気象予報士試験/予報業務に関する一般知識
この記事では、学科試験のうちの「予報業務に関する一般知識」について解説します。大気・降水・気象現象・気候変化などの気象学的知識を問います。なお、同時に出題される気象予報士に関する法律については、次の記事で解説するものとします。
大気の構造
編集外気圏 (800km-) |
熱圏 (80km-800km) |
中間圏 (50km-80km) |
成層圏 (9/17km-50km) |
対流圏 (0km-9/17km) |
(地表) |
はじめに、地球大気の構造について説明します。
地球大気は、下から順に、対流圏・成層圏・中間圏・熱圏という4つの層からできています。この構造を、大気の鉛直構造と呼びます。
各圏同士の境界を、圏界面と呼びます。対流圏と成層圏の間は対流圏界面、成層圏と中間圏の間は成層圏界面、中間圏と熱圏の間は中間圏界面です。つまり、圏界面の下の層の名前を用いています。
対流圏では、高度が上がるほど気温が低くなります。しかし、成層圏では、オゾン層による紫外線の吸収により、上に行くほど高くなります。中間圏では再び高度の上昇とともに低くなりますが、熱圏では、また上のほうが高くなります。
高度が上がるに従って気温が下がっていく割合のことを、気温減率といいます。対流圏では、1000m上がると約6°C下がります。よって、対流圏の気温減率は、
6°C/km
または
0.6°C/100m
のような式で表されます。
対流圏では、空気の対流運動が常に起きています。地表が日射による太陽熱で暖められると、そこから地表付近の空気に熱が伝わり、暖められます。暖められた空気は軽くなり、上昇します。上空では、空気が冷やされ、また重くなった空気が下降します。このように、空気が上昇・下降を繰り返している状態が空気の対流運動です。
成層圏、中間圏はまとめて中層大気と呼ばれ、長らくの間活発な運動はないだろうといわれていました。しかし中層大気にはブリューワ=ドブソン循環という大きい循環があることや、成層圏においては突然昇温、準2年周期運動などの運動があることが20世紀になってわかってきました。オゾン層による太陽紫外線の吸収により空気が暖められます。オゾン密度の極大は25キロ付近にあります。しかし気温の極大は50キロ付近にあります。これはオゾンが酸素原子と酸素分子からできることに関係します。
熱圏における温度上昇の原因は分子が太陽の紫外線を吸収することによる電離です。1000ケルビンまで温度が上がる部分もあり地上より暑いと思われがちですが実際は衝突する原子の数が少ないため実際に人間がそこまで行っても熱く感じません。
大気の熱力学
編集対流圏と成層圏で、大気全体の重量の99.9%を占めます。10hPaの高度はおよそ30,000m~32km付近で、1hPaの高度は約48km~50km近辺です。1ニュートンは、1kgの質量の物体に1ms-2の加速度を生じさせる力なので、気圧の次元は、
M・L−1・T-2
で表すことができます。理想気体の状態方程式は、気圧p ・熱力学温度T ・密度ρの関係を示し、
p = ρRT
です。R は気体定数を指します。絶対温度の単位はケルビンで、
℃ + 273.15
の式で求めることができます。空気塊の内部エネルギーは、その絶対温度に比例します。外から熱量を与えれば、内部エネルギーは増えます。空気塊が断熱的に膨張した場合は、内部エネルギーは減ります。定積比熱の外からのエネルギーはすべて温度上昇に使われるので、定積比熱は定圧比熱より小さくなります。水の分子量は18、乾燥空気の分子量は約29、酸素の分子量は32です。
温位はθの略号で表され、1000hPaへ乾燥断熱的に変化させたときの空気塊の温度(単位:K)です。非断熱変化のときは温位が保存されません。凝結熱を放出したら温位は上がります。気圧が等しいときは、温位と温度が比例します。
飽和水蒸気圧は、温度が上がるほど高くなり温度依存性があります。ほかの要素とは無関係です。相対湿度は、その温度における飽和水蒸気量に対する水蒸気量の百分比のことで、
