民法第711条
条文編集
(近親者に対する損害の賠償)
- 第711条
- 他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対しては、その財産権が侵害されなかった場合においても、損害の賠償をしなければならない。
解説編集
不法行為責任の特別規定である。生命を侵害する不法行為が発生した場合において、近親者について発生する損害賠償(遺族の慰謝料請求権)権について規定している。条文上、近親者の範囲は「被害者の父母、配偶者および子」とされている。
本条の要件は判例法理によって拡張されつつある。
- 生命侵害以外への拡張
- 被害者が負った重い後遺障害によって、被害者の母親が生命侵害にも等しい精神的苦痛を受けたケースで、本条の慰謝料請求権を認めた判例がある(慰藉料、損害賠償請求最判昭和33年8月5日民集12-12-1901)。
- 近親者の範囲の拡張
- 被害者の夫の妹が、被害者の全面的庇護の下に生計を維持していたケースで、本条の慰謝料請求権を認めた判例がある(最判昭和49年12月17日民集28-10-2040)。
また、第710条所定の慰謝料請求権(被害者本人について発生)が、生命侵害の場合に、死亡した被害者の相続人に相続されるかが問題になる。かりに相続されるとすれば、1.被害者が死亡前に損害賠償請求の意思を表示していたことを要するか否か、2.被害者に縁故の薄い相続人が突然多額の賠償金を相続することは公平か、が問題となる。
関連条文編集
関連判例編集
- 損害賠償請求、同附帯控訴(最高裁判決 昭和42年6月13日)
- 慰藉料請求(最高裁判決 昭和42年11月1日)民法第710条
- 不法行為による慰藉料請求権は、被害者が生前に請求の意思を表明しなくても、相続の対象となる。
参考文献編集
- 加藤雅信『新民法体系5(第2版)事務管理・不当利得・不法行為』260頁、275頁
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