権の被担保債権が免責許可の決定の効力を受ける場合における当該抵当権自体の消滅時効
- 抵当権の被担保債権が免責許可の決定の効力を受ける場合には,民法396条は適用されず,債務者及び抵当権設定者に対する関係においても,当該抵当権自体が,(旧)同法167条2項所定の20年の消滅時効にかかる。
- 免責許可の決定の効力を受ける債権は,債権者において訴えをもって履行を請求しその強制的実現を図ることができなくなり,上記債権については,もはや民法166条1項(改正前「消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する。」)に定める「権利を行使することができる時」を起算点とする消滅時効の進行を観念することができないというべきである(最高裁判決平成11年11月09日)。このことは,免責許可の決定の効力を受ける債権が抵当権の被担保債権である場合であっても異なるものではないと解される(※)。
- 民法396条は,抵当権は,債務者及び抵当権設定者に対しては,被担保債権と同時でなければ,時効によって消滅しない旨を規定しているところ,この規定は,その文理に照らすと,被担保債権が時効により消滅する余地があることを前提としているものと解するのが相当である。そのように解さないと,いかに長期間権利が行使されない状態が継続しても消滅することのない抵当権が存在することとなるが,民法が,そのような抵当権の存在を予定しているものとは考え難い。
- 抵当権は,(旧)民法167条2項(現・第166条)の「債権又は所有権以外の財産権」に当たるというべきである。
- 抵当権の被担保債権が免責許可の決定の効力を受ける場合の抵当権自体の消滅時効期間は被担保債権の種類に応じて5年(商法522条 注:廃止削除)や10年(民法167条項)である旨をいうが,そのように解することは,上記の場合にも被担保債権の消滅時効の進行を観念するに等しいものであって上記※と相いれず,また,法に規定のない消滅時効の制度を創設することになるものであるから,採用することができない。
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