水蒸気圧 / 飽和水蒸気圧 * 100
という式でも計算できます。 乾燥空気に対する水蒸気量の比率のことを混合比といいます。混合比は、水蒸気の分圧をe、大気圧をpとしたとき、
0.622・e/p
となります。断熱過程においては、水蒸気の凝結などがない限り混合比は変化しません。比湿は、湿潤空気の単位質量に含まれる水蒸気の質量です。1立方メートルあたりの水蒸気の密度は、
比湿[g/kg] * 湿潤空気塊の密度[kg・m-3]
で求められます。ある面積に1秒当たりに出入りする空気の体積は、
風速[m/s] * 面積[m2]
で求めることができます。 ゆえに1秒間に増減する水蒸気の質量は、
密度[gm-3] * 1秒あたりの容積[m3/s]
で計算します。立方体内の空気量や水蒸気量がマイナスであれば、質量保存の法則により立方体の中へ流入が起こります。
大気の成層が安定なときは、高度とともに温位が増えます。大気の成層が不安定で、気塊の温度が周囲の気温より高いと、その空気塊は上昇します。未飽和の湿潤気塊の断熱減率は乾燥断熱減率で、等飽和混合比線との交点である持ち上げ凝結高度(雲低高度)に達すると飽和し凝結し始めます。そこからさらに空気塊が上昇するときの断熱減率は湿潤断熱減率です。気温が湿潤断熱減率で下降するときは露点温度も同様に減ります。
降水過程
編集水蒸気が凝結することによって水滴ができます。凝結するとき、水滴表面が潜熱で加熱されその飽和水蒸気圧は大きくなります。小さい水滴は急成長しますが、時間がたつと水滴の大きさの差がなくなってきます。雲粒の場合の落下の終端速度(η:空気の粘性係数、r:雲粒の半径、g:重力加速度、ρ:水の密度)は、
2ρr2g/9η
で、半径の2乗に比例します。厳密には浮力が加わりますが、無視できます。
氷晶核は氷晶を促成させる働きがあり、粘土鉱物や黄砂などがあります。清浄な空気中でも気温が-40℃以下になると過冷却水滴はすべて氷晶になります。氷晶はまず水蒸気の昇華凝結による成長をします。過冷却雲に過冷却水滴と氷晶の両方があるとき、氷面に対する飽和水蒸気圧の方が水滴に対するそれより小さくなるため、氷晶の方がよく成長します。雲粒の数が減ることによって雪になります。雪の結晶の形は温度や湿度によって変化します。雪に過冷却水滴が衝突すると霰(あられ)ができます。
晴天で風が弱い夜間は放射霧が発生しやすいです。暖湿気が冷たい海面や地面に移流すると移流霧が生じやすいです。水面から蒸発する暖かい水蒸気が冷たい空気と混ざると蒸発霧がおきやすいです。湿った空気が山の斜面を滑昇すると滑昇霧が形成されやすくなります。
大気における放射
編集黒体の絶対温度が上がるほど、その放射強度の最大波長は短くなります。 太陽放射と地球放射がつり合い、地球の温度が変化しない放射平衡の状態のときの温度を放射平衡温度といい、大気圏外で観測されます。放射平衡温度は太陽と地球の距離、およびアルベドに依存します。地球の放射強度が最大になる波長域は、遠赤外線である約11µmになります。
8~12マイクロメートルの波長域は大気の吸収が少なく、大気の窓と呼ばれています。大気の赤外放射による温室効果のため、地球表面の平均温度の方が放射平衡温度より高くなります。大気中の水蒸気が多ければ、長波放射量も増えます。
レイリー散乱の強度は、波長の4乗に反比例し、入射光に直角な方向では散乱の強度が小さくなります。ミー散乱の強度は波長にあまり関係がありません。主虹の外側は赤色です。波長が長いほど屈折率は小さくなります。
大気の力学
編集コリオリの力は動いている物体に対して働いているように見える力のことで、速さを変えることはありません。北半球では気塊の進行方向に対して直角右向きに働きます。南半球では逆に左方向へ働きます。大規模な水平運動での空気塊の加速度は無視できます。
地衡風は、気圧傾度力と転向力が釣り合って吹きます。風向は等圧線に平行で、風速は高緯度ほど弱くなります。傾度風は、気圧傾度力・コリオリ力・遠心力が釣り合って吹きます。旋衡風は気圧傾度力と遠心力が釣り合って吹く、旋衡風バランスが成り立ちます。竜巻などが該当します。
層厚は温度に比例し、低緯度側は厚く、高緯度側は薄いです。偏西風帯の風速分布は、高度と共に西風が強くなります。温度風は上下層の地衡風のベクトル差のことです。等温線に平行で北半球では暖気側を右にするので、上層に向かって風向が時計回りになる場合は暖気移流になります。風速シアの単位はs-1なので次元は、
M0L0T-1
です。温度移流量は、V:風速、ΔT:温度差、Δn:距離 のとき、
V * ΔT / Δn
の式で表され、符合が負なら寒気移流、符号がなければ暖気移流であると見なされます。
地上風は摩擦の影響を受けているので等圧線を横切ります。大気境界層において地面よりも海面の方が摩擦が少ないので強い風が吹きます。対流が盛んになると気温の鉛直分布が乾燥断熱減率の温度勾配になります。昼間は夜間に比べ成層が不安定なので日中の方が風が強いです。接地(境界)層には、平均風速の対数分布と呼ばれる高度による風速の増加があります。また、乱流により、運動や熱などの鉛直輸送量が一定に見なせます。自由大気は、摩擦の影響がなく地衡風が吹きます。接地層と自由大気の間にある大気は、エクマン(境界)層と呼ばれています。
惑星渦度はコリオリパラメータと同じです。相対渦度は風の水平シヤーや曲率によります。惑星渦度と相対渦度の和を絶対渦度といい、一定の値に保存されます。鉛直渦度は、
Δv/Δx − Δu/Δy
で計算され、Δuは東西成分の風速差で、Δvは南北成分の風速差、Δxは東西方向の2点間距離、Δyは南北方向の2点間距離です。
気象現象
編集低緯度では地球で吸収される太陽放射エネルギーが地球放射エネルギーを上回りますが、高緯度では逆になります。
寒冷低気圧は上層ほど低気圧です。温帯低気圧の発達は、位置エネルギーが運動エネルギーに変換されることにより行われます。前面では暖気移流での上昇、後面では寒気移流による下降があります。温帯低気圧の温暖前線において層状性の降水雲は、暖気が冷気の上に滑昇することで発生し、前線性の転移層(逆転層や等温層など)を形成します。その寒冷前線に伴う寒気は水平移流によって地上にやってきます。 寒冷高気圧は背の低い高気圧で、温暖高気圧は背の高い高気圧です。 熱帯収束帯には貿易風が吹き込んでくるので降雨帯になります。亜熱帯域には亜熱帯高圧帯があるので、乾燥地帯です。偏西風帯では水蒸気の輸送により降水量は多めです。海上の方が蒸発量が多く、陸上では降水量の方が多くなります。 年平均降水量は約1,000ミリメートル、大気中に水蒸気が滞留する日数は10日ほどになります。
個々積乱雲は下降流が上昇流を阻むので、その寿命は数10分から1時間ほどです。降水セルの世代交替は、積乱雲の下降流と下層の一般風が収束することによって起こります。
成層圏オゾンは、低緯度地域の成層圏で作られ輸送されます。成層圏では冬から春先にかけて突然昇温することがあります。赤道付近の成層圏下部では西風と東風が交代する準二年周期振動があり、その変動は上層から始まります。
気候の変動
編集東部太平洋赤道域の海面水温が平年より高くなることをエルニーニョ現象といいます。そのため西部太平洋の暖水域と対流活動域が東に移ります。なので東南アジアやオーストラリアでは少雨や干ばつになりやすくなります。
二酸化炭素濃度は18世紀後半から19世紀の前半にかけて増加し始め、この100年では顕著に増加しています。メタンも温室効果ガスですが、その効果は二酸化炭素の1/3ほどです。中緯度の二酸化炭素濃度は春先に極大になり、秋口に極小になります。水蒸気には二酸化炭素以上の温室効果があるのですが、地表面の温度によってよく濃度が変動するので削減の対象にはなっていません。対流圏オゾンは、二酸化炭素・メタンに次ぐ温室効果気体です。温暖化で雪氷面が減るとアルベドも減ります。
都市域は植生のある面積が小さく蒸発が減るので、潜熱の輸送量も少なくなります。都市域は夜間の気温が高いので、放射冷却による接地逆転層ができにくいです。なので放射冷却が起きやすい条件の時には郊外との気温差が顕著になります